それから、また一ヶ月もしただろうか。
男がひとり。
昼間、店に尋ねて来た。
男は、アタシがやってる店の、建物の持ち主なのだと言う。
そして。
とんでもない事を、言った。
『…アタシが、この建物のオーナー?
…はぁ?
ナニ言ってんだい!
…嫌がらせかいっ?
家賃は毎月、キッチリ耳揃えて、払ってるじゃないか!』
『違いますよ、リディアさん。
ですから、この建物を丸ごと買い取った旦那がいましてね?
その旦那のご命令で…。
建物と店の権利書は、全てアナタに渡すように、と。』
『……はぁ?』
『この辺を仕切る、ヤクザ連中にも話しは通してあるそうですよ?
…私は、願ってもない申し出ですから、2つ返事でOKしましたよ。
…法外に高い値を付けて下さいましたからね。』
『……………。』
『…海賊王、リュウガ。
…アナタ、いい情夫をお持ちだ。』
『~~~~っ!!』
男は、カウンターに書類の束を置いて行った。
…店を、出る間際。
振り返ると、こう付け加える。
『…妙な事を、おっしゃっておいででした。
…アナタが、もし、受け取ろうと、しなかったら。
…それは、椅子のお代だから、と。
…もちろん、椅子ひとつがこの建物と同じ価値なハズがありません。
…ですが、あの旦那さんは。
あの椅子が置いてあった部屋には、これだけの価値があると。
…おっしゃっていましたよ…。』
そう言い残し、パタンと、店を出て行く。
…どんだけアタシを泣かせる気だい…。
涙で、何も見えやしないじゃないか…っ。
それでもアタシは、今日も、店を開ける。
…いつか。
あのドアから。
懐かしい笑顔を。
…見せてくれるんじゃないかって。
…そんな夢を見れるから…。
愛しているよ。
アタシの、最高の情夫。
もう二度と逢えなくても。
アンタが、アタシを忘れても。
アタシが、一生、忘れない。
…愛してる。
何度も、繰り返す。
…アタシだけが、知ってる。
二度と呼べない名前を、胸に抱いて。
また今日から。
…生きていこう。
『ちょっとアンタ! いいかい?』
あたしは、雑貨屋の店先で品物を見ていた、
抜け殻の様な若い娘に、声を掛けた。
…あれから、10年は軽く過ぎた。
『…アンタ、船の上にいた女だろ?
…リュウガの女かい?』
海賊王の、船が来たと。
…街中が、大騒ぎだったあの日。
アタシは、港を見渡せる店の、オーナーになっていた。
目の前に停泊している、シリウス号。
その、甲板の先に。
…少し、歳を取ったね。
…リュウガを見た。
そして、隣に立つ、小さな若い娘も。
…ああ。
…やっと、…終わる。
アタシの、長かった…、
…恋。
『…違いますよ?
船長は、私みたいなコドモっぽいのは、
シュミじゃないと思いますっ!』
わたわたと慌てながら。
…そう言って、笑おうとした、その瞬間。
ボロボロッと、涙をこぼした、娘。
…ああ、アンタも。
…アタシと、同じ想いを、抱えてるんだねぇ…。
『…泣くんじゃないよ?
…リュウガは…。
誰にでも優しくて…。
…誰にでも、残酷なんだ…。』
アタシは、10年前のアタシを抱いた。
…素人に手を出しやがって…!
飽きれたのと、嫉妬と。
ないまぜになりながら、小さな肩を抱く。
『話してごらん?
…聞いてやるよ。』
鼻をすすりながらポツリポツリと語る娘。
…可愛いコ。
…きっと、メロメロなんだろうねぇ…。
ひとしきり聞いて、イロイロ教えて。
また、船へと見送った。
その、背中を見ながら思う。
…アンタは、きっと。
あの海賊王を、手に入れる。
…心も、カラダも。
…人生の、全てを。
だから、いいだろ?
ほかになんにも、要らないから。
あの日。
アタシの耳元に囁いた。
…本当の名前ぐらいは、アタシにおくれよ。
海賊王でも、
リュウガでも無かった。
…ただの男の。
たったひとつの、形見にするから。
…狂おしい程の激情は、十年越えて、優しく、穏やかに。
…いつまでも、アタシの心の奥で輝く。
…まるで。
アンタが、故郷で。
そして、戦場で見ていた。
…たったひとつの、
シリウスみたいに・・・。
『…さて、と。』
夕暮れの港街。
賑やかな、人の群れ。
そろそろ、開店の準備をしなくちゃね!
そう思い、振り返ると、
…リズがいた。
『…姐さぁん…っ、
…長かった…ね?』
そう言って。
アタシより先に、涙を流すもんだから。
『…ああ。
長かった…、よ。』
…泣けないじゃないか。
やっと、終わった。
…アタシの、恋。
港を離れて、だんだんと小さくなってゆく、シリウス号を。
…アタシは、見えなくなるまで。
見えなくなっても。
ずーっと、見送って、いた・・・。
【激情⑦~Another Sirius~ END】
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この後、【灼熱】で、ヒロインちゃんと恋に落ちるまで。
リュウガは、二度と同じ女性を抱かなくなるんです。
しかも、【続・灼熱】で、リディアのいるこの街に寄った時。
リュウガが、あの酒好き・女好きが、船を下りないんですよ。
降りれなかったんでしょうね。
リュウガの部屋にある、赤いベロアのイスの由来。
リュウガ(弟)が心底惚れた、お姫様。
リュウガの故郷。
こんだけ好き放題妄想して、
さすがに本名は、作れませんでした。
いろいろ考えたんですけどね。
ヒロインちゃんがほとんど登場しないこのお話を、
読んで下さいました、アナタ。
本当に、ありがとうございました。
また、エロぽちょに戻りたいと思います。