山本健吉基本季語五〇〇選講談社学術文庫版仲春から、「は」を書き出してみたところ29句あったので、他所から持ってきた汀女の1句を足して30句とした。統計上は29句のまま。

 

今朝の雪柳

 

(名詞に付く)

雪なだれ妻は炉辺に居眠れり 素堂 

啓蟄やふさぎの虫は老いもせで  柯城 

たましひの郷愁鳥は雲に入る 草城

鳥雲に身は老眼の読書性 たかし

鳥雲に若さは未知を怖れざる 汀子

引鴨や網走川は水捲ける 幸夫  

げっそりと雁はへりけりよしず茶屋 一茶

榛芽ぶく心は湧くにまかせたり 綾子 

紅梅や枝枝は空奪ひあひ 狩行

10水の面の日はうつりつつ菖蒲の芽 素逝

11川しまやつばな乱れて日は斜め 闌更

12春蘭や尼に眉間の皺はなし 静塔

13春蘭や男は不意に遺さるる 晴子

14鯉ゆけば岸は明るく水温む 青邨

15きさらぎの雲は白しや西行忌 五十嵐古郷

17土筆摘む野は照りながら山の雨 青峰

(連体形に付く)

17草の芽のいまかがやくは命かな 康治

18春蘭や耳にかよふは竹の雨 草城

19草の門ひらかれてあるは西行忌 秋櫻子

このように「は」はその付く言葉を「この後で解説をする」と宣言する。

比率的には19/29なのでざっと7割はこのように使われていた。

 

 

その他に、主題を示さない「は」もあった。

(強調)

20おもひでのあれば水草かくは生ふ 鷹女

21しばらくは雪解の音にかこまるる 楸邨

22鳥雲に入るここよりは日本海 耕二

23これよりは恋や事業や水温む 虚子

(区別)

24夜は月の暈の大きく水温む 眸

25花の下は花の風吹き西行忌 古郷

2割は強調区別のいわばピックアップに使われるので、無くても意味は通じる。

 

(格助詞に+係助詞は)連語 「…には」

26山辺には楤の芽を摘む彼岸かな 白雄  

断定なり+係助詞はの場合は、意味は「…では」となる。

例;ばら剪つてすでに短命にはあらず 寺田京子

 

(接続助詞て+係助詞は)…の状態では

27つくづくしほうけては日の影ぼふし 召波

 

(接続助詞て+係助詞は)反復

28負ふた子に蕨をりては持たせける 暁台

 

 

29紅梅や熱はしづかに身にまとふ 汀女

この纏ふ(まとふ)は自動詞で、「熱」に少し迷った。

例;枯色にカナリア少年熱の中 金子皆子 の熱にも迷うが、熱とは熱気とか情熱のようなものより発熱の熱とした。少年の後ろに「は」を足して読んだ。

「熱をしづかに身にまとふ」と他動詞に使うより強調が効くということなんだろうか、風邪ひいてかったるいとかで…。纏ふの意味は纏わりつくとでもしておこう、あるいは「まとふべし」なのかも。

 

30糸桜夜はみちのくの露深く 汀女 夜を強調し殊更に示しては恋の夜かも。みちのくへ旅に出て、夜更けて糸桜を濡らす夜露に高ぶる心を抑えきれない。

 

旅に病んで夢は枯野をかけ廻る 松尾芭蕉 では、夢そのものがかけ廻っていると解するのは文法的には一般的でムリは無いが、字余り「旅に病んで」と殊更に強調した心を汲めば、百代の過客たる人生の最晩年にその旅のさ中に倒れ、「病んで夢うつつに見た夢では」と強調の「は」として解する。そこをかけ巡るのは当然、若き日の自分ではなく病み衰えた自分なのである。

 

余談;

外にも出よ 触るるばかりに 春の月 汀女 こんな感じにさらりとご自分を見せて下さる方なので、30や

秘め事のごとく使へる扇かな 汀女 

春暁や今はよはひをいとほしみ 汀女 などと女の凄みを感じさせる句には感動する。

 

沈丁花は盛りで良い香り