8月30日に「MTVビデオ・ミュージック・アワード2020」の授賞式が行われ、その様子は日本を含む様々な国々でも生放送された。
MTVは1981年にアメリカで開局した音楽専門のケーブルテレビチャンネルであり、その存在は全米ヒット・チャートの様相を変えてしまったといっても過言ではない。そのMTVが1984年に立ち上げた音楽賞が「MTVビデオ・ミュージック・アワード」であり、その授賞式は世界のポップ・ミュージックファンから注目をあつめ続けている。
ちなみに歴代の最優秀ビデオ賞受賞作品は年代順に、カーズ「ユー・マイト・シンク」、ドン・ヘンリー「ボーイズ・オブ・サマー」、ダイアー・ストレイツ「マネー・フォー・ナッシング」、ピーター・ガブリエル「スレッジハンマー」、インエクセス「ニード・ユー・トゥナイト」、ニール・ヤング「ディス・ノーツ・フォー・ユー」、シニード・オコナー「愛の哀しみ」、R.E.M.「ルージング・マイ・レリジョン」、ヴァン・ヘイレン「ライト・ナウ」、パール・ジャム「ジェレミー」、エアロスミス「クライン」、TLC「ウォーターフォールズ」、スマッシング・パンプキンズ「トゥナイト・トゥナイト」、ジャミロクワイ「ヴァーチャル・インサニティ」、マドンナ「レイ・オブ・ライト」、ローリン・ヒル「ドゥー・ワップ(ザット・シング)」、エミネム「リアル・スリム・シェイディ」、クリスティーナ・アギレラ、リル・キム、マイア&ピンク「レディー・マーマレード」、エミネム「ウィズアウト・ミー」、ミッシー・エリオット「ワーク・イット」、アウトキャスト「ヘイ・ヤ!」、グリーン・デイ「ブルーヴァード・オブ・ブロークン・ドリームズ」、パニック・アット・ザ・ディスコ「アイ・ライト・シンズ・ノット・トラジェディーズ」、リアーナ(feat. ジェイ・Z)「アンブレラ」、ブリトニー・スピアーズ「ピース・オブ・ミー」、ビヨンセ「シングル・レディーズ(プット・ア・リング・オン・イット)」、レディー・ガガ「バッド・ロマンス」、ケイティ・ペリー「ファイアーワーク」、リアーナ(feat. カルヴィン・ハリス)「ウィ・ファウンド・ラヴ」、ジャスティン・ティンバーレイク「ミラーズ」、マイリー・サイラス「レッキング・ボール」、テイラー・スウィフト(feat. ケンドリック・ラマー)「バッド・ブラッド」、ビヨンセ「フォーメーション」、ケンドリック・ラマー「ハンブル」、カミラ・カベロ(feat. ヤング・サグ)「ハバナ」、テイラー・スウィフト「ユー・ニード・トゥ・カーム・ダウン」となっていて、アメリカのメインストリームのポップシーンをなんとなく反映しているように思える。
今年の授賞式はニューヨークのバークレイズ・センターで開催される予定になっていたが、新型コロナウィルス禍の状況を鑑みて、観客数を制限するか無観客で行うという案から、当初の予定を大きく変更し、ニューヨークという都市を舞台にした屋外イベントというような設定で、いろいろな場所で撮影されたパフォーマンス映像などを交えて放送された。その結果、ハプニング要素などには乏しい内容となったが、映像技術が駆使されたり、パフォーマー側も限定された状況下で工夫を凝らしたりで、エンターテインメント性の高いコンテンツになったのではないかという気がする。そして、今回もまた現在のアメリカのメインストリームのポップシーンをヴィヴィッドに反映する結果となったように思える。
最優秀ビデオ賞を受賞したのはザ・ウィークエンドの「ブラインディング・ライツ」であった。この80年代のシンセ・ポップを思い起こさせながら、ダークなトーンも印象的なポップソングは新型コロナウィルスの脅威が本格的に認識されはじめた頃から現在に至るまで、ずっと全米シングル・チャートにランクインされ続けている。そして、受賞スピーチではBLT(ブラック・ライヴズ・マター)運動が高まるきっかけとなった、白人警官による虐殺事件の被害者への弔いと、レイシズム(人種主義)に対する抗議も含まれていた。ポップ・スターやアーティストにはこうした、社会問題に対する意志の表明、それによって世界をより良く変えることへの影響力を持っている。それをどのように行使するのか、しないのかをも含め、評価されるようになっているところが現在のリアリティーであり、ポップ・ミュージックとは存在そのものがすでに政治的なのだという現実を浮き彫りにしている。この作品は最優秀R&Bビデオ賞も受賞している。
今回、最も多くの賞を受賞したのがレディー・ガガで、最優秀アーティスト賞の他に、アリアナ・グランデとの「レイン・オン・ミー」が最優秀楽曲賞、最優秀コラボレーション賞、最優秀撮影賞を受賞している。ここ数年はよりアーティスティックなタイプの音楽をやっていたレディー・ガガが、久々にメインストリームのダンス・ポップに回帰したと見なされているのが、アルバム「クロマティカ」であり、これはアメリカやイギリスをはじめ、多くの国々のアルバム・チャートで1位を記録するヒット作となった。「レイン・オン・ミー」はその先行シングルであり、これもまたいろいろな国々のシングル・チャートで1位に輝いている。この曲は人生に降りかかる様々な困難を雨にたとえたものでもあり、新型コロナウィルス禍にある世界、また、そのキャリアにおいて苦しみを乗り越えてきたアリアナ・グランデとの間のシスターフッド的な連帯をも含め、現在を象徴するヒットになったとも思える。
