今日、仕事から帰ってきたら、薄毛ちゃんの手が届かないはずの箱がぶちまけられていた。


既に中のものをいたずらしている。かーちゃんは夕飯の仕度をしていて気が付いていない。


まずい。何が入っているかわからないぞ。


急いでぶちまけられたものを見てみると、使用済みのボタン電池が1個出てきた。箱にボタン電池が何個入っていたか確証がない。電池の種類からすると1個だけのような気がするが、2個かもしれない。2個目はどこだ?!探したが見当たらない。


1個しかなかったと思いたい。このまま様子を見るか?いや、2個あって、1個を飲み込んでいたらどうする?ボタン電池は早急に対処しないとダメなはずだ。でも、本当に飲み込んだかどうかわからないんだぞ。飲み込んでいたとすればいつ飲み込んだのか、薄毛ちゃんは元気にしている。やはりしばらく様子を見るべきか。


考えが揺れる。そうだ、まずは冷静に対処を考えよう。ボタン電池は危ないということは知っていたが、具体的な対処方法がわからない。


PCを起動してネットで調べた。


使用済み電池なら便から排出されるのを待っても良い との見解もあるが、薄毛ちゃんが飲み込んだかもしれない電池は使用済みだったのか?それも確証がない。最悪の場合には死亡例もある 、ともある。


決まった。医者へ行こう。


電池ならレントゲンに映るはずだ。まずはそれだけでも調べるべきだ。


時間外で対応する当番医に電話をして事情を説明した。レントゲンで調べたいと言うと、そうするべきだと医者も言った。


車の中でかーちゃんに調べた内容を説明する。万一の場合は内視鏡で取り出せるらしい。しかし、その設備はこの地域にはないので、県庁所在地の病院まで行く必要があるらしいと。大丈夫だ、飲み込んでないよ。調べてもらおう。


薄毛ちゃんは、重たそうな鉛のエプロンを着た年配の女の看護士にだっこされてレントゲン室へと消えて行った。とおちゃんとかーちゃんは笑顔で見送った、つもりだ。分厚い扉の向こうで「かーちゃん、かーちゃん」と薄毛ちゃんが叫んでいるのが聞こえる。かーちゃんを安心させようと何か話をしようとしたが、しゃべったら泣きそうでできなかった。かーちゃんが隣で、涙がでてきたと言った。


レントゲンの結果、金属製のものは何もみつからなかった。


よかった。ほんとうによかった。


帰ってきて遅い夕飯にした。冷えたスパゲッティを温めなおした。おいしかったが、何か食べた気がしなかった。薄毛ちゃんはたっぷり食べた。


いつもより遅いお風呂、遅い就寝。


遅いだけで、いつもの日常が戻ってきた。よかった。