恋に落ちた☆妄想女子 -5ページ目

恋に落ちた☆妄想女子

読んでも何の得も無し。




『…何してやがった。』



帰りが遅かったのか。


全身、びしょ濡れの私を見遣る。


二の腕を掴むと、強引な程の強さで、玄関先から引っ張り上げられた。


『ったくよォ…。


冷やすんじゃねェ。』


自分の着物の袂で、私を、頭から。


まるで犬か猫にでも、するように。


ゴシゴシと乱暴に拭き上げて…。



…優しいのよ…?



…このひと、こんな風に。



無意識に、優しいの。



だから、私は。



貴方の為なら、何でも出来る。





初めて、総てを捧げてもいいと思ったひと。





『…痛いですわ、風柱様。』





…胸が、痛いです、とても。





くすくすと笑いながら。



ゆるりと、腕から逃れる。




『…もう、今日はもうお休みを頂きますね。


少し…疲れたみたいです…。』




『………………。』




疲れたのは、本当。


ずっとお側に居たくて、離れたく無くて。


このまま、お側にいたら。


決心が鈍ってしまいそうだから。


自室に戻り、皆が寝静まるのを待ちながら。


ただ、静かに響く雨音を聴いていた。


しとしとと雨は降り続き。


かの花が、咲いたかも知れないと。


期待と、不安が入り混じる。


藤の家紋の家に生まれた。


私の身に染み付いた、藤の強い香りは。


少しは、鬼除けになるだろうか。


意を決して、そろりと部屋から出ると。


音を立てないように、風柱様の部屋へ忍び入る。


相変わらず、可愛らしい寝顔を、少しだけ、眺めて。


瞼に、そっと、口づけた。


…愛しいなんて、知らなかった。


貴方が、教えてくれたのよ?


胸が、震えるくらい。





貴方が、愛しい。





そっと、部屋を後にして。


私は、夜へ駆け出していた。


裏の山は、よく知っているから、多分大丈夫。


小さい頃は、よく姉様と駆け回ったもの。


雨は、まだ降り続いている。


夜が明けるまでには、帰らなきゃ。


携帯用の行燈の灯りを頼りに。


山道を、どんどん駆け上がって。


竜神の祠を過ぎ、ようやく崖っ淵まで辿り着いた。


手にした行燈で、崖下を覗き込んで、照らしてみる。


底無しの暗闇が、まるで。


黄泉への入り口みたいで。


ぶるっ、と身震いがした。


でも。


ゆっくり行燈の灯りが消えないように。


辺りを、丹念に照らした。


ちらりと、白い花弁が見えたのは、手を伸ばせば届きそうな、崖の中腹。


カタクリに似た格好の、白い花が咲いていた。


確かに。


…うそ、みたい…。


信じられない思いで、手を伸ばす。


指先が、微かに花弁に触るのに…!


『……くっ!』


地べたに身体を投げ出して、崖下に手を伸ばす。


濡れた草が滑って、草履も着物も濡れてぐちゃぐちゃだ。


でも、そんなこと、どうだっていい…。


全身が釣りそうな程、身を乗り出して。


『………っ!!』


ブツリと、茎ごと花弁を千切った、その時に。





ずるり、と私の身体が真下へ落ちた。





ヒュッ、と息を呑んで。




落ちる…っっ!!




そう思ったのに。


すんでの処で、ぴたりと落下が止まったのと。





『……こンのォ…っ!


クソ、女ァ…っっ!!』







地獄の底から響くような、怒り狂った声がしたのは。






ほぼ同時だった。











【藤花の契 ⑨へ続く】