Negiccoのリーダー、Nao☆が初のミニアルバム「gift songs」をリリースした。4月にはシングル「ベスト☆フレンド」がリリースされていたが、この曲は収録されていない。Negiccoでは今年、Kaedeが元旦にアルバム「今の私は変わり続けてあの頃の私でいられてる。」、9月にミニアルバム「秋の惑星、ハートはナイトブルー。」、グループとしては8月にシングル「午前0時のシンパシー」と、 ハイペースでのリリーズが続き、しかもそのどれもが優れた内容となっている。それぞれタイプが異なっていて、分かれている必然性が強く感じられるのだが、どれをとっても記名性がはっきりしている。もはや信頼のブランドと呼べるレベルだが、それには素晴らしい個性を持ったメンバーと運営やスタッフ、良質なファンが奇跡的に集まるという、もはや運命なのか偶然なのか(「出会えたのは偶然の運命 無駄なことなんてないね)よく分からないいろいろなことが積み重なった結果のようにも思える。
それはそうとして、このミニアルバムからは1曲目に収録された「射抜け!Midnight」のミュージックビデオが先行で配信していた。この感じはいままでのNegiccoにありそうで無かった、というようなことを言うのが一体、これで何回目なのかという気分でもあるのだが、実際にそうなのだから仕方がない。Nao☆のソロ曲といえばこれまでにシングルが2作リリースされていたのだが、そのキャラクターやイメージに近いオーガニックな雰囲気のものが多かったような気がする。ところが、この曲は都会の夜を連想させ、何せ歌い出しの歌詞が「Step in to the night」である。ジョー・ジャクソンの「夜の街へ(Steppin' Out)」か国分友里恵の「スノッブな夜へ」かよというようなもので、これはワクワクが止まらない。
とはいえ、「名前も無いスニーカー」というフレーズがわりと良い感じで、軽快で楽観的なシティ・ポップかと思いきや、「息潜める Suicide」「悪鬼 罵詈だらけの 往来」といったフレーズもあり、ネガティヴを認識しているからこそ、それを突き抜けていくのだという気合いや勢いのようなものが感じられる。脚韻を踏みまくる歌詞も心地よく、「無限大のYOU & I」というフレーズが特に良いと思った。
ミニアルバムを聴いてみて、1曲目にこの曲が入っていることによってギアが入るというか、温度感が調整できる。そして、この微熱感というのは、いまの季節に特にマッチしているようにも思える。
「向日葵の歌」は聴きやすい曲で、歌詞がとても良いと思っていたところ、Nao☆自身によるものであった。このミニアルバムは収録された5曲、ぞれぞれいずれも作家とタイプが異なっているため、結果的にひじょうにバラエティーにとんだものになっているのだが、その上で統一感もある。ボーカルの記名性というのが最も大きいように思えるのだが、それ以外の点でも共通しているところがあるような気がする。
この曲においては特に過去から現在への時の流れの中で獲得することができた大切なもの、そして、それゆえに抱くことができる未来への希望について歌われているように思える。四季の移り変わりについての歌詞では、Nao☆のソロデビューシングルのタイトルでもある「菜の花」や、「楓」という単語が入っていたり、冬はやはり雪景色なのだなと思わされたりもする。「オレンジの街」というフレーズには夕暮れを思い浮かべながらも、アルビレックス新潟のチームカラーや、「古町どんどん」のステージが組まれていたすぐそばに数年前まであったオレンジローソンの記憶などから新潟の街に思いを馳せたりもしてしまった。
シンプルなようだが実は選び抜かれたのではないかと思われる言葉の一つ一つが素晴らしく、特にいまの時代においてはとても必要なことが表現されているような気がする。「神様の贈り物」というフレーズもあるが、特に後半の方ではゴスペル音楽からの影響すら感じられ、本当に素晴らしい曲だと思ったのであった。
