「M-1グランプリ」ほどの思い入れがそれほど無かったこともあり、どのような結果にせよアンチクライマックス感を覚えることもなく、純粋に普段あまり見られない芸人たちのネタがたくさん観られる番組として楽しむことができた。特にマツモトクラブの今回のネタを観ることができたのが、最大の収穫であった。
お笑いになにを求めるかというのは人それぞれであり、また、同じ人であってもその時の精神応対や置かれた状況、体調や虫歯が痛いかどうかなどによって感じ方はかなり異なるのだろう。つまり、それほど当てにならないのである。よしもとクリエイティブ・エージェンシー大阪やここの出身者に好きなタイプの芸人が多い私だが、「R-1ぐらんぷり2019」で圧倒的に最も好きだったのがマツモトクラブである。所属はSMAで、「R-1ぐらんぷり」では5年連続の決勝進出、そのうち4回は復活ステージからの進出だという。
今回も準決勝で落選していたのだが、決勝ステージにおいて観客投票で2位に選ばれ、Bブロックでの決勝進出となった。「R-1ぐらんぷり」は一昨年を除いて、近年は毎年観ているはずなので、マツモトクラブのネタも何度か観ている。演劇的で小さな感動があるタイプの芸風というイメージがなんとなくあったのだが、それほど特に強く印象に残っていたわけでもなかった。それがなぜ今回はこんなに良いと思ったのかは、おそらく偶然なのだろう。
復活ステージは仕事の休憩中にGYAO!の生配信で視聴していて、個人的に100点満点で採点も行っていた。その時点でもマツモトクラブだけが90点を超えていた。音響を使用した演劇的なコントだったが、ペーソスの中に温かさがあり、洒落たセンスと演技力とのバランスが絶妙であった。そもそも私はお笑いにこういう要素を求めていたのかというとそうでもないような気がするのだが、今回、このネタにかなりグッときたことは間違いなく、たまたまこういうものを必要としているタイミングだったのだろう。
復活ステージにはフリップを使う芸人がひじょうに多く、しかもそれぞれ個性的でクオリティーも高かった。中でも寺田寛明はおそらく初めて観たのだが、復活ステージで観たネタではマツモトクラブの次に好きであった。また、僻みや妬みがベースとなった陰湿なタイプの笑いは心底好みではないなとも思った。
決勝でAブロックが終わった後、復活ステージ2位の発表があり、マツモトクラブが選ばれたのだが、正直、個人的にはこれ以外にないというぐらいに大好きだったのだが、客観的にはやや地味なのではないかと思ったことと、より話題性のある芸人が決勝進出しそうな気がしていたので、これには軽い感動を覚えた。
A、B、Cのそれぞれのブロックにおいて、審査員の得点合計や得点をあたえた人数によってそれぞれセルライトスパ大須賀、粗品、松本りんすが最終決戦に駒を進めたのだが、個人的な評価ではこがけん、マツモトクラブ、三浦マイルドであり、すべてが異なった結果となった。しかしまあこれは好みの問題がひじょうに大きく、それほど違和感を覚えたり不機嫌になることもなかった。
最終決戦に進出した3名がいずれも普段はコンビで活動している芸人で、ここが話題にもなっていたようである。私が各ブロックで最も高く評価した芸人たちはたまたま全員が純然たるピン芸人だったのだが、別に普段はコンビで活動していたとしても一人芸として面白ければ良いのではないかと思う。「M-1グランプリ」にも決勝進出した例はいまのところ無いものの、ピン芸人同士が即席のコンビやトリオで出場する場合もあり、現在、人気急上昇中の漫才コンビ、EXITなども元々はそうだったのだという。あと、個人的には大いなるアンチクライマックスに終わった「M-1グランプリ2018」の予選においては、ピン芸人であるYes!アキト、サツマカワRPG、どんぐりたけしによる怪奇!YesどんぐりRPGのネタが話題になったりもした。
特に優勝した粗品は霜降り明星を結成する前からピン芸人として活動していて、しかも2012年の「オールザッツ漫才」では19歳にしてFootCutバトルで優勝したりもしていた。この番組は近畿地方でしか視聴することができなかったため、この日、私は大阪のホテルに宿泊までして観ていたのだが、その新感覚の高速フリップ芸は圧倒的であり、ニュースターの誕生を目撃した気分であった。実際に「オールザッツ漫才」をきっかけとして全国的にブレイクする芸人は多く、粗品もそうなるのではないかという気がしていたのだが、その後、漫才コンビを組んで活動していくということが発表された。あんなに面白いピンネタがあるのに勿体ないと思ったことを覚えているのだが、同じように感じていたお笑いファンも少なくないのではないだろうか。
このような状況があったため、粗品と霜降り明星を結成したせいやには当初、相当のプレッシャーがあったようである。ちなみに粗品は霜降り明星を結成した当初、芸名を本名の佐々木にしていたが、いつの間にか粗品に戻っていた。霜降り明星がコンビとしてとても面白くなったのはせいやの覚醒によるところが大きいように思えるのだが、2017年暮れの「オールザッツ漫才」において、ただただナンセンスなことをずっと言い続けるという芸風となかやまきんに君とのバトルなど、あの回におけるMVPといえる大活躍であった。
