『…姐さ…っ!!』
男を連れて店に帰ると、店の入口でアタシの可愛い女の子達が、心配そうに駆け寄って来た。
『…ああ、悪かったね、みんな…。
アタシは大丈夫だよ。
みんな仕事に戻っとくれ。
…リズ。
この兄さんを、部屋にお連れしておあげ。』
『はい、姐さん。』
『…悪いね、兄さん。
まず、着替えさせとくれ。
…リズ。
この方がね、助けてくれたんだよ、アタシを。
丁重にしておくれね?』
『…はいっ!』
男は、大人しくリズに手を引かれ、店の奥へと消えていった。
アタシは、自分の部屋で、破かれた布きれを脱ぎ捨て、
ドレッサーの前に座った。
…口の端の青いアザ。
…化粧で、ごまかせるかねぇ…。
やれやれ。
頭の悪い情夫を持つと、苦労するよ。
…商売道具の顔に、傷を付けやがって…。
乱れた髪をとかして、結い上げる。
…朱い髪。
昔から、この髪の色が、大嫌いだった。
染めても染めても、金色にも黒くもならなくて。
…瞳は好きだね。
ちょっと深い、ダークブルー。
サファイアみたいだとか、男は言う。
…泣きボクロも、気に入ってんだ。
『…姐さん?』
コルセットやらメイクやら、格闘していたら。
怖ず怖ずと、リズが部屋にやってきた。
『…姐さんを、連れて来いって、あの兄さんが。
…プライド傷つきます~!』
ふぇぇんっ、と可愛いく泣きながら、リズがアタシの手を引く。
…ウチの1番人気を、蹴るとはね…。
しかも、アタシみたいな擦れた年増を指名かい。
『そうかい、リズ。悪かったね…。
…泣くのはおよし?
可愛いカオが台なしじゃないか…。』
アタシは、リズを抱き寄せると、…深く。
…口付けた。
『あ…ん…ッ、姐さ…っ!』
アタシにメロメロのこのコは、すぐ濡れた声で反応する。
『アトでたっぷり、慰めてあげるからね?』
そう言って、リズを部屋に残してあの男の元へ向かう。
両刀なんて、この世界じゃ珍しくも何ともない。
男の部屋に向かいながら。
…やけに高揚した気分なのは、何故だろうね。
そんな事を、思っていた。
『…待たせたね。』
個室のドアを開けると。
部屋のテーブルの前に置かれた、赤いベロアの椅子に、
ゆったりと腰掛けた、男がアタシを見て笑った。
…その、笑顔に。
やっぱり、ドキリと、心臓が脈打った。
…ヤバイ。
この感覚を、アタシはもう何度だって経験している。
…その後にくる、辛さも。
『…見違えたぜ。』
男が、優しい声で言った。
さっきの、カイルに凄んだ声とは、全く別の…。
甘い、声…。
『…な!
…よしとくれよ、こんな年増をからかうのは!』
ヤバイ。
カオが、赤くなるのが…解る。
『さ、飲もうじゃないかっ!
それとも、スグ始めるかい?
…アンタの望むようにしていいよ。』
アタシは、男の視線から逃れるように、隣のソファーに座った。
『…俺の、望むように?』
男の瞳が、妖しく揺れる。
…なんてチカラ。
引き寄せられるように、魅入られる。
『…ああ。
…好きに、して。
…いいよ…。』
アタシは、目を閉じた。
キスがくるのを、待って。
…でも。
男は。
死ぬ程優しく。
アタシを、抱き締めた、だけだった…。
『…少し、こうしてようぜ…?』
頭の上で、声がした。
…ぽん、ぽん、って。
背中を叩きながら。
小さい子供を、あやすように。
それは、不意打ちだった。
…ちくしょう…。
男の背中に回した手が、ぎゅうっと肩の辺りで服を掴む。
『…怖かっ…たっ!』
口をついて、出てしまった本当のキモチ。
『当たり前だ。』
『…あいつ、馬鹿にしやがって…っ!
オンナを、アタシを何だと思ってんだよっ!
来れば、無理矢理抱くか殴るか…っ!
あんな男なんか…っ
…殺してや…っ』
殺してやる!
叫ぼうとしたその瞬間だった!
男の唇が、アタシの唇を塞いだ。
抱き締める腕に、チカラが込められる。
息が、出来ない…っ!
『…んん…ッ!』
『…リディア。』
唇が、離れて。
男のカタチのいい唇から漏れたアタシの、名前。
『…そんな事、言うモンじゃねぇ。
…殺して気が済むなら、
…俺が殺してやるよ。』
アタシは、男の胸の中で、わんわん泣きながら、首を振った。
『…よしとくれよ、冗談だよ…っ!』
『…人を殺すなんて、簡単なんだぜ?
…俺みてぇな、傭兵はよ…。』
『…バカだね。
そんな事したって、アンタに何の得も無いじゃないか…っ!
それに、アタシはいいんだよ。
慣れてんだから…。』
『慣れるような事じゃねぇだろうが…。』
『…じゃあ、頼みを聞いてくれるかい?』
アタシは、カラダを離して、男を見上げた。
『殺してなんか、くれなくったっていいよ。
そのかわり。
…アンタが、この街に居る間は。
…アタシを抱いて。
…忘れさせて。』
…バカな事を…。
言ったって、解っていた。
抱かれたら。
きっと、本気になる。
そして。
想いは、絶対に報われないだろう。
でも。
『アンタが、欲しいよ…。』
泣きそうな声で、呟いて。
…アタシは、男の胸に、身を任せた。
ふわりと、まるで。
…お姫様みたいに。
男がアタシを抱き上げると、…ベッドに。
優しく、下ろす。
見下ろした、真剣な瞳。
灼けるような、熱。
…でも、そこに愛はないんだろ…?
…でも、いいんだ。
『…忘れさせてやるよ。』
ゆっくりと言った男が、シャツを脱ぐ。
見惚れる程、逞しいカラダ。
…ああ。
また、涙が溢れた。
・・・抱いてくれるんだね。
…こんな、アタシなのに。
…目を、閉じる。
初めてした時より。
…緊張していた。
【激情③へつづく】
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リディアのイメージは、
真木 よう子さん。
で、お送りしております。