ブラー「モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ」について。 | …

i am so disappointed.

渋谷の公園通りを歩き、パルコを過ぎて最初の信号の手前で左に曲がると、そこをオルガン坂というらしい。音楽関係の店が多かったことが、その由来だという。やがて東急ハンズが現れ、さらに下っていくとその先にはタワーレコードがあった。1995年に現在の場所に移転するまでの話である。すぐ近くにはノア渋谷というビルがあり、そこには「渋谷系」の聖地ともいわれたゼストというレコード店があって、カジヒデキが店番をしていたりもした。

 

しかし、舞台はその手前、オルガン坂を下りきる手前の東急ハンズの向かい側である。一時期はたこ焼き店が何軒かあり、ガードレールに寄り掛かって食べている若者たちの姿をよく見かけた。私も何度かは買って食べたような気がする。ビルの階段を上ると何階かにフリスコというCDショップがあり、1993年あたりはよくここで買っていた記憶がある。さらに上の階に行くと、当時はレコファンがあって、金欠時などはよくここでCDを売って現金にしていた。その後、井の頭通り沿いのBEAM渋谷に移転したはずである。そして、このビルにはノア渋谷からゼストが移転してきたこともあった。1階にも一時期、ディスクユニオンがあったような気がする。

 

その日も階段を上り、フリスコに入るとニュー・ウェイヴのような良い感じの曲がかかっていた。おそらく1970年代あたりの旧譜ではないかと思ったのだが、ブラーのリリースされたばかりのセカンド・アルバム「モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ」からの1曲であった。CDのジャケットにはレトロな感じの機関車のような絵が描かれている。もちろんすぐに買ったのだが、家に帰ってちゃんと聴いてみて、それは「ブルー・ジーンズ」という曲だということが分かった。

 

エアー・クッション・ソールをポートベロー・ロードで買った、土曜日にとはじまるこの曲は、とてもイギリスらしいポップスだと思った。エアー・クッション・ソールという単語は、当時、何誌か購読していたイギリスの雑誌に載っていたドクターマーチンの広告で見た覚えがあった。ポートベロー・ロードはマーケットが開かれることで有名なイギリスの通りである。そして、曲の主人公である男性はブルー・ジーンズを毎日履いているが、特にそれを変えるつもりもないという。自分がなにを言ったとしても彼女は気にしない、この状態を変えたいとは思わないし、むしろずっとこのままでいたい、とどこか気だるげノスタルジックなこの曲は続いていく。「モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ」のリリース日は1993年5月10日だということなので、おそらくそれぐらいの時期のことである。

 

ブラーというバンドのことを知ったのは1991年であり、シングル「ゼアズ・ノー・アザー・ウェイ」が全英シングル・チャートで最高8位を記録した頃である。ザ・ストーン・ローゼズやハッピー・マンデーズといったマンチェスターのバンドが1980年代の終わり頃にインディー・ロックとダンス・ミュージックを融合させ、マッドチェスターとかイギリスではバギー、日本のごく一部ではおマンチェなどと呼ばれた音楽が盛り上がる。追随する新しいバンドが次々と現れ、おそらくブラーもその1つのような感じだったので、おそらく人気は長続きしないだろうと思っていた。当時、知り合ったインディー・ロック好きの友人は、ブラーのことを天才音楽集団だと言っていたのだが。確かこの頃にも渋谷のフリスコに行って、「ゼアズ・ノー・アザー・ウェイ」が収録されたデビュー・アルバム「レジャー」がかかっている場面に遭遇したことがある。たまたまかかっていた曲にそれほど魅力を感じず、このアルバムを買うこともなかった。しかし、その後にシングル・カットされた「バング」のCDシングルは買っていたりする。

 

その年の秋にはニルヴァーナの「ネヴァーマインド」がリリースされ、誰もが予測しなかった規模での大ヒットを記録し、ポップ・ミュージック界の話題を独占、という感じになっていく。新しもの好きのイギリスの音楽誌においても然りであり、トレンドの中心はイギリスのマンチェスターからアメリカのシアトルに移ったかのようであった。翌年、ブラーは路線を変更したシングル「ポップシーン」をリリースしたが、これが全英シングル・チャートの30位にも入らず、商業的には失敗と見なされていた。また、ジーザス&メリー・チェイン、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、ダイナソーJRといった轟音系のバンドたちと一緒にローラーコースター・ツアーなるものにも参加するが、その演奏はあまり芳しいものではなかったと伝えられている。当時のブラーには一発屋に終わりそうな雰囲気が漂っていたのだが、さらにこの頃、マネージメントの失敗などによる多額の借金があることが判明し、その返済のために長いアメリカ・ツアーに出ることになる。

 

ブラーの演奏はアメリカで受けず、バンドの雰囲気はどんどん険悪になっていったという。その頃、イギリスではスウェードがデビューし、インディー・ロック界の話題をほぼ独占していた。当時、夏の音楽フェスティヴァルに出演したブラーの写真を音楽雑誌で見た。メガネとスーツを着用して歌うデーモン・アルバーンは、場違いで迷走しているようにも見えた。アメリカ・ツアーではホームシックが酷くなり、すべてのアメリカ的なものに嫌気がさしていたという。本国のイギリスにおいてさえ、ニルヴァーナのブレイク後、アメリカのグランジ・ロックやそれを取り巻くカルチャーがトレンドのようになっていた。そのような状況で、イギリスのバンドだが注目を集めるスウェードに対しては嫉妬の感情が渦巻いている状態だったのだという。ブラーが古き良きイギリスというコンセプトに出会ったのは、このような過酷な状況が導いた必然であり、ある意味においては現実逃避的なものだったのかもしれない。しかし、その末に完成したアルバムが単なるノスタルジックな珍盤に終わらず、その後のムーヴメントにおける重要作品と見なされるようになったのは、そのコンテンツの質の高さ、そして、タイミングも大きく影響したような気もする。

 

音楽雑誌に掲載されたブラーの写真には「ブリティッシュ・イメージ」というタイトルが付けられ、スーツやフレッドペリーのポロシャツとブルー・ジーンズといった服装のメンバーが写されていた。先行シングル「フォー・トゥモロー」のミュージック・ビデオがそうであったように、トーンはモノクロである。当初、XTCのアンディー・パートリッジのプロデュースでプロジェクトは進行したが、音楽性の違いなどによって途中で解任、代わってスティーヴン・ストリートらを迎えたこのアルバムの制作時のタイトルは「イギリス対アメリカ」でもあったのだという。シングル向きの曲が無いというレーベルからの指摘によって、デーモン・アルバーンが1992年のクリスマスに書き上げたのが「フォー・トゥモロー」だというが、この曲の歌詞に登場するフレーズ「モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ」が、アルバム・タイトルにもなった。

 

当時、ひじょうに人気があったイギリスの音楽雑誌「セレクト」にもブラーのインタヴュー記事が載っていて、そこではメンバーがラジオを聴いている。イギリスの伝説的なDJ、ジョン・ピールはまだ存命で、番組で「フォー・トゥモロー」をかけた後、この曲が収録されるアルバムのタイトルが「モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ」、つまり「現代の生活はゴミ」であることに言及、このバンドとユーモアの感覚を共有しているようだ、というようなことを言うと、それを聞いたメンバーが歓喜するという状況が描写されていた。

 

「モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ」の全英アルバム・チャートにおける最高位は15位であり、ブラーの全オリジナル・アルバム中で最も低い。その少し前にリリースされたスウェードのデビュー・アルバムが初登場1位だったので、その差もこの時点では歴然であった。スウェードの元メンバーで、フロントマンであるブレット・アンダーソンのパートナーでもあったジャスティーン・フリッシュマンが破局、脱退後にデーモン・アルバーンと付き合っていることも話題になっていた。スウェードのアルバムに収録されたある曲は、デーモン・アルバーンのことを歌っているのではないか、などとも言われていたような気もする。

 

スウェードの人気は急上昇していたが、イギリスのインディー・ロック、後にブリットポップと呼ばれるものがこの時点でそれほど盛り上がっていたわけではけしてなかったと思う。レディオヘッドの「クリープ」がアメリカのカレッジ・ラジオで受けて、逆輸入のようなかたちでイギリスでもヒットしたり、1970年代から活動するカルト・バンド、パルプが苦節の末にメジャーのアイランドと契約し、秋にシングル「リップグロス」をリリースするなどの状況はあった。ジャスティーン・フリッシュマンが率いるエラスティカがデビュー・シングル「スタッター」をリリースし、大絶賛されるが、これは「NME」が広めようとしていたNWONW(ニュー・ウェイヴ・オブ・ニュー・ウェイヴ)の一環とされていた。

 

この時点でイギリス的な音楽として明確なコンセプトと充実したコンセプトによって指標となったアルバムとして、「モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ」はひじょうに重要であると、後付けでならはっきりと言うことができる。そして、これらの流れをブリットポップという、ポップ・カルチャーに変換する決定的な契機になったのは、おそらくブラーが翌年にリリースしたシングル「ガールズ・アンド・ボーイズ」であり、それはこの曲のミュージック・ビデオが「フォー・トゥモロー」とは対照的な総天然色だったことが大きいのではないかと、わりと真剣に考えている。

 

 

 

 

 

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