『ソウシ、いつものアレを頼む!』
夕刻、医務室で、溜まりに溜まった寄港する港への
提出期限のとっくに過ぎた書類の束を、片っ端から片付けていた時だった。
ひょっこり。
この作業の、原因が現れ、何の悪びれた様子も無く、
いけしゃあしゃあと、私の仕事を、増やす。
『…あなたという人は…。』
思わず決済印を押す手が、止まってしまう。
あからさまにこれほど、呆れた顔をして見せるのに。
当の本人は、全く気にする様子も無い。
『…アレを使うと、スゲェんだよ、俺も、オンナも!』
『…そうでしょうとも。』
…そりゃあね…。
だってアレは。
『…解りました。
夕食前までには調合しておきますから。
で、それ持って娼館でもどこにでも行って下さい。
お願いですから…
これ以上私の仕事を増やさないで下さいよ?』
ありがとな~♪なんて、上機嫌に船長が出て行ったドアを見ながら、
ホッとため息をついた。
『…○○ちゃん。』
私は、医療器具の消毒をしていた、○○ちゃんに話しかけた。
『…聞いただろう?
私はこれから、船長に頼まれた事を片付けるから、
ナギの所にでも行って、夕飯の手伝いをしてあげて?
…調合する時に発生する、煙も君に、吸わせたくないからね。』
『…そんなキケンな…おクスリ…ソウシ先生は、大丈夫なんですか?』
少し不安そうに私を見上げる○○ちゃん。
そんな何気ないカオひとつで…。
君は、いともたやすく、私の心の奥に隠す欲を刺激する。
『…大丈夫。
…私は、…慣れてるからね。』
なるべく優しく、彼女に微笑んで見せる。
努めて紳士的にでも振る舞っていないと、いづれ、綻ぶだろうから。
言われた通り素直に、医務室から出て行く○○ちゃん。
私の目の届かない所で、他の男と一緒に居られのは、
胸中穏やかではないのだけれど。
…船長の頼み…断ったとしても、無理矢理作らされるのだから、
命令と言ってもいい…ならば、仕方ないね。
“アレを使うと、スゲェんだよ、俺も、オンナも”
そう言った船長の嬉しそうなカオを思い出す。
当然だろう。
…だって、このクスリは。
興淫剤。
だからね?
興奮剤をベースにして、
いくつかの性的欲求を刺激させる種類の植物を配合させ、
なおかつ。
…無色透明で、無味無臭。
使用する量は、コップ1杯の液体に、5滴ほど。
服用してから効果が現れるまで、大体1時間。
効果が最大になるのが、その30分後。
そして、約2時間程で、効果は失われる。
セッ.クスを愉しむには、十分な時間だろう。
常習性は無いが、一度使用して、その快感を、味わってしまったら…。
…保証は、出来ないな。
現に。
船長なんか、おもしろい位、ハマってしまった。
『…ま、いいか。』
自分が調合したクスリが、好評を得るのは、悪い気はしない。
このクスリは決して、褒められたもんじゃないけどね。
もあもあと立ち込める煙。
なんの抵抗力も無い人が吸い込んだら、
それだけでも、カラダに影響が出るだろう。
○○ちゃんを。
…部屋に、置いておけば良かったかな。
ふと、そんな邪な考えが浮かんで…。
笑ってしまった。
『…出来ましたよ。』
夕食前。
私は、作ったクスリの入った、小さな小瓶を、船長室に届けた。
『ありがとな~!
…ソウシ、お前も行くか?』
ニヤニヤと誘う船長に、丁重にお断りする。
『…書類の整理がまだ、終わらないんですよ?
誰かさんが、ほったらかしたせいでね?』
『あー…ハイハイ。
頼んだぜ、ソウシ!』
『解りました。
ちゃんとやりますから、早く娼館に行ってあげて下さい。
…待ち焦がれてると思いますよ?』
『イイ事言うなぁ…お前!
よしっ!
それじゃあ、イッてくるぜ!!』
船長は、その前に腹ごしらえだ!と、食堂で晩御飯をきちんと食べていた。
それから、出掛けに、私に、そっと耳打ちをして。
行ってしまった。
『…お前もたまに、愉しんだらどうだ?』
…と、囁いた。
その意味が、解らなかった。
だが。
船長の、その言葉の、意味を。
私は、すぐに。
…気付かされる。
『…どうした、○○?』
夕食の後片付けをしながら。
ナギの声がした。
気になって、ふと、視線を送ると…
『な…でもない、です…。
…だいじょ…ぶ。』
ひどく、真っ赤になって、夕食の椅子に座ったままの○○ちゃんが見えた。
………?
明らかに、様子がおかしい。
肘を伸ばして、肩をすくめ、大きく呼吸を繰り返す。
『おい!』
ナギが、その肩に、触れた瞬間だった。
『…ャ…っ!!』
小さく叫んで、目に見える程大きく、カラダが跳ね上がった。
『…ちょっとゴメンね、ナギ。』
驚いた様子のナギと、○○ちゃんの間に割って入り、
○○ちゃんの様子を確認した。
………船長………。
『…ツラいね?』
興奮して、真っ赤になった頬。
潤んだ瞳に、いっぱい涙を溜めて。
でもその瞳は、戸惑いと、淫.らな熱が同居して…。
…それだけで、全てを理解した。
『…ソ・ウシせ…んせ…っ!!』
私は、○○ちゃんを一気に抱き抱えた。
『…部屋においで。』
…興淫剤で、悶,えてる、その姿を。
…これ以上、誰にも見せたくない。
ぎゅうっと、背中に回された腕。
食堂にいた他の全員が、ポカンとしていた。