今年は女性ソロ・アーティストのアルバムに素晴らしいものがひじょうに多いような印象があるのだが、最近聴いたムーの「フォーエバー・ネバーランド」もすごく良かった。ムーはデンマーク出身のシンガー・ソングライターで、メイジャー・レイザーのヒット曲「リーン・オン・ミー」などへの参加で知られている。本人名義でのアルバムとしては、今作がデビュー・アルバム「ノー・マイソロジー・トゥ・フォロー」以来、4年ぶりとなる。
アナログレコードに針を落としたような音ではじまる「イントロ」では、このアルバムの最後に収録された「パープル・ライク・ザ・サマー・レイン」の一部が歌われる。「ウェイ・ダウン」はシンセベースとダンスビートが印象的なエレクトロポップで、トロピカルなコーラスも絶妙である。続く「アイ・ウォント・ユー」ではファンキーなギター・フレーズがサンプリングされ、これもまた素晴らしいダンスポップなのだが、相手のすべてが大好きで心の底から欲しいと思う、人間にとって最も確実な情動の1つがリアルかつ強力に表現されている。と思いきや、曲は突然に終わり、インタールード的なセリフの後で、「ブラー」である。まるでブリットポップのバラードのようにしてはじまるが、途中からトライバルなビートを持つダンスポップとなり、バグパイプを思わせるようなサウンドも印象的である。
「ノスタルジア」ははじめて恋に落ちた1997年のことについて歌われている。雲の切れ間から日差しが射したというような歌詞のイメージが音像化されたかのような、最高のポップスである。続く「サン・イン・アワ・アイズ」はディプロとコラボレートした楽曲で、ピアノの伴奏がついたバラードかと思いきやミニマルなニュー・ウェイヴ調になり、ダンスビートが強くなっていく。「ララララ」というコーラスもポップでとても印象的である。このアルバムは編集にもひじょうに凝られていて、アナログレコードのヒスノイズのようなものが入っている。CD時代のアーティストが効果音的にこういう音を使うケースというのはこれまでにも多々あったのだが、ムーのアルバムに収録された音楽はひじょうに現在的なものである。次の「マーシー」などはわりとオーセンティックなバラードではあるのだが、声を加工してサンプリングしたような音が用いられていて、ものすごくポップなのだが、どこか新しくてユニークな部分が必ずある。
「イフ・イッツ・オーヴァー」はチャーリー・エックス・シー・エックスとのコラボレート曲で、ダンスポップでありながら一本調子ではない、ポップではあるのだが実験性が見られるこのアルバムを構成する、これも強力な1ピースである。「ウェスト・ハリウッド」はインタールード的に収録された短めのバラードだが、アルバムのトレーラーにも使われている素晴らしい楽曲である。ハリウッドで夢を追いかけているが、時々、母に電話をかけて帰りたくなるというような内容が歌われている。「ビューティフル・レック」はトロピカルなサウンドと、ボーカルだけを厚く重ねたような音がとても印象的である。「レッド・ワイン」はエース・オブ・ベイスをクールにアップデートしたかのようなレゲエ・ポップ、「イマジナリー・フレンド」にはどこか切ない雰囲気が漂い、それがまたとても良い。バラードの「トライング・トゥ・ビー・グッド」を聴いていて、このアルバムを聴いていて感じる印象が、1993年にリリースされたビョークの「デビュー」を聴いた時に近いかもしれないと、少し思った。
アルバムの最後に収録された「パープル・ライク・ザ・サマー・レイン」もまた素晴らしく、アメリカン・ドリームの光と影、その果てに本当に求めるもの、というようなこれまでに数多くのアーティストが取り上げてきたテーマを最新のサウンドと感覚で表現しているかのようである。そして、この曲は再生の途中で電源を落としたかのように唐突に終わるのだが、再生ボタンを押すと「イントロ」でまたこの曲の一部からスタートする。
そして、このアルバムで最も素晴らしいのはムーのボーカルで、その声に幼さも感じさせる一方で、ロック的なエッジもある。ムーとはデンマーク語で「少女」を意味するらしい。1988年生まれのムーは幼い頃にスパイス・ガールズに夢中になり、その後はパンクロックや反ファシズムのムーヴメントに興味を持ったという。ソニック・ユースには強く影響を受け、キム・ゴードンをロールモデルとして意識しているという。現在のポップシーンにおいて、女性アーティストによる新しいポップスの中にひじょうに刺激的で優れたものが多いように感じているのだが、いまやこのようにオルタナティヴな価値観を持ったアーティストも、多くはポップスのジャンルに進出しているからということもあるのかもしれない。
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