叶匠寿庵の大好きな「あも」は、「丹波大納言小豆」で作る美味しい餡のお菓子だが、この「あも」は「あ+餅」の女房詞だそうだ。

羊羹にペットボトルの麦茶かな

 

女房達が勤める宮中では、例えば「腹減った(ひだるし)」などと見苦しいことは言えないので、「ひもじ」すなわち「ひ文字」と符丁で話した。「おすもじ」がお寿司を指すような具合に、「文字」と付けることで不埒な言葉を婉曲表現したのだろう。

 

また女房詞には「お」の付く言葉も多く、我等庶民の日常生活にも入り込んでいる。

おかず(御菜)はお惣菜を数々揃えることかららしいが、おじや(雑炊)の語源は不明だそうだ。その他、おにぎり、おはぎ、おひや等々相当数ある。

 

お目もじの叶ふ日しるす初暦 佳子

母の若いころの句だが、この「おめもじ」も女房詞。。

注;記憶が曖昧で「しるす」は誤りかもしれない。会いたいね

 

 

そこで本題だが、ルリフタモジが5月のウォーキング途中に、公園脇のフェンスに息苦しそうに咲いていた。女房詞で「一文字」は葱、「二文字」は韮を指すが、そのフタモジ。

夏草や溝を跨いで向かふ岸

 

ルリフタモジの名は花の色の瑠璃と、葉が韮(二文字)に似ていることに由来する。その葉は傷つくとニンニクの様な強い香りがあるそうだが、嗅ぎそこなった。

花の印象は可憐さに欠ける気がしたが、葉が密集しているのでそう感じたのかもしれない。

瑠璃色の花は気怠し夏の風邪

 

漢字で書けば瑠璃二文字だが、ヒガンバナ科の帰化植物だとか。なんとなくごつくて異国の気配だったのはそのせいかも。

色合いは好きで、紫(がかった桃色?)は江戸紫よりも京紫に近く見える。

野の花の色は紫蝉時雨

 

ネットからお借りした韮の花は白く、花弁は3枚+(ほう)3枚で花弁が6枚の如く見えるので、漏斗形の花が先端で6個に割れる瑠璃二文字の花とは異なるようだ。それなのに葉の形状はよく似ている。

早起きの体操クラブ韮の花

 

葱が「一文字」のワケは、葱を「キ」と一文字で呼んでいたからで、韮は「ニラ」と二文字で呼ばれたらしい。宮中では匂いの強いものは刺激が強すぎて、表向き避けられたのかもしれない。「不許葷酒入山門」(葷酒山門に入いるを許さず)は修行のためだけど、内裏は穢れを避けたか。

 

時折、韮と間違えて水仙を食べての中毒がニュースになるが、野にあると花の無い状態で且つ葉の長さが同程度なら両者は見分け難い。見分ける方法は、葉を裂いて特有の匂いを確認すればいいそうだが、匂わないから毒だなどとその時思えるかな。

水仙やこの一年を息災に

 

ヒメヒオウギスイゼンは葉の幅が少し広い。漢字では姫檜扇水仙と書くらしいが、姫扇水仙ヒメオウギスイセンとしたら麗しき名なのにと残念だ。

姫檜扇水仙火事を出した家

 

季語水仙翁スイセンノウは当て字で、水仙とは似ても似つかない。正しくは花の赤が酒酔いの赤として酔仙翁と書く。撫子の仲間で紅梅草やフランネル草とも呼ばれる。

月次(つきなみの)(まつり)の仕度酔仙翁