今回、「R-1ぐらんぷり2019」の復活ステージにおいて、せいやはその延長線上にあるともいえるネタをやっていたのだが、「オールザッツ漫才」においては最高に面白いと思えたのだが、このような大会ではもっと別のタイプの芸が評価されるべきではないか、などと感じてしまった。あくまで個人的な趣味の話なのだが。「M-1グランプリ2018」の結果が個人的に大いなるアンチクライマックスだったのも、霜降り明星は好きだったのだが、「M-1グランプリ」で和牛などを下して優勝ということ自体に対する違和感だったのだろう。しかし、これも私の趣味嗜好や「M-1グランプリ」というコンテンツに対する固定概念が原因であり、時代は変わっていくのだからあれはあれで正しいのだろう。
2012年の「オールザッツ漫才」で観た時点で、当時、まだ19歳であった粗品のフリップ芸は衝撃的だったし、天才現ると感じた。今回、「R-1ぐらんぷり2019」で披露したネタの中に当時からすでにやっていたものも含まれていて、まさにベスト・オブ的な内容だったのだろうと感じた。パジャマを着てネタをやるのは、当時からである。また、この時の準優勝が「オールザッツ漫才」では好成績を残すことが多いクロスバー直撃であり、メンバーの前野悠介もまた、今回の「R-1ぐらんぷり2019」において決勝進出していたことも感慨深い。
また、MBSラジオの「笑い飯の金曜お楽しみアワー」という番組があり、この中で童貞の芸人のみによるエナジーボーイズというユニットが結成され、ヒューマン中村、ちぇく田、フラワーズオブロマンズ多和田と共に、粗品もメンバーの1人であった。というか、このユニットによる楽曲「Tomorrow」ではギターを弾いたり、当時から多才なところを見せていた。
ちぇく田は現在はSMAに所属し、ピン芸人として活動しているが、「R-1ぐらんぷり2019」終了後に粗品に対して祝福のツイートをしている。また、今回の「R-1ぐらんぷり2019」では準決勝を前に敗退してしまったヒューマン中村もまた、粗品を祝福すると共に「腐った瞬間終わる。前向きに、前向きに。やっぱり僕はまたR-1の決勝に出たい」「しのごの言わずに強いフリップネタ作ります!」とツイートしている。今回の「R-1ぐらんぷり2019」の予選で、ヒューマン中村は得意のフリップネタではなく一人コントもやっていたようなのだが、昨年末に道頓堀ZAZA POCKET'Sで観たライブのアンケートに、私はあのネタが一番面白かったと書いたのであった。まったくの余談だが、その日のライブでヒューマン中村と共に出演していた清友が出囃子に使っていた戦場ヶ原ひたぎ(斎藤千和)&貝木泥舟(三木眞一郎)「木枯らしセンティメント」をあれからかなり気に入っている。
話を「R-1ぐらんぷり2019」に戻すと、Aブロックのこがけんは海外の音楽や映画をテーマにしたネタが多く、クオリティーもひじょうに高い。今回のアメリカのロック歌手のようなやつもひじょうに面白く、個人的には最高得点だったのだがセルライトスパ大須賀の前に敗れていた。ちなみにセルライトスパのネタは大好きである。Bブロックでは個人的にはマツモトクラブが圧倒的に好きだったのだが、審査員による評価では粗品とおいでやす小田が同点、ルールによってより多くの審査員から得票があった粗品が最終決戦進出となった。おいでやす小田の勝ち組のネタを実はこの数日前のルミネtheよしもとで観ていて、おそらくこのネタで行くのだろうなと思ったのだが、やはりそうだった。ゴルフについてのボケで好きなものがあったのだが、「R-1ぐらんぷり2019」では割愛されていたようだ。個人的につけていた得点だが、iPhoneで視聴していた復活ステージで91点をつけたのと同じネタをマツモトクラブは決勝でもやったのだが、より大きな画面のテレビで観ることにより表情がより分かり、100点満点をつけることになった。女子高校生を性的に消費するようなタイプの感覚は私が最も忌み嫌うものの一つであるため、このようなタイプのネタに対しては0点となっているのだが、もちろん素人が趣味でつけている得点に過ぎないので意味はまったく無い。
こがけん辺りが優勝するとかなり盛り上がるような気がしたのだが、もちろん粗品もニュースターに相応しく、「M-1グランプリ」との初の二冠という話題性も含め、これはこれで良かったのではないかと思う。このご時世、これだけ順風満帆的だとマイルドな逆風もこれによって起こりがちだとは思うのだが、目指すところはすでにそれをものともしないレベルだと思うので、今後の活躍を期待したいと思う。
いろいろなタイプの、クオリティーが高いネタがいろいろ観られてコンテンツとしてとても楽しめたし、やはりなんといってもマツモトクラブのネタが本当に良かった。