「サラバ!平成狂想曲~ヒット曲でよみがえる史上最強にポップな30年間~」について。 | …

i am so disapointed.

「サラバ!平成狂想曲~ヒット曲でよみがえる史上最高にポップな30年間~」は、先日、書原つつじヶ丘店に行った時に見つけて買った本である。表紙はピンクで、「平成」と書かれた白木の額を掲げる小渕恵三官房長官(当時)のモノクロ写真が印刷されている。下の方には平成時代を彩ったヒット曲の数々が、タイトルで列挙されている。

 

こういうタイプの本は大好きなので、パラパラとめくってみたのだが、確かに知っている曲が多いものの、思い入れはそれほどない。それでもやはりこういう本は大好きなので、とりあえず買ってみたのであった。

 

私が「ロッキング・オン」を購読していた頃に編集をしていた鹿野淳を校長とする、音小屋ジャーナリズム科としてこの本の編集部は発足したらしく、生徒は社会人から高校生までの、音楽好きな平成生まれだという。

 

平成30年から元年まで、過去にさかのぼっていく時系列でこの本は構成されていて、まずその年のトピックが挙げられ、1年につき2曲、計60曲が取り上げられている。見開きの右ページにその曲の歌詞、左ページにライターによる文章が掲載されている。楽曲に対する深読み、時代背景との関連づけにやや力技的なものを感じるところもあるが、「ロッキング・オン」読者でもあった私はじつはこういうのが大好きで、わりとしっくりくる。

 

楽曲の選択基準としては、誰もが認める大ヒット曲もあれば、そうでもないのだが時代を象徴しているような曲もあるという感じである。しかし、私はこの本をわりと楽しく読んだことと、これらの曲にどれほどの思い入れがあるかはさておき、実際に生きていた時代でもあるので、より楽しみたくなって、iPhoneで60曲をプレイリスト化した。持っていない曲がいくつもあったのだが、Apple Musicからライブラリに追加したり、カタログにない曲はiTunesストアで購入したりした。そこでも買えない楽曲が2曲だけあったので、AmazonマーケットプレイスでSMAP「世界に一つだけの花」とKAT-TUN「Real Face」のシングルCDを、令和元年にもなって注文した。SMAPのは届いたが、KAT-TUNはまだ届いていない。SMAPはベスト・アルバムをiTunesに入れていて、この曲も持っているものだと思っていたのだが、それ以前にリリースされたものだったようだ。Kinki Kidsは「薄荷キャンディー」が大好きで、ベスト・アルバムをiTunesに入れていたので、「硝子の少年」のシングルCDを買わずに済んだ。

 

日本のヒット・チャートの上位に入っているような曲を好んで聴いていたのは私の場合、小学校から高校ぐらいまでであり、道重さゆみが生まれた平成元年においてすでに20代であった私は、この時代のヒット曲をあまり真剣に聴いてはいない。

 

この本でも取り上げられているのだが、平成のはじめのうちは人生応援歌的なやたらと前向きな曲が流行していて、まったく馴染めなかった。しかし、おそらく小学生だったとすれば、好きになっていたようにも思えるし、おそらくそういうものなのだろう。もう少しすると、音楽だけではなく雑誌も新聞もイギリスのものしか読まなくなり、生活から日本語を排除するような、ひじょうによく分からない時期もあったのだが、おそらくアイデンティティーの確立に迷っていたのだろう。アイデンティティーといえば、サカナクションの「アイデンティティ」という曲をじつははじめて聴いたのだが、「アイデンティティがない」とかいって、なかなか身も蓋もなくて最高だと思った。

 

あと、米津玄師の「Lemon」という曲がとにかくすごくヒットしているという情報は知っていたのだが、どんな曲かをまったく知らず、良い機会なのでiTnunesストアで買って聴いてみたのだが、職場の有線放送で何百回も聴いたことがあった。あいみょんの「マリーゴールド」は、やはり職場の有線放送で何百回も聴いていたのだが、これは知っていた。今年になってからリリースされた「ハルノヒ」という曲がやはり職場の有線放送で何百回も流れていて、タイトルもアーティスト名も知らなかったのだが、歌詞に北千住駅が出てくることがやたらと気になり、ある日、調べてみたところ、それがあいみょんだったのである。というか、かなり好きであり、このブログで言及するのもはじめてのような気がするのだが、流行歌としての強度が相当なものだと思える。20代のアーティストだが、「渋谷系」やニューミュージックのアーティストに影響を受けているということで、なんとなく納得した。

 

「乗客に日本人はいませんでした」というフレーズがあまりにも有名な、THE YELLOW MONKEYの「JAM」もじつははじめて聴いて、批評性と抒情性がすさまじいなと、いまさらながら思ったのである。スピッツとかくるりとかASIAN KUNG-FU GENERATIONとかBUMP OF CHICKENとかは、妻や周囲の女性で好きな人が多かったのでなんとなく知ってはいたつもりだったのだが、改めてちゃんと聴いてみると、やはり素晴らしいなと思ったのであった。

 

宇多田ヒカルの登場が、ロックではなくクラブ・ミュージックが主流となっていくその後のポップ・ミュージック界の潮流を先取るものであったというような論考については、確かにそうだったのだろうと思えた。

 

湘南乃風などは個人的に最も苦手なタイプのカルチャーを思わせ、まさか積極的に聴く日が来るとは思ってもいなかったのだが、iTunesストアで250円で購入した「睡蓮花」を聴くと、じつはポップスとしてとてもおもしろく、わりと気に入ってしまった。

 

音楽や映画について書かれた優れた本というのは、読んだ後で取り上げられている作品を聴いたり観たりしたくなるものだと思うのだが、そういう意味でこの本は、少なくとも私にとっては素晴らしいものであり、じつは街で鳴っている音楽としてしか認識していなかったいくつかの曲を、改めてちゃんと聴いてみて、その魅力に気づかせてくれるきっかけにもなった。