レディー・ガガは今回の授賞式において、パフォーマンスや受賞スピーチなどで再三にわたって登場したのだが、その度に違った種類のユニークなマスクを装着していたことでも話題になった。これはファッションセンス的な意味でのトピックにもなりやすく、実際にそうなってもいるのだが、新型コロナウィルスの感染拡大防止に注意を払っているからこそマスクを着けているというメッセージの発信でもある。いまや、ポップ・スターはアクティヴィズム的にどうなのか、一体、何に加担しているのか、というところまでが注視されるようになっているともいえ、これはひじょうに健全なことだと思うのである。
アリアナ・グランデもまた、この曲のパフォーマンスにおいて、レディー・ガガのように奇抜なものではないが、マスクを着けていた。そして、アリアナ・グランデは今回ならではの賞といえる最優秀自宅からのミュージックビデオ賞も、ジャスティン・ビーバーとの「スタック・ウィズ・U」で受賞している。
K-POPの勢いはワールドワイドなマーケットにおいても増すばかりであり、「MTVビデオ・ミュージック・アワード」にも、最優秀K-POPビデオ賞のカテゴリーが設けられているほどである。受賞したのはBTSの「オン」であり、この曲には2種類の公式ミュージック・ビデオが存在しているが、初めに発表された「キネティック・マニフェスト・フィルム」と題されたものでは、メンバーに加えて約30名のダンサーと12名のマーチングバンドが共演して、ひじょうに壮大な映像となっている。今回、この作品は最優秀K-POPビデオ賞だけではなく、最優秀振付賞も受賞しているのだが、それも納得というものである。
そして、今回の授賞式でBTSの「オン」が受賞したもう1つの賞が最優秀ポップビデオ賞で、レディー・ガガ with アリアナ・グランデ、テイラー・スウィフト、ジャスティン・ビーバーft. クウェヴォ、ホールジー、ジョナス・ブラザーズを抑えての受賞というところが、またすごい。そして、BTSは最優秀グループ賞を受賞してもいる。授賞式では最新シングル「ダイナマイト」のパフォーマンスも披露されたのだが、ソウルで撮影された映像にニューヨークの夜景を重ね合わせた、旬を感じさせる素晴らしいものであった。ところで、全編が英語詞による初の楽曲となった「ダイナマイト」だが、先日、全英シングル・チャートで初登場3位を記録したのに続いて、9月5日付の全米シングル・チャートでは初登場1位に輝いたようである。韓国出身のアーティストとしては初の快挙であり、このジャンルは今後、ますます盛り上がっていくことが予想される。
そして、同じく韓国出身のポップ・グループであるブラックピンクは最優秀グループ賞にもノミネートされていたが、中毒性の高いダンス・ポップ・トラック「ハウ・ユー・ライク・ザット」で、最優秀サマーソング賞を受賞している。
最優秀MTV PUSHアーティスト賞はドージャ・キャット、最優秀ヒップホップビデオ賞はミーガン・ジー・スタリオン「サヴェージ」と、いずれもTik Tokによるバイラルヒットによってブレイクしたアーティストが受賞している。ドージャ・キャットの「セイ・ソー」とミーガン・ジー・スタリオンの「サヴェージ」は個人的にも今年の上半期ベスト・トラックの8位と5位に選んだこともあり、なかなかうれしいものである。ミーガン・ジー・スタリオンはカーディ・Bとのかなり攻めた内容のシングル「WAP」が全米シングル・チャートで1位を記録したタイミングでもあり、今後、ますます活躍が期待される。
ビデオ・フォー・グッド賞を受賞したのは、H.E.R.の「アイ・キャント・ブリーズ」である。タイトルの「息ができない」は、アフリカン・アメリカン男性、ジョージ・フロイドが白人警官によって首を押さえつけられ、虐殺される直前に残した言葉である。この曲はH.E.R.が事件に対するリアクションとして発表したものであり、レイシズム(人種主義)に対する抗議が含まれている。この曲をビデオ・フォー・グッド賞に選ぶことによって、このアワード、そして、それを主催するMTVがこの問題に対し、政治的にどのような立場に立ち、何に加担しているのかを明確にしているようである。
最優秀監督賞は、テイラー・スウィフトが「ザ・マン」で受賞している。7月に突然にリリースされたアルバム「フォークロア」が大絶賛の上に大ヒットを続けているが、これは昨年のアルバム「ラヴァー」からのシングル・カットである。キャッチーなシンセ・ポップでありながら、ジェンダー・イコーリティを訴える曲になっている。このビデオはテイラー・スウィフト自身によって監督されていて、悪しき男性性とでもいうようなものが、主役の男性役によって、戯画的かつ批評的に描かれている。そして、最後にこの悪しき男性性を体現していた主役キャストが、特殊メイクによって男性に扮したテイラー・スウィフト自身だったことが明かされる。
テイラー・スウィフトは昨年の最優秀ビデオ賞を「ユー・ニード・トゥ・カーム・ダウン」で受賞しているが、このビデオはLGBTQ+コミュニティへの連帯を明確に表すものであった。
この他には、最優秀ロックビデオ賞をコールドプレイ「オーファンズ」、最優秀オルタナティブビデオ賞をマシン・ガン・ケリー「ブラッディ・バレンタイン」、最優秀ラテンビデオ賞をマルマ ft. Jバルビン「ケ・ペーナ」、最優秀隔離パフォーマンス賞をCNCO「MTVアンプラグド・アット・ホーム」、最優秀アートディレクション賞と最優秀編集賞をマイリー・サイラス「マザーズ・ドーター」、最優秀視覚効果賞をデュア・リパ「フィジカル」が、それぞれ受賞している。
授賞式の模様は生放送された以外に、字幕なしが9月5日の20時から、字幕ありは9月13日の21時から、MTVで放送されるようである。