WHY@DOLL「夜を泳いで」「Tokyo Dancing」などのこと。 | …

i am so disappointed.

WHY@DOLL「WHY@DOLL」は昨年8月にリリースされたこのユニットにとって2枚目のフルアルバムだが、前作の「Gemini」と比較して、より音楽性の幅が広がったこともあり、オーガニックガールズユニットというコンセプトにさらに近づいたような印象がある。

 

「Gemini」には現在もライブなどで人気が高い、都会的でカッコよくハイクオリティーな楽曲が多数収録されている。YouTubeで検索すると、おそらく当時の短いライブ映像がいくつか見つかるのだが、その当時、私はWHY@DOLLのことをまだ知らなかった。現在は当時と比べて、歌もダンスも格段にレベルが上がっているような気がする。

 

それはそうとして、「Gemini」は北海道から東京に出てきたWHY@DOLLが、アーバンでスタイリッシュなモードをモノにしたことにより、全体的な都会っぽさと、本来の素朴でナチュラルな本質とが黄金比といってもよいほどのバランスを保ち、聴き心地の良さやポップスとしての楽しさに繋がっているような気がする。実際にこのアルバムがリリースされた時点で、WHY@DOLLが活動拠点を東京に移してから2年以上が経過しているわけだが、ここには地方から出てきて徐々に都会に馴染んでいく時のイケイケな感じが出ているようにも思える。

 

それから約1年半後にリリースされたのが「WHY@DOLL」であり、前作からさらに成長を感じさせるアルバムである。「恋なのかな?」「恋はシュビドゥビドゥバ!」などは恋のはじまりのときめきを歌ったものであり、恋のかけひきを歌った「Tactics」や狂おしいほどの(おそらく)大人の片想いを歌った「ベクトル」が収録されていた「Gemini」と比べて、むしろ若返ったような印象も受けがちである。しかし、これらの曲はリアルタイムの当事者が歌っているいうよりは、酸いも甘いも嚙み分けて少し大人になった恋の先輩が、当時を思い出しながらエールを贈っているようにも聴こえる。

 

そして、アルバムの8,9曲目に収録された「夜を泳いで」「Hello Hello Hello」、この2曲では前作にはなかった過去を振り返るという視点が導入されている。

 

地方から出てきて東京で夢を追っているWHY@DOLLにおいては、そこに望郷という要素も入ってくるのである。

 

「Hello Hello Hello」はWHY@DOLLのリーダー、ちはるんこと青木千春さんによるソロ曲である。彼女は幼い頃にモーニング娘。の大ファンであり、札幌でコンサートがあった時には必ず行っていたほどなのだという。アイドルに憧れてオーディションに応募するのだが、審査の途中で落選してしまい、高校3年生にもなっていたので専門学校への進学も決める。双子の妹からあるオーディションのことを聞き、これが最後だと思って応募したところ合格し、後のWHY@DOLLでの活動に繋がっていったのだという。しかし、当初は候補生的な扱いであり、専門学校に通い、アルバイトもしながら、宣伝活動などを行っていたようである。

 

当初はバンドアイドルとして活動をはじめたWHY@DOLLだったが、紆余曲折があった末に、2013年の秋に青木千春さんと元々は同じ事務所の別グループで活動していたはーちゃんこと浦谷はるなさんとの2人組で、活動拠点を東京に移すことになる。もちろん、さらなる飛躍を目指してである。

 

青木千春さんの魅力はひじょうにはかり知れないものがあるのだが、私にとって最大のそれは、やはり天性のキャンディーボイスである。一言でいうと、声がすごくかわいい。それでいてちゃんと歌えるし、その歌に力強さを感じることさえある。これらを両立させることは、じつはかなり難しいのではないだろうか。

 

WHY@DOLLの音楽においては、都会的でカッコいい曲と、このちはるんのキャンディーボイスとの絶妙なギャップが魅力の1つなのではないかと思う。

 

ところが、この「Hello Hello Hello」はカントリー調のひじょうに優しい曲であり、レコーディングにおいては、この曲を書いた保阪ねこさんから、もっともっと優しく歌うようにと、再三の指導があったのだという。結果的に癒し要素の塊のようなすさまじい曲になっていて、アルバムの満足度を高める要素の1つになっている。

 

WHY@DOLLの曲は、ライブではメンバーがバッキバキに踊るタイプの曲が多いのだが、この曲においては、動きが少なく、ちはるんが鈴のようなものをを鳴らしながら歌うという、これまた癒される感じのパフォーマンスとなっている。

 

しかし、この曲はそんな曲調にぴったりな優しくて甘い内容を歌っているのかというと、けしてそんなことはない。

 

夢を追って都会に出てきたのだが、おそらく