良いことがあった日はお祝いされるべきと、20年寝かしたワインを開けた。
半量のdemiなので熟成が進み過ぎていないか心配だったけど、杞憂であった。
残る雪古きワインの馥郁と
フランスのアルザス地方のゲヴュルツトラミネールと呼ばれる品種のワインは、独特の香りが個性的だし、価格的に高すぎることもなく、辛口に作ってもいくらか甘みを感じるところが我ら庶民受けするワインで、時折楽しんでいる。
このゲべと略される品種は遅摘みされて愛称タルディとなるが、寝かせることつまり貯蔵することが可能で、なおかつ結果的により豊かなワインに変化することが期待される。なので、この貴腐ワインをセラーの隅に長く育んでいた。
さて開けようかとしたとき、抜栓が非常に難しかった。良い経験になった。
このタルディはキャップシールを剥がすと、コルク栓の真上を蝋が覆っていたのだ。ソーテルヌでは経験が無かったのでびっくりしたが、製造者は長期保管を期待しているのだと得心した。最低5年、その後半世紀は質を保てるかもしれない。
蝋塗りの栓抜くワインと祝う春
ワインやスピリッツの蓋を蝋で密封することはよくあって、この1月に開けたヴィレクレッセViré-Clesséのちょいといい感じのワインも、定番の瓶口の外側が蝋で包まれて密封されていた。タルディはコルク栓を直接蝋が覆っていた。
春障子グラスに残る葡萄色
やっと抜き終えたら、香りが部屋に溢れかえってくれた。こってり上品に甘く濃厚な味わいで、色艶も美しく澄んでいる。
抜いたコルク栓は瓶の中へ向かって極端に太くなっていて、密封の為か。抜けにくかった原因はこれかも。二重に空気を遮断していたのだった。しかし、そのことがワインに与える影響の善し悪しはワカラン。
うれしさにワイン開くる夜沈丁花
取り出したコルク栓には白い結晶が付いていて、酒石酸と手短に呼んでいる酒石酸カリウムで、もともとワインに含まれる成分なので有害なものではなく、頻繁にみられる。無害とは言え一度も舐めてみた経験は無いが、もしかしたら酸っぱいのかも。
鳥帰るコルクを覆ふ白きもの
そんなワケで、嬉しいことがあった日は鰹の刺身でビールを飲んでから、そらまめを皮ごと摘みつつの共に過ごした20年を思いつつの2005のタルディを120㏄ほど楽しんだ。
肴にはならぬよ皿の豆の花
甘みに飽きたら取り分けておいた鰹の再登場で、一刻者のハイボールを晩酌にした。タルディも傍から離れないけど。
久しぶりの鰹はプリン体たっぷりで美味しかった。帰りがけに途中下車して見繕って来たのだけど、たまに羽目を外さないとメランコリーになっちゃうから良いのだ。
春の宵三種の酒を飲み分くる
程よく酔って席を替えて、晩飯は冷凍の鰻を家内に上手に戻してもらって、至福の夜となった。
春月やかば焼きに合う白ワイン
鰻の甘めのタレと合いそうと、60㏄ほどのタルディを注ぎ足した。まことに良いワインナリ。
普段着のままにワインの春夕