「なんとかなる」のイントロを聴いて、Negiccoへの楽曲提供者の中でも特に大好きなユメトコスメの乙女チックさを一瞬、感じたりもしたのだが、実際には作詞・作曲がChocolat & Akitoで、編曲がLittle Creaturesの鈴木正人だということであった。Chocolat & Akitoは元モデルで歌手のショコラとGREAT3の片寄明人による夫婦デュオである。個人的に日本のポップ・ミュージックをほとんどちゃんと聴いていなかった90年代後半において、かなり好きだった数少ないバンドがGREAT3であった。このNegicco関連についての楽曲提供もこれまであっても不思議ではなかったような気もするのだが、これが初めてである。
一般的に女性アイドルというのは、疑似恋愛の対象として人気があるというのが従来の考え方であり、それゆえに恋愛は表向きにはご法度というところがあるのだろう。ところが、Negiccoは3人のメンバーのうち2人が結婚した上でアイドルを続け、それをファンも祝福し、応援するというきわめて破天荒であり、サステナブルなアイドルグループとしてのパイオニア的なあり方を体現しているようにも思える。
Nao☆が昨年に結婚をしたという現実が、この曲の内容にどれほど反映しているのかは定かではないのだが、不確かな未来に対しても「なんとかなる」と思えてしまうのは、一人ではないという確信があるからではないかとも思えるのである。
GREAT3には「素敵じゃないか」という曲があって、ポップ・ミュージックのファンならばビーチ・ボーイズの有名なアルバム「ペット・サウンズ」の1曲目とタイトルが同じだと気付くのではないかと思うのだが、カバーでもなんでもないオリジナル曲である。「愛されたかった 泣いちゃいそうなくらい 素敵じゃないか」と歌われるこの曲では、もしかするとずっと一人きりなのではないかという不安もいだいていた主人公が、互いに愛し合える相手と出会えたことに対する感激がヴィヴィッドに表現されている。そして、最後には「愛されたいなら 愛せなければ」と歌われる。
「なんとかなる」には「愛を与えるたびに 愛に生かされている」というフレーズがあり、つまり同じようなことについても歌われているということがいえる。そして、「大丈夫 なんとかなる」といえば、ビーチ・ボーイズの「ドント・ウォリー・ベイビー」ではないかと、思ったりもする(この曲の邦題は「気にしないで」だったとしても)。
「約束」は親しみやすいメロディーが印象的なキャッチーな曲であり、スピッツなどを連想させたりもする。先ほども言及したように、このミニアルバムに収録された5曲は、それぞれいずれも異なる作家によって書かれている。にもかかわらず、どこか共通した感覚がある。それは、現状を変えるために必死で足掻くというよりは、現在、すでにある関係性などを大切に育てていきたい、というような意識である。そこには、互いに愛し合う相手が存在しているからこその自信や、良い意味での落ち着きのようなものも感じられる。
それがこの「約束」という曲にもあらわれているようで、過去にあった思い出したくもないようなことを急に思い出したりしたとしても、もう泣く必要はなく、打ち明けられる相手がいる、というようなところにもあらわれている。
このひじょうに充実した内容であるために、あっという間に完奏してはリピートしてしまうミニアルバムの最後に収録されているのが、「恋をしたらキッチンテーブル」である。Nao☆のイメージにぴったりな、軽快でポップな曲調が最高である。そして、タイトルから想像できるように、恋をしている女性が互いに愛し合っている相手に料理をつくるという内容である。
なんらかの理由によって、どうやら会えない日々が続いているようだ。しかし、そのことに鬱々とするのではなく、掃除をしすぎてもうするところがなくなったとか、料理がどんどんうまくなっていくとか、きわめつけは「また次に会える日には太らせるよ」というフレーズである。
Nao☆というボーカリストの魅力が、その人間性のようなところまで含めて生かされたような、素晴らしいミニアルバムである。アートワークの手作り感も、内容に合っているように思える。アーティスト本人はもちろんだが、その良いところを最大限に引き出そうとするソングライティングやディレクションを含め、Negiccoブランドという「偶然の運命」、そして、それをリアルタイムで体験できることの尊さを、またしても実感させられることになった。