『……風柱、様…。』
信じられないものを見ているような思いで。
緩々と身を起こし、枕元へ更に近づく。
『…どんだけ寝てたァ?
俺ァ…。』
心底怠そうに呟くと。
片腕を、布団から出して。
手の平を握ってみたり、開いてみたり。
それから、割と強めに舌打ちをした。
『…落ちてやがる…。』
おそらく、体力や筋力や、握力なんだろう。
『ひと月…。
ひと月、お休みになられて…。』
『…ひと月だァ?』
大きな眼をさらに剥いて、立ち上がろうと身を起こす。
『いけませんっ!』
案の定、体躯の平衡を保てずに、グラリと傾いた。
咄嗟に支えた身体が、思ったより、軽くて…。
クソ、と毒付き、また寝転がる。
『…良かった…。』
生きている。
死んだ様な顔をして、昏睡していたのが、嘘みたいだわ。
『…今は、お休みになられませ、後生ですから…。』
枕元に座って、そう懇願すると。
伸びた片腕が、私の着物の袖口を強引に引っ張った。
全然、落ちてないじゃない、腕力…!
とさりと、風柱様の上へ、倒れ込むような態勢になって。
結い上げていない髪が、御簾の様に乱れた。
『…てめェの…匂いか…。』
長い髪の一房を掴むと。
まるで、口づけでもするかのように…。
口元に寄せて、独り言のように呟く。
『…寝てる間。
ずっとこの匂いがしてた。
…桃かァ?』
『…藤です。』
毎日、焚き染める香の香りが。
着物や髪に、染み付いているのだろう。
『…お休みになられませ。
まだ、夜は明けておりませんもの。』
そう囁くと。
珍しく大人しく。
風柱様は、静かに眼を閉じたのだった…。
【藤花の契 ⑦へ続く】