1時をまわり、彼が現れた。
2週間ぶりに見る顔。
隣に座るKさんが帰ってくれればと心の中で願うけど、
まだまだ帰らなそうだ。
彼はカウンターに座り、
常連客と飲んでいる。
そっと席を立ち、
彼の横に小さくなって座る。
「今日、何時まで?」
そう聞くと、
私の髪を、やさしく耳にかけるようなでながら、
「2時には出るよ」
自分の席に戻り、またKさんと話す。
さっきまであんなに楽しく話していたのに、
もう会話に集中できず、
心がざわめいているのが分かる。
心が痛い。
私とKさんも、カウンターの彼の横に移動し、
マジックを見ながら、笑い合う。
マジックのタネ明かしをしようと、
必死に技を盗もうとする彼を、
愛おしく感じてしまう。
3時をまわり、
Kさんが席を立った。
やっと、二人きりの時間。
あんなに会いたくて、
話したかったのに、
うまく言葉を紡げない。
4時を過ぎ、
「もうそろそろ、オレ、行くわ」
一番聞きたくなかった言葉が胸を刺す。
「そうだね、私も帰る」
早く家に帰って、
一人で泣きたい。
コートを羽織り、バッグを手にすると、
「送っていくよ」
と、1階まで一緒に来てくれた。
タクシーを止めようとすると、
「キスしていい?」
「キスだけじゃなく、朝まで一緒にいてよ」
言葉にならない思いが、
胸の中をこだまする。
ビルの陰に隠れ、
優しいキスを繰り返す。
背の高い彼に、
背伸びをして抱きつき、
ずっと触りたかった彼の体を抱きしめる。
忍び込んでくる舌。
体を愛撫する大きな手。
厚い胸。
どうしてこんなに愛おしいんだろう。
コートのジッパーを開け、
ワンピースの下から、
彼の手が入って来る。
脚、
お腹、
背中。
大きく、温かい手が、
私の体を優しく撫でる。
ブラジャーのホックを外し、
胸を温かく包む。
外だということを忘れて、
声が漏れた。
彼の体が、
硬くなっていく。
「もっと、いちゃいちゃしてたいね」
優しいまなざしで彼が言う。
「一緒にいたい」
思わず、本音が出る私。
「でも、今日はどうしても無理なんだ。
来週、また会おう」
「じゃ、あと10秒だけ」
彼の胸に顔をうずめる。
また、彼の手が愛撫を始める。
離したくない。
行かないで。
でも、行かなきゃ。
そっと体を離し、
「来週、会おうよ」
と、再び彼が言う。
「いつ?」
「連絡ちょうだい」
「Mさんが連絡して。
きっと、Mさんの方が忙しいから」
「分かった」
タクシーを止め、乗りこむ。
彼が笑いながら手を振る。
彼が、遠ざかっていく。
タクシーの中、
ぼんやりとした頭で、
今の出来事を思い出していた。
彼の顔、
彼の声、
彼の体。
家に着くと、うずくまり、
この先のことを考えた。
どうしても手に入れることができない
「普通の幸せ」。
何度願っても、
他の男性へと心が移る。
一人をずっと愛せない。
大切にできない。
こんな自分が嫌で嫌で。
いつまでたっても愛せない。
生涯、一人身でいた方が、
周りを傷つけずに済むのに、
一人になることが怖い。
前にも、
後ろにも進めず、
ただただ後悔ばかりが頭をよぎる。
一体、いつになったら、
心は穏やかになるんだろう。
大切な人を、
大切にできる日が来るんだろう。
自分を、
ちゃんと好きになれるんだろう。
誰か、助けて。