デュア・リパ&ザ・ブレスド・マドンナ「クラブ・フューチャー・ノスタルジア」について。 | …

i am so disappointed.

「クラブ・フューチャー・ノスタルジア」のことを簡単に説明すると、デュア・リパが今年の春にリリースした「フューチャー・ノスタルジア」のリミックス・アルバムということになる。「フューチャー・ノスタルジア」は最新型のダンス・ポップ・アルバムとして高く評価されただけではなく、全英アルバム・チャートで1位に輝くなど、実際に大ヒットもした。アルバムが最高4位を記録したアメリカでは先行シングル「ドント・スタート・ナウ」がずっとヒットし続けていて、2020年8月29日付の全米シングル・チャートでは登場42週目にして27位にランクインしている。

 

これでもじゅうぶんすぎるほどなのだが、これがいつもと同じような夏だったならば、このアルバムはもっと本領を発揮したのかもしれない、というような気もする。もちろん、新型コロナウィルス禍のことである。

 

ヒットした作品のリミックスというのはわりとありがちなような気もするのだが、それほど記憶に残っていなかったりもする。マッシヴ・アタックやギル・スコット・ヘロンのやつとかはとても良かったが、だいたいはオリジナル・アルバムのエクストラ的な印象が強い。この「クラブ・フューチャー・ノスタルジア」にしても、期待値としてはその域を出るものではなかった。

 

他の従業員が全員、帰ってしまい、一人きりになったオフィスで仕事をしながら聴いてみることにした。なぜなら、リミックス・アルバムということはBGMに相応しいタイプの音楽という印象もなんとなくあったからである。しかし、これが予想に反してかなり楽しい。いや、元々、デュア・リパの音楽はかなり好きで、それほどブレイクする前からすでに気に入っていたほどなのだが、リミックス・アルバムにそれほど期待はしていなかった。

 

まず、このアルバムは「クラブ・フューチャー・ノスタルジア」というタイトルになっているぐらいで、リミックス集というよりは、DJによるミックステープの色合いが強い。曲もノンストップで続いていく。アーティスト名がデュア・リパ&ザ・ブレスド・マドンナとなっているのもそのためであろう。

 

ザ・ブレスド・マドンナは以前はザ・ブラック・マドンナという名前で活動していたアメリカのDJで、その界隈ではひじょうに注目されている。途中にネナ・チェリーの「バッファロー・スタンス」が一部、挿入されたりしているのだが、それがこのアルバムの面白さを象徴しているようにも思える。1988年にリリースされたこのヒット曲は、クラブ・ミュージックをポップ・フィールドに紹介したかのようなクールでファンキーなポップ・ミュージックであった。デュア・リパの音楽もまた、メインストリームのヒット曲としての強度を保ちながら、クラブ・ミュージックのエッジな感覚もある。このリミックス・アルバムではその部分がより強調されているような気もする。

 

そして、このネナ・チェリー「バッファロー・スタンス」が使われている「グッド・イン・ベッド」のタイトルを見ると、リミキサーのうちの1人として星野源の名前が入っている。デュア・リパ自身はイギリスのアーティストで、コラボレートしたザ・ブレスド・マドンナがアメリカ出身のDJ、「キス・アンド・メイク・アップ」には韓国の人気ポップ・グループ、ブラックピンクが参加しているなど、気がつけばひじょうにグローバルなアルバムにもなっていたのであった。世界中でナショナリズム的な動きが見られがちな今日、こういったところにも良いものを感じ、デュア・リパのアクティビスト的なアティテュードとの整合性が取れているようにも思える。

 

それはそうとして、ジャミロクワイ「コズミック・ガール」、グウェン・ステファニー「ホラバック・ガール」などが引用されていたり、先行シングルの「レヴィテイティング」ではマドンナ、ミッシー・エリオットをフィーチャー、マスターズ・アット・ワーク、ミスター・フィンガーズ、ディミトリ・フロム・パリといった、ハウス・ミュージック畑のリミキサーの起用など、ポップ・カルチャー的にも情報量がひじょうに多い。にもかかわらず、取っ散らかった印象はなく、これもDJミックス・テープ的な構成のせいであろう。

 

このようなタイプのアルバムといえばダンスのための音楽という印象があり、もちろんその目的で絶大な効果を発揮することは間違いないのだろうが、先に言及した情報量の多さとポップスとしての強度によって、リスニング・ミュージックとしてもじゅうぶんに楽しめる。

 

というか、実は個人的には本体の「フューチャー・ノスタルジア」よりも気に入っているかもしれない。ひじょうに完成度の高いダンス・ポップ・アルバムだったのだが、自由度にやや欠けていて、生真面目すぎるところもあったのかもしれないと、この「クラブ・フューチャー・ノスタルジア」を聴いてから、感じたりもした。いや、もちろん本体の「フューチャー・ノスタルジア」があってこそのこれであり、あれは本当に素晴らしいアルバムである。

 

とにかく踊れて楽しいという、ポップ・ミュージックのひじょうにプリミティヴな部分において、最新型である。そして、クラブ・カルチャーとメインストリームのポップ・シーンとの越境型ポップスとしても素晴らしい。リミックス・アルバムというのはこんなにも面白くなるのか、という可能性も感じさせてくれる。もちろんデュア・リパのボーカルは、とても魅力的である。