松山千春「起承転結」について。 | …

i am so disappointed.

1980年といえばテクノポップ、アイドル、漫才が流行し、時代の空気が急にライトでポップな感覚を志向していったような印象がある。しかし、もちろんそれがすべてではなかった。

 

この年のオリコン年間アルバムランキングを見ると、1位はイエロー・マジック・オーケストラの「ソリッド・ステイト・サバイバー」である。「テクノポリス」「ライディーン」といったヒット曲も収録した、テクノブームを象徴する一枚だといえる。これ以外にも8位に「増殖」、10位に「パブリック・プレッシャー」と、イエロー・マジック・オーケストラはこの年のオリコン年間アルバムランキングの10位以内に3枚を送り込んでいたことになる。松田聖子の「スコール」は、新人アイドルのデビューアルバムでありながら、年間7位と大健闘している。

 

この年、「ソリッド・ステイト・サバイバー」の次に売れたアルバムはなにかというと、松山千春のベストアルバム「起承転結」なのである。松山千春は9位に「浪漫」もランクインさせている。他に10位以内にランクインしているアーティストは洋楽のABBAを除くと、久保田早紀、中島みゆき、長渕剛と、いずれもニューミュージックのアーティストである。

 

松山千春のデビューシングル「旅立ち」が発売されたのは、1977年1月25日であった。森田公一とトップギャランの「青春時代」がヒットしていた頃である。全国的にブレイクするまでには少し時間を要したような気もするが、北海道のラジオではわりと早い時期からよくかかっていたような印象がある。最初に聴いたのは「かざぐるま」で、他の「銀の雨」もよくかかっていたような気がする。千春という女性的な名前と、ハイトーンのボーカルで女性の言葉による歌詞を歌うスタイルが、どこかミステリアスに感じられもした。

 

「かざぐるま」よりも「銀の雨」の方が個人的には強く印象に残っていて、どちらもシングルだと思っていたのだが、「銀の雨」は「かざぐるま」のB面だったようだ。ラジオでよく聴いた記憶があるわりには、このシングルはオリコン週間シングルランキングで100位にも入っていなかったようだ。というのも、これらの曲を収録したデビューアルバム「君のために作った歌」と発売日が同じという要因もあったのだろう。この曲には「大空と大地の中で」「オホーツクの海」「足寄より」といった、北海道を前面に押し出したタイプの曲が目立っていたような印象がある。

 

この年の春に私は北海道の苫前という小さな町から、父の仕事の都合により、当時のイメージとしては大都会であった旭川に引っ越したのであった。それから、自分の部屋でラジオを一人でよく聴くようになった。旭川の小学校でできた特に仲のよい友達とも、よくラジオの話をしていた。彼には姉がいて、私が遊びに行ったときに、彼の部屋に入ってくることもあった。姉が松山千春のアルバムを持っていたこともあって、彼は松山千春の曲について詳しかった。小学6年の修学旅行で、班ごとに歌う曲を決めることになったのだが、リーダー的な立場でもあった彼の意向で、私たちは松山千春の「旅立ち」を歌うことになった。それほど大ヒットしていたというわけでもないのだが、意外にもみんなこの曲を知っていた。

 

歌詞の意味をどの程度、理解していたのだろうか。これは、別れの歌であり、見送る立場から歌われている。「私の瞳が濡れているのは 涙なんかじゃないわ 泣いたりしない」の歌いだしで知られ、やはり歌詞は女性の言葉によって書かれている。

 

小学生の頃に松山千春の曲はわりと好きだったのだが、1980年代に入った頃にはそうでもなくなっていた。やはり時代の流れにのって、よりライトでポップなものが好きにもなったし、都会志向がひじょうに強くもなった。それで、趣味と合わなくなっていったのだ。

 

中学生や高校生の頃に聴く音楽というのは、それによってアイデンティティーを確立しているようなところもあり、それに合わないと思うものは、じつは音楽的に好きかもしれなくても、聴かなくなるということもあった。しかし、大人になると自我は確立しているわけで、ちょっとのことでは揺らぎようがない。それで、いろいろなタイプの音楽をフラットに聴き、良いものは良いと認めることができる。

 

それで今回、松山千春の「起承転結」を聴いていたのだが、1曲目はデビューシングルの「旅立ち」であり、やはりあの小学校の修学旅行でも班で歌ったお馴染みのメロディーが出てくるのだが、次に「この日がいつか来ることなんか 二人が出会ったときに知っていたはず」と歌われる。つまり、永遠という概念などははなから信じられていないのである。

 

