『…俺の生まれ故郷は…。
そりゃあ、雨が降らねぇ国でよ。
一年中、砂嵐が吹き荒れるようなトコロだ。』
あれから。
男は、フラリとやってきては、アタシを指名するようになった。
最初は、ただ。
泣きたくなるほど優しく、アタシを抱くだけだったけれど。
近頃は、寝物語にポツポツと。
自分の事を、話すようになってきた。
『…南かい?』
『…ああ。ここから、ずーっと遥か南。
…丁度、お前の髪のような、朱い景色がどこまでも、どこまでも。
…続いてんだ。』
アタシは、男の腕枕で、いつもその取り留めの無い話を聞いている。
『砂嵐が酷ぇモンだから…空は、いつも真っ暗なんだぜ?
青みがかった、深い青。
…お前の瞳のような、…な。』
『…へぇ…。』
『…見える星は、いつもたった一つ。
…1番明るい、シリウスだけだ。
…だから…。
何処にいても。
…戦場でも。
シリウスを見つけると、ホッとすんだ。』
『…シリウス、か。』
相変わらず、名前は知らない。
アタシはいつも。
『アンタ』とか、『兄さん』とか。
呼んでいた。
…聞いたら、答えてくれるんだろうけど
…もう、聞くタイミングを逃しちまったよ。
まだ若いだろうに、何処か、寂しい目をした、この男に。
アタシは、とうの昔に惚れていた。
…でも、解ってる。
深入りと、後追いは、絶対にするもんか。
アタシにも、プライドってモンがある。
たまに間が開いて、次に来たら、新しい傷が身体の何処かに
増えてるような男が、
…とてもカタギだとは思っちゃいないけど。
それでもアンタの隣で笑うのは、アタシじゃ可笑しいだろ?
『…リディア。』
不意に名前を呼ばれて…。
『…どうしたんだい?
改まって。』
アタシは、男に向き直る。
『…いい名前だな。』
アタシの目を覗き込むようにして、そう言うと、ふっ…と、笑った。
その笑顔が、あんまり穏やかで、優しくて。
…来ない未来を、描きたくなってしまう。
『…リディア?』
アタシを見つめる男のカオが、みるみるうちに雲ってゆく。
そりゃあそうさ。
…アタシは、泣いてしまったんだ。
理由?
泣ける程、胸が痛かった…。
好きで、好きで。
アタシの名前を、いい名だと言ってくれる、アンタが。
泣ける程、好きだって。
言えたら、楽なのに…。
…いや。
そもそも、もっと違うカタチで、出逢えたら…っ!
…でも。
アタシが今みたいなアタシじゃ無かったら。
…出逢う事すら、無かったんだろうねぇ…。
『やぁね、…歳を取ったら、涙もろくて…。』
アタシは、慌てて涙を拭う。
そんなアタシを、男は、黙って抱き寄せた。
『…すまねぇ。』
ポツリと、一言だけ言った、その言葉は。
アタシの受け止め方で、いくらでも意味が変わった。
『…暫く、来れねぇんだ。
弟が、ちょっとヤバイ事になってるらしくてな。
…助けに行って来る。
まぁ、俺より気性の荒い奴の事だから、心配はしてねーが。』
『…弟さんがいるのかい?』
『ああ。
俺とまるで生き写しだぜ。
…双子でな…。
おふくろですら、たまに間違えてやがったな。』
…こんなに見栄えのするのが、もう一人居るのかい…。
『…並んでるのを、見てみたいもんだね。
…連れて来ておくれよ…。
…この店に。』
『…ああ。』
『…イイ男だろうねぇ…、アンタに似て。』
『…俺の方が、イイ男だぜ?』
はははと笑いながら。
アタシを、自分の身体の上に乗せる。
『…ヤルか?』
ニヤリと笑った男に、ヒッ.プを鷲掴みにされ、ビクンとカラダが跳ね上がった。
『…好きだねぇ…。』
アタシは、言いながら、キスを落とす。
これが、最後になるなんて…。
この時、アタシは。
知る由も、無かった。