ベアバッドゥービーとは、ロンドンを拠点として活動する19歳の女性シンガー・ソングライター、ベア・クリスティのソロ・プロジェクト名である。音楽活動を本格的に開始したのは2017年からで、ギターを使ってはじめてつくった曲だという「コーヒー」は、数日間で30万ストリーミングを記録したのだという。
その後、The 1975やペール・ウェーヴスも所属するレーベル、ダーティ・ヒットと契約し、「パッチド・アップ」「ラヴウォーム」に続き、先日、最新EPとなる「スペース・カデット」をリリースした。
彼女の音楽はベッドルーム・ポップなどといわれているようだが、この作品には1990年代のアメリカのインディー・ロックからの影響が強く感じられる。というか、先行シングルのタイトルが「アイ・ウィッシュ・アイ・ワズ・スティーヴン・マルクマス」である。
スティーヴン・マルクマスは1990年代に活動したアメリカのオルタナティヴ・ロック・バンド、ペイヴメントのボーカリストであり、ソングライターであった。1991年にニルヴァーナ「ネヴァーマインド」が誰もが予測しなかったレベルでの大ヒットを記録し、アメリカのオルタナティヴ・ロックがオーバーグラウンド化した。ラウドでヘヴィーだがポップでキャッチーでもあるこのタイプの音楽はグランジ・ロックと呼ばれ、直ちにポップ・ミュージック界の最新トレンドとなった。これにアート感覚を加えたような印象だったのがペイヴメントであり、1992年にリリースされたデビュー・アルバム「スランティッド・アンド・エンチャンティッド」は、絶好のタイミングで登場したといえる。
ベア・クリスティは3歳までをフィリピンのマニラで過ごし、その後、ロンドンに引っ越したということなのだが、ロックがもはやポップ・ミュージックのメインストリームとはいえない今日、どのようにしてこの音楽性にたどり着いたのかはひじょうに興味深い。ペイヴメントを聴いて泣いている、スティーヴン・マルクマスになりたいと歌われる「アイ・ウィッシュ・アイ・ワズ・スティーヴン・マルクマス」は、それ自体がペイヴメントの影響を受けているような楽曲なのだが、オリジナルを水で薄めたような感じはまったくしなく、新しい世代の感覚としての再解釈であり、アップデートではないかという印象を受ける。それは、自分自身のアイデンティティーを確立したいとでもいうような、10代の苦悩のようなものが歌われてもいるからかもしれない。
ピクシーズやニルヴァーナに見られる、ラウド、クワイエット、ラウドともいわれる、サウンドの強弱を強調したような手法がいかにもという感じで、懐かしくも微笑ましいのだが、そのダイナミクスにはポップスとしての強度を感じる。
そして、そのボーカルだが、このような音楽性でありながらキュートで透明感すら感じさせる。ジュリアナ・ハットフィールドあたりを思い起こさせなくもない。「シー・プレイ・ベース」などには特にそれが感じられ、ギター・ポップ的な魅力さえある。
5曲入りで約20分という、コンパクトな作品だが、楽曲のクオリティーはいずれも高く、満足度はひじょうに高い。これでまだ19歳だというのだから、今後、どのようなアーティストに成長していくのかがひじょうに楽しみなのである。