恋に落ちた☆妄想女子 -6ページ目

恋に落ちた☆妄想女子

読んでも何の得も無し。



次の日からの、風柱様の鍛錬の凄まじさと言ったらなかった。


朝は日が昇る前から動き出す。


夜は屋敷の者達より、遅くまで動いている。


飽く事無くただひたすらに鍛錬に打ち込むその御姿を。


私は出来うる限り、傍で見ていた。


縁側に座って、眺めているのが、いちばん好き。


徐々に鍛え直され、仕上がっていく筋肉の美しいこと。


たまに、どこか痛むのか。


顔を歪めたりするから、心配で…。


でも、口を出す事はしなかった。


大丈夫よ。


大丈夫。


強いひとだもの。


心配に挫けそうになる心を叱咤して、ただ見守り続けて。


そんな日が続いていた、ある日の事だった。





『……刻返しの花…?』





いつも行く薬屋で。


店の主人が教えてくれた聞いた事も無い、花の名前。


『まさかね。


ホントの話だなんて、思っちゃいないけどねぇ。』


主人が、薬を調合しながら、続ける。


『何でも、この裏の山の奥の、崖っ淵に咲くそうだよ。


決まって必ず、雨の夜だそうだ。


白い花弁の、くちなしに似た花だって話だが。


…その花を煎じて飲むと、どんな傷でも、まるで、傷が付く前みたいに快癒するそうだ。』



『…傷が、つく前…みたいに?』



『だから、刻返しの花、なんだとよ。』


はいよ、と。


出来上がった薬を受け取りながら。


『…まぁ。


ずいぶんと長いこと、薬を買いに来てくれてるからねぇ、アンタ。


…そんなウソみてぇな花でもありゃいいのになぁ、なんて思ってよ。


俺も爺様から聞いた話しだ。


真に受けて探しに行く馬鹿が出たら世話ねえからな。


誰にも話した事は無かったんだけどよ。』





アンタを見てると、そんな与太話でも、信じたくなるんだよ…。





そう言ってくれた、人の良い主人に礼を告げ、店を出てからも。


考えるのは、その花の事ばかりだった。


…嘘よ。


そんな奇跡みたいな花、ある訳無いじゃない…。


ふるふると、頭を振って。


馬鹿な事を、と頭の隅に浮かんだ考えを打ち消す。



…でも。



…でもね。







…もし、本当にその花が咲いていたら…?







雑踏の中、立ち止まる。


視線を上げると。


暗く霞む、裏の山が見えた。


ぽつ、と。


見上げた私の頬に落ちて来た、水。


一粒、二粒。



…雨…。



…雨の夜に、…咲く花。



ざああぁっと、雨が一気に夕立になる。


帰らなきゃ、早く。


振り切るように、屋敷へと帰ると。


玄関先に、仁王様の様に。








風柱様が立っていた。








【藤花の契 ⑧へ続く】