lyrical school「Wonderland」について。 | …

i am so disappointed.

さて、lyrical schoolである。2021年4月7日に最新アルバム「Wonderland」がリリースされたのだが、これがまたしてもとても良い。前々作「WOLD'S END」も前作「BE KIND REWIND」もかなり良かったが、めくるめく情報量とより深化した音楽性が快感のツボを突きまくる。これはまた素晴らしいアルバムを届けてくれたものだ。

 

lyrical schoolというのはヒップホップアイドルユニットで、その前身となるグループの結成は2010年にまでさかのぼる。改名、メンバーチェンジを経て、minan、hime、hinako、yuu、risanoの5人組という現体制になったのは、2017年5月21日のことであった。当時のアイドルシーンにまったく詳しいわけではなかった私だが、これ以前からスマートフォンでの視聴に最適化された縦型ミュージックビデオが話題になった「RUN and RUN」や「サマーファンデーション」「マジックアワー」などはわりと気に入っていた。

 

そして、新体制になって初のシングル「夏休みのBABY」がリリースされた頃、このグループはメンバーがとにかく楽しくやっているところが良い、というようなSNSでの書き込みを見て興味が湧き、視聴してみたところものすごく良かった。夏に雨の代々木公園でNegiccoとのツーマンフリーライブでオープニングアクトがWHY@DOLLというのがあり、そこでライブを初めて体験して、これはかなり良いぞと感じたのであった。その時には特に新メンバー、risanoのパフォーマンスが目を引いた。

 

「夏休みのBABY」は私が毎年、勝手に発表している個人的な年間ベスト・トラックの1位に輝き、その翌年にリリースされたアルバム「WORLD'S END」も最高に良かった。イベントやライブなどにも何度か行ったりもして、翌年のアルバム「BE KIND REWIND」も気に入っていた。

 

今回のアルバム「Wonderland」には2020年にリリースされたシングル曲も収録されているのだが、実はそれらを聴いた時に個人的にはそれほど刺さらず、まったく熱心には聴いていなかった。それで、今回も軽くチェックするつもりでアルバムを聴きはじめたのだが、それらシングル曲をも含めてかなり良いし、人の印象などというものはいかにいい加減かというようなことを思い知らされもしたのであった。

 

まず、2020年4月8日にリリースされたシングル曲「OK!」だが、タイトルが示しているように、肯定感の塊のような曲である。リリース当時といえば、新型コロナウィルスのパンデミックがこれはちょっとまずいのではないかと思われはじめた時期だったような気もするのだが、この時期にたまたまか必然的にかこのような曲がリリースされていたのである。当時、これを確かに聴いたのだが、どうも当時の体調や精神状態とは相性が合わなかったようで、大好きなはずのlyrical schoolのはずなのに、なんだかあまりピンとこないぞ、という感じだったような気がする。

 

いまでこそこの肯定感が受け入れられるし、最高だと感じられるのだが、当時を思い返すと(もはや正確には思い返せないのだが)、ややしんどかったのかもしれない、というような気もする。

 

最近、モーニング娘。'21のアルバム「16th~That's J-Pop~」がとても気に入っているのだが、モーニング娘。’21とlyrical schoolとでは、音楽性もコンセプトもファン層もまったく違っている。しかし、私がこれらのいずれをも最高だと感じている部分というのは、その熱さと肯定感によるものであり、この点においては共通しているように思える。それも、根拠のない現実逃避的なそれではなく、日常における負や陰の部分をも見据えた上でポジティブにいこうというか、いくしかないだろうというか、いった方が良いのではないかというか、良いに違いない、それしかないだろうというところであり、モーニング娘。’21流にいうならば、「青春Night」における「私の人生 エンジョイ!!」というところなのである。ガラガラゴー。The choice is yours。

 

「YABAINATSU」は「夏休みのBABY」「常夏リターン」「秒で終わる夏」など、リリスク(lyrical schoolの略称)サマーアンセムの最新版という感じで、ラテンなテイストもとても楽しく、往年のJ-POP夏の名曲のタイトルが引用されているところもたまらなく良い。そういえば2018年夏の上野でのフリーライブがはじまる前に、会場で真心ブラザーズ「サマーヌード」が流れると、客席で自然に合唱が起こった感じはなんだかとても良かったな、と思う。

 

「OK」もそうなのだが、リズムが複雑になっていたり、音楽的にはよりマニアックになっていたり、メンバーのラップのスキルも上がっている。それでいてポップでキャッチーというところはまったくブレていなく、この辺りがまた素晴らしいと思うのである。

 

「Fantasy」はとても新しい。lyrical schoolといえば元気で楽しそうで基本的にポジティヴという印象が強いが、この曲では珍しくダルそうであり、そこにまたリアリティーがあってたまらないのだが、しかも、これはあえて選んでやっているというアティテュードが感じられ、そこにグッときたりもするのだ。大切なのは想像力である、ということはジョン・レノン「イマジン」の時代からポップ・ミュージックではよく歌われていたことで、その重要性は今日においてはより増しているように感じられる。ゆえにこの曲は現代社会に対する異議申し立てを含み、パンクでもあるのではないかと感じる。個人的には「今日は強気でエンジンぶわーーーーーっ」がツボで、「傘がなくたって死なないし」には超共感し、「そっち冷笑系?ならこっちは燃焼系 ありすぎる主体性 毎日が集大成」にはそうだ、もっとやれと盛り上がり、「アタシ、アタシのためだけに歌うの」には、ポップ・ミュージックはもっとこういう本当に大切なことを歌うべきではないだろうか、と思わせたりもする。この曲はちなみに、現時点で私の個人的な年間ベスト・ソング候補の1つである(モーニング娘。’21「恋愛Destiny~本音を論じたい~」などと並んで)。

 

「Bright Ride」はこれも新機軸で、ラップではなく歌っているところが多くて、しかも爽やかである。この感じもかなり良いなと思わせてくれる。それで、やはりモヤモヤ、グズグズとしたこのご時世、こういう感覚というのがやはりとても尊いな、と感じさせる。

 

「FIVE SHOOTERS」はとても音がキレイで、それだけに言いたいことがヴィヴィッドに強く伝わってくるな、と感じられる。またしてもしつこくて恐縮だが、モーニング娘。’21でいえば「純愛エビデンス」に対して感じたものにひじょうに近い。自己言及的に思えるところも含めてである。「常にフレッシュで 混じり気ないスタンス」というところもまさにそうで、自分自身もそうありたいなと真剣に感じさせてくれる。

 

「Bring the noise」というタイトルを聞いて、パブリック・エナミーに夢中になった者にとってはつまりそれな訳だが、けして伊達ではないというか真剣だということが分かってはいる。パンク/ニュー・ウェイヴとかヒップホップとか、いろいろなポップ・ミュージックファン遍歴を経て、現在はNegiccoとかRYUTistとかlyrical schoolとかモーニング娘。’21とか活動を終了してしまったがWHY@DOLLとか日本のアイドルポップスなのかというと、もちろんそうであり、これに疑問を呈する向きがあることも十分に想像がつくのだが、これまでのポップ・ミュージックファン歴でその時々において最もリアルだと感じられるものをチョイスしてきたのだが、今日においてそれが日本のアイドルポップスの一部であるというだけで、その態度には一貫したものがあると自分自身では確信している。

 

マーチのようなリズム、チャントのようなコーラス、「Fight For Your Right」とか「Just The Two Of Us」とか、これがやはり現時点での集大成だということに迷いはない。それで、「ブレーキはNO! Show me your soul」のところの感じがまさに個人的なポップスの王道で泣ける。「青春の次の1ページ」は永遠であり、その直前の「君といたい」が究極の感情の高まり、人生においてそうだと感じられる。つまり、とてもリアリティーが感じられるポップ・ミュージックが凝縮されたこのアルバムなのであり、今週中、主に渋谷で行われているリリースイベントのどこかには行けないものだろうかと画策はしているのであった。あー、もう本当に好きが溢れて止まらない。年間ベスト・アルバム候補に限りなく近いような気は、なんとなくしている。


曲毎のクオリティーがそれぞれ高いのだが、これまでのアルバム同様にskitなどが入っていたりして、トータルアルバムとしての魅力も感じられ、全体の流れの中で聴くことによって、単体で聴いた時とはまた違った意味性が浮かび上がってくる曲など(現在のところ「FIVE SHOOTERS」)に最もそれを感じている)もある。


イントロ的な「-wonderland- (skit)」から「MONEY CASH CASH CASH」にいくのだが、「WORLD’S END」でジングル的に用いられていたフレーズのようなものが聴こえたりもする。そして、ヒップホップらしいリッチなセルフボースティングをアイドルラップに落とし込んだかのような見事な手法。ジャンルに対してのリスペクト、真摯に取り組みややマニアックな領域にも入っているような気がするが、けしてキャッチーなポップ感覚は失われていない。ポジティブな健気さとでもいうのか、そこには私がポップ・ミュージックに求めるもののいくつかをかなりの強度で見いだすことができる。


話題はふたたび「OK!」に戻り、この実は1年前にはあまりピンと来ていなかった曲がとても尊く感じられる。最新のポップ・ミュージックは基本的に若者のものだと思ってはいるのだが、だとするといまだにそれを追い続けているのは老いとか死に対しての恐れのせいだろうか。とにかく「死ぬまで生きてく」し「意味なんてどうせある」とそうようなことをこの曲は歌っているのであり、それに思い切り感化されたいと感じている自分がいる。不思議だが本当である。「HateじゃなくてまずLoveためる あげる わける あたためる」、いまどきなんて真っ当なのだろう。「Okey-dokey」はライブでとても盛り上がっていそうだ。


「Danger Treasure」などを聴くと特に感じるのだが、メンバーそれぞれの個性がさらに楽しめ、グループ全体としてもスキルアップしながらフレッシュであるというとても理想的な状態のように思える。世界がもっとこのグループが持つグルーヴに感化されるといいのに、と心から思わずにはいられない。


「SHARK FIN SOUP」すなわちフカヒレのスープらしい。エキゾチックな気分も感じられ、とても良い。himeのラップが心地よくてとても好きなのだが、それがとにかく堪能できるし、どのメンバーによるものなのかが特定はできていないのだが、ウィスパーボイスがカヒミ・カリィ的なキュートなエロスを醸しだしてもいる。新規軸のようで、それが瞬時に新たな王道パターンにもなっているようだ。


ふたたび言及する「Fantasy」は変化球にして、個人的にはこのアルバムのベストトラックではないかと、現在のところ思っている。ヒカシュー的なニュー・ウェイヴ感覚、気だるさという新しい技術、その核心にあるスピリットの塊、ゆるやかに真剣、アイデアの坩堝、次の一万円札の絵柄はアタシ(!)。


「Bright Ride」はやはり新規軸にして王道感を感じさせるというか、アイドルとかラップだけれどリリスクが新ジャンル、を強く感じさせる。「Loud」「Bright」「Ride」といった語尾の処理の仕方がとても良い。「トゥトゥトゥ・・・・oh yeah」というようなポップソングのクリシェ(常套句)が新しくハマる。アイデアと想像力が加速して昇っていく、大空の向こうを目指して。honakoのピースフルでキュートなラップが、ふんわりとしたとても良い感じのアクセントになっている。


「FIVE SHOOTERS」「Bring the noise」は前述のように強い曲で、「Curtain Fall」は新しいマーチやパレードの到来を感じさせ、アルバムの最後に収録された「SEE THE LIGHT」はラップが入った良質のJ-POPという感じでもある。


このアルバムの発売は元々、1月の予定だったというが、それが2月に変更され、結果的には4月の発売になったのだという。新しいはじまりや環境の変化が多くなりがちな季節、状況としてはしんどくしょうもないことも多く、ネガティブな気分にさせようとしてくるが、「死ぬまで生きてく」訳であり、「好きに好きに好きにやりたいようにやる好きに」「とにかく誰より楽しんじゃう」「誰かの言う普通はスルー」というような正しいことがいろいろ歌われてもいるこの作品の価値はひじょうに高いのではないかと思える。