音楽専門ケーブルテレビ局、MTVがアメリカで放送を開始したのが1981年8月1日で、2021年で40周年になるということである。その日には116種類のミュージックビデオが放送されたということなのだが、その中から個人的に好きな10曲を選び、カウントダウンしていくというのが今回の内容である。
10. In The Air Tonight (1981) - Phil Collins
ジェネシスのドラマー、フィル・コリンズのデビュー・シングル。当時はまだ陽気なポップスター然としたところは目立ってはいなかったのかどうかよく知らないのだが、自身の離婚がモチーフになっているというだけあって、なかなか暗めの楽曲となっている。最大の聴きどころは曲の途中に出てくるダイナミックなドラミングであり、これがこの曲を特別なものにしているように思える。
9. Keep On Loving You (1980) - REO Speedwagon
1981年のイギリスのシングル・チャートではヒューマン・リーグ「愛の残り火」やソフト・セル「汚れなき愛」などが1位になるなど、すでにシンセ・ポップのメインストリーム化が進んでいたのだが、アメリカではまだまだ産業ロックが全盛であった。特にこのパラーバラードを収録したREOスピードワゴンのアルバム「禁じられた夜」は大ヒットして、マイケル・ジャクソン「スリラー」に破られるまで何らかの最高記録を保持していたような気がする。全米シングル・チャートでも1位になったこの曲だが、日本では「涙のレター」のB面扱いだったことも思い出される。
8. Brass In Pocket (1979) - Pretenders
プレテンダーズの初期の代表曲で、全英シングル・チャートでは1位に輝いていた。フロントパーソンのクリッシー・ハインドはアメリカ出身だが、バンドはイギリスで結成された。MTVが開局した頃、アメリカのアーティストはまだそれほど映像に力を入れていない場合も多かったのに対し、イギリスではすでにその辺りが進んでいたという背景があり、MTVでも必然的にそういったアーティスト達のビデオを放送するようになる。それがレコードセールスにも影響をあたえ、第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンが起こったともいわれているようだ。この曲については。映画「ロスト・イン・トランスレーション」で、スカーレット・ヨハンソンが東京のカラオケボックスで歌うシーンが印象的である。
7. The Man With The Child In His Eyes (1978) - Kate Bush
ケイト・ブッシュのデビュー・アルバム「キック・インサイド」からシングル・カットされ、全英シングル・チャートで最高6位を記録した、ケイト・ブッシュが13歳の頃につくり、16歳の頃にレコーディングした曲だといわれている。この曲のモチーフになっているのは、プロデューサーでもあるダイアー・ストレイツのデヴィッド・ギルモアなのではないかといわれていたりもしたが、実際に別に存在しているという話もあるようである。
6. Cruel To Be Kind (1979) - Nick Lowe
ニック・ロウのとてもポップでキャッチーなラヴ・ソングで邦題は「恋するふたり」、アメリカでもイギリスでもシングル・チャートでの最高位は12位である。日本では落語家の三遊亭円丈夫が「恋のホワン・ホワン」としてカバーしていた。
5. Oliver’s Army (1979) - Elvis Costello & The Attractions
ABBAにインスパイアされたともいわれるポップでキャッチーな楽曲で、全英シングル・チャートでも最高2位とエルヴィス・コステロにとって最大のヒットとなったが、歌詞にはシリアスな政治的メッセージが込められてもいる。
4. Fashion (1980) - David Bowie
キング・クリムゾンのロバート・フリップがゲスト参加した、とてもカッコよくてニュー・ウェイヴ・ファンク的な楽曲である。ベテランのアーティスト達の中でも早くから映像に力を入れていたこともあり、MTVでもよく放送されていたようである。
3. Heart Of Glass - Blondie
ディスコ・ポップとニュー・ウェイヴとを合体させたような、とてもポップでキャッチーな曲。アメリカでもイギリスでもシングル・チャートの1位に輝いた。
2. Once In A Lifetime (1980) - Talking Heads
エポックメイキングなアルバム「リメイン・イン・ライト」からシングル・カットされた曲。知的で文化的なムードが強く感じられながら、ダンサブルであるという、とてもイカしたポップ・ソングである。
1. Kiss On My List (1980) - Daryl Hall & John Oates
MTVのごく初期においては、白人アーティストによるビデオしかほとんどかけないと言われていたようだが、マイケル・ジャクソン「スリラー」からのビデオなどを無視することはやはりできず、その様相は変わっていくのであった。ほぼ同時期にイギリスの若手シンセ・ポップやニュー・ウェイヴのアーティストを中心とした第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンが勃興し、もう元には戻れない状況になっていった。それはそれでとても良いのだが、一方でテレビというよりはラジオでファンを増やしそうなダリル・ホール&ジョン・オーツのようなピュア・ポップは後退していったように思える。少し残念な気もするのだが、それが必然だったともいえるわけであり、それでもこの曲の良さが色褪せることはないなと、ここ40年間で何十回目に思うのであった。