数年前、私が今の病棟に勤務交代になった頃のことです。
まだ、新しい病棟や仕事に慣れず、毎日毎日、無我夢中で働いていました。忙しくて本当に余裕のない毎日でした。

私の病棟では強力な化学療法をするため、その副作用でひどい吐き気で吐いたり、口内炎で口の中がとても痛くなったりする患者さんが多いのです。

かなりお年をとったおばあちゃんで、やはり吐き気でご飯も食べられず、薬も飲めなくなってしまった患者さんがいました。
病棟を替わってきたばかりの私は薬の重要性は分かっていても、『ご飯どころかお水も吐いてしまうのに、薬なんか飲めるわけないじゃない!』と心の中では思いながら、患者さんに何とか薬を飲んでもらおうとしていました。

ある時、病室に入ると、そのおばあちゃんの主治医が、ベッドに座っているおばあちゃんの横で背中を優しくさすりながら、薬を飲ましていたのです。
その光景を見た時、『あぁ、ここの病棟は患者さんの命を救うために、ここまでして、薬を飲んでもらわないといけないんだなぁ…』と心の底から感じました。
その先生は、身体も大きくて、優しくてくまさんみたいな先生でした。
「○○さん、辛いけど、飲まないと良くならないから頑張って飲もうね。」って言いながら、背中をさすっていました。

それから、私は患者さんが薬がどうしても飲めなくて、「こんなにしんどいのに飲める訳ないよ!」って訴える方にこの時のことを話すようになりました。
そうすると、ほとんどの方が、なんか分かってくれるのです。
「どうしても、飲まないといけないんだね…」
「そうですよ。白血球が少なくなっているから、薬で代わりに身体を守ってあげないと。」
「そうだね…」
そうして、あの時の先生を想い出しながら、背中を優しくさすりながら、そばで飲まれるのを待っています。

くまさん先生は患者さんだけでなくナースにも優しく接してくださいました。
新卒のナースが忙しくて、疲れていたり、落ち込んでたりすると、
「ひよこちゃん達、ご飯食べに行こう!」って誘ってくれてました。
ひよこでない私も新しく替わって来たということで付いて行ってました。
そこで愚痴言ったり、泣いたりして、いろいろ聴いてもらっていたと思います。
そうして、また先生に元気もらって、仕事してました。

今は違う病院で部長先生になられているけど、きっと今でも、薬の飲めない患者さんの背中をさすったり、ひよこちゃん達をご飯に連れて行ってあげてることでしょう。