では新聞二紙より

東京新聞20220718

 

※ヘルマン・ファン・ロンパウ(Herman Van Rompuy 1947年10月31日 )さんはベルギーの首相をされた政治家で、フラマン系キリスト教民主党所属です。

 

『欧州連合(EU)初代大統領で、俳句愛好者として知られるヘルマン・ファンロンパイ元ベルギー首相(74)が来日し、ロシアの侵攻を受けるウクライナに寄り添った英語の俳句を本紙に寄せた。政治家や俳人としての信念である「調和」を破った侵略者への憤りと、平和への願いが込められている。(林啓太)』

 

A sunny wheat field

Strewn with senseless death //

Hungry for peace

 

Hungry for peace が復本一郎先生の仰る飛躍(ひやく)切部(せつぶ)です。

 

麦畑の陽に意味無き死和を求む ヘルマン・ファンロパイ

翻訳木村聡雄国際俳句交流協会理事と林啓太

senseless deathを『意味無き死』とするのは誤訳で、これは(しかばね)とすべきかと。

屍の麦畑に散る平和欲し あき坊訳

 

日盛や戦友担ぐ麦畑 あき坊

私の俳句ならsunnyに焦点を当て、hungry以下は詩の下に潜り込ませます。

 

 

20220809火曜日読売新聞文化欄

【初代EU大統領「HAIKU」を語る】と題した小論が掲載され、副題に「俳句は思索の材料を与えてくれる」とあります。

 

ヘルマン・ファンロンパイ氏は『俳句の国連教育機関(ユネスコ)無形文化遺産への登録を目指す国際俳句交流協会(HIA)などの招きで7月に来日』されましたが、この小論では「俳句はハーモニー」分断、不寛容と対極と要約されています。

氏は『俳句は現代社会の抱える問題への一つの答えでもある』との立場から、『俳人は周囲の自然や他者に敬意を払い、対象を注意深く見つめ、たった十七音の詩に昇華させる』としています。

 

『俳句はハーモニー(調和)を大切にしている。妬みや欲、対立とは相いれません』との説は東京新聞と同様で、その見解には異和感があります。

 

A lovely summer

Injured by cannons //

Life stronger than death  ヘルマン・ファンロパイ

 

砲撃の夏も生は死より強し

文化部松本由佳の署名記事なので、HAIKUの訳もこの方か。

 

生は死より強しと直訳して且このフレーズに惚れてしまうと、飛躍(ひやく)切部(せつぶ)が曖昧になって俳句にもHAIKUにもならない。

俳句としてはThe pen is mightier than the sword.を直ちに連想させる二項対立的な発想に抵抗があり、そこから導かれるthanにそもそも異和感を感じるのかもしれない。

 

砲弾の破壊する夏生き延びよ あき坊訳

 

夏雲や弾丸尽きし兵の列   あき坊  

 

 

脇道ですが、俳句とは何かと考える一助に

「(坪内念典氏は)『俳句性の問題は徹頭徹尾形式の問題』とした草城の考えに欠けているのは、『形式が即ち内容となるという定型詩のもっとも根源にある働き』の認識(定型論)だと言う。」「坪内の言う定型論とは、五七五、あるいは五七五七七という音律に詠もうとする事柄を当てはめて詠むのではなく、その音数律によってしか表現しえないものを詠むことであり、それこそが『形式が即ち内容となる』こと」

戦争俳句と俳人たち 樽見博より孫引き

 

よくよく納得できますが、翻ってミヤコホテル日野草城にも感動します。

夜半の春なほ処女(をとめ)なる妻と居りぬ 

いよいよ新妻と結ばれようとする新郎の緊張感さえ伝わって来ます。

 

HAIKUを考える時、上記二句に於いて『A sunny wheat field』『 A lovely summer』と形容し限定するのは、共通了解としての季語が意味を失っている国際俳句HAIKUでは避けられない。

『季語が国際性を獲得しえないと』しても、ヘルマン氏が無季へ向かわず季節に拘りをお持ちだとしたら、そしてそれがHAIKUの方向性を示すのであれば、個人的にうれしいです。

第一回国際俳句シンポジウム1999(平成11年)の季題の無いHAIKUから、ここまで到達したと言うことでしょうか?

やがて『A lonely wheat field 』とか『An empty summer』となる日が来るかも、いやすでに来ているかも。

 

で 先ほどの異和感ですが、俳句に調和やハーモニーを見出されたファンロンパイ氏がフラマン系キリスト教民主党に属されていることには注意が必要で、天動説と同根の思想があるかも。

人は見たいものを見たいように見る性癖があるので、俳句に調和を見出しそこに留まるかもしれない彼に若干の異和感を感じます、、杞憂でしょうけど。

 

また海外進出を速める伊藤園の「お~いお茶新俳句大賞」は、俳句をユネスコ無形文化遺産に登録されることを推進する「俳句ユネスコ無形文化遺産推進協議会」に協力していくことを決定したそうです。

 

伊藤園へのヘルマンファロンパイ氏よりのメッセージには『自然との調和』と書かれていて、(宗教的な)調和やハーモニーは避けられています。

『俳句活動への支援については、各文化団体からと同じように、経済界からも協力を得ることが大切です。

伊藤園が「お~いお茶新俳句大賞」を、この30年間続けてくださっていることは賞賛に値するものです。俳句を世界に広めるパイオニアとしての役割を充分に果たしていただいています。その伊藤園が、今回「俳句ユネスコ無形文化遺産推進協議会」へご協力いただけると聞き、顧問として大変うれしく思います。

俳句は日本で生まれたものですが、世界レベルで共有する文化遺産になると思っています。俳句は人々にとって生きる活力となり得るものです。俳句は、自然に耳を傾け、周りを注意深く見て、心豊かに生きることを教えてくれます。あくせくしたこの世の中において、自然との調和をはかり、自分を見出すことは大切なことなのです。俳句はまさに人類と自然の営みに貢献しています。」

伊藤園の俳句活動へのご理解とご尽力に「俳句ユネスコ無形文化遺産推進協議会」を代表して感謝するとともに、益々のご発展を祈念して私のメッセージとさせていただきます。』

 

俳句の普及に伊藤園が貢献しているのは事実でしょうが、『世界レベルで共有する文化遺産』はHAIKUであって俳句ではありません。

(再掲)

日本語HAIKU

天へ

ほほえみかける岩より //

大陸始まる 夏石番矢

日本語で積極的にHAIKUを詠むとこうなるようです。

とても真似はできませんが。

 

(続く)