デイヴ「サイコドラマ」について。 | …

i am so disappointed.

イギリスのラッパー、デイヴのデビュー・アルバム「サイコドラマ」が先日、リリースされた。デイヴはロンドンのストリーサム地区出身で、まだ20歳である。2016年のデビューEP「シックス・パス」以降、いくつかのシングルやEPをリリース、2018年には「ファンキー・フライデー」が全英シングル・チャートで1位を記録している(今回のアルバムには収録されていない)。期待のニュー・アーティストによる待望のデビュー・アルバム、「サイコドラマ」はそのような期待を大きく上回る素晴らしい作品であった。

 

アルバムは「2018年1月23日、火曜日、デイヴィッドとの最初のセッション」という心理療法士の言葉からはじまる。デイヴは自身のメンタルヘルス、そしてその治療について告白する。「サイコドラマ」はコンセプト・アルバムであり、リスナーはデイヴのリアルで告白的な表現に没入し、心理的な旅を体験することができる。その内容はきわめて個人的なものであると同時に、現在の社会における諸問題について言及し、強いメッセージを発するものである。

 

「ストリーサム」では生まれ育った地元の環境について、「ブラック」においては人種差別をテーマにしている。そして、最も印象的だと感じたのが、アルバムの後半に収録された「レズリー」である。電車の中で知り合った近所に住む妊娠している女性がテーマになっているらしく、彼女は同居する男性から日常的に暴力を受けている。11分間にも及ぶこの楽曲において、デイヴは彼女についてのストーリーをリアルに描写する。そしてその後に、これはただの楽曲ではなく、男性から危害を受けている女性へのメッセージだ、もしもこのような状況に置かれているならば、どうかサポートを受けてほしい、というようなことをラップする。

 

アルバムの最後に収録された「ドラマ」では、終身刑で服役している兄からの電話がサンプリングされている。

 

このように取り上げられたテーマはヘヴィーなものだが、それが高い音楽性とスキルによって、優れたポップ・ミュージックとして昇華されている。サブスクリプションサービスによるストリーミングの時代、音楽は情報として次々と流れていく。かつてステレオの前で歌詞カードを読みながら、ヘッドフォンから聴こえる音楽や言葉を魂に注入しようと、集中して聴いていた頃とは変わってしまったが、それが時代の流れかもしれない。意味よりも気分が重要視され、じっくり聴き込んでこそ良さが分かるものよりも、一瞬で興味を引くキャッチーなものの方に価値があり、意図してそのようなつくり方がされている作品も少なくはないだろう。それはそれで新しいし、なかなかおもしろいと思うのだ。しかし、それはある意味において、ポップ・ミュージックファンとしての私の諦念でもあったのだろう。

 

ポップ・ミュージックは意味があり、重要な内容を優れたアートフォームとして表現することが現在もまだじゅうぶんにできる。「サイコドラマ」はそのようなことを感じさせてくれるアルバムである。

 

 

 

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