同じく北海道出身で、千春という名前のシンガーといえば、WHY@DOLLの青木千春なのだが、音源化されていないがファンには大人気なソロ曲「Forever」というのがある。この曲は彼女自身が作詞を手がけているのだが、永遠という概念をいまだ確信しているがゆえの輝き、そして、それはおそらくまぼろしであることを聴く側が知っているがゆえに、感動的なのだろう。そして、じつのところ、われわれはそれが本当は実在する可能性を、おそらく心のどこかで望んでもいるのだろう。

 

そして、「私は泣かない だってあなたの あなたの思い出だけは 消えたりしない」というフレーズをこのタイミングで聴くことによって、間もなく活動を終了してしまうガールズユニットに対する想いと重ね合わせたりしなかったりもするわけである。

 

WHY@DOLLが2017年1月23日にリリースしたシングル「Show Me Your Smile」には「もしもわたしが この世の中から消え去っても」「きみと過ごした日々だけは 輝くはず」というフレーズがあるのだが、やはりこういうことを歌っているように感じられる。

 

松山千春が全国的にも大きくブレイクを果たしたのは、1978年8月21日にリリースされたシングル「季節の中で」の大ヒットによってであり、この曲はもちろん「起承転結」にも収録されている。山口百恵と三浦友和が出演したグリコアーモンドチョコレートのCMソングに起用されたことが、このヒットには影響したと思われるが、このようなメジャーなCMにニューミュージックが使われるということが、当時の状況をうかがわせるようだ。山口百恵はこのCMでも共演していた三浦友和と結婚し、1980年に引退するのだが、その頃にグリコアーモンドチョコレートのCMに出演していたのは田原俊彦と松田聖子であった。嫉妬した田原俊彦のファンから松田聖子の事務所宛てにカミソリの刃がたくさん届いたという噂は果たして本当だったのだろうか。このCMに使われていたのはニューミュージックではなく、田原俊彦の「ハッとして!Good」であった。

 

それはそうとして、当時、ニューミュージックのアーティストの中には、テレビ出演を拒否する者も少なくはなく、むしろそれがステイタスというようなところもあった。「季節の中で」はついにTBSテレビの人気音楽番組「ザ・ベストテン」でも1位になるのだが、一度きりという条件で、コンサート会場からの中継で出演した。歌う前にはなぜテレビに出演しないかについてのメッセージも語られ、それは少なくとも当時の私の周りでは好意的に受け止められていた。しかし、あれが当時、私の地元であった旭川市民文化会館からの中継だったとは当時から意識していなかった。

 

翌週以降も「季節の中で」は「ザ・ベストテン」で1位にランクインしていたが、松山千春は出演しなかった。これが興醒めだという友人も中にはいたのだが、アーティストのポリシーとして表明しているのでそれは良いのではないか、と私は思っていた。

 

これが松山千春にとってはじめてのテレビ出演だといわれているのだが、私には北海道ローカルの午後の情報番組に、松山千春がいまライブハウスで若者に人気のシンガー・ソングライターという感じで出演しているのを観たことがあるような気がするのだ。もちろん、完全な思い違いである可能性も少なくはないのだが。

 

「起承転結」には1979年の「夜明け」までのシングルA面、B面の中からセレクトされた12曲が収録されている。これらの曲のほぼすべてに当時、リアルタイムで親しんでいたのだが、レコードを買って聴くほどではなかった。しかし、今回、久しぶりにまとめて聴いてみて、感覚にとてもフィットすることに驚かされた。それだけではなく、このボーカルとメロディーにはとてもオリジナリティーがあり、ポップ・ミュージックとしてじつに優れたものであることにも気付かされた。

 

日本のポップ・ミュージック批評においては、ニューミュージックが不当に過小評価されているのではないかということを最近、考えなくもないのだが、今回のリスニング体験もまた、その感覚をより強くするものであった。

 

かつて、私が通っていた中学校ではレコードコンサートというのがあり、どこかの教室にステレオとレコードを持ち込んで、暗幕で暗くして、ただレコードを聴くというイベントであった。1979年においては洋楽と邦楽に分かれていて、洋楽がポップス、邦楽がフォークという名称であった。私はフォークこと邦楽の教室にいたのだが、上級生の男子がアリスを、女子が松山千春をもっとかけろといって、争っていた。当時の松山千春はまた、ある意味においてアイドル的な存在でもあった。

 

ニューミュージックにはシティ・ポップやディスコ歌謡のように踊れないものもたくさんあるため、DJイベントにおけるプレイにおいてもやや不利という側面もあるような気もするのだが、レコードコンサート的なものならばその辺りもクリアできるのではないかという気もする。

 

 

 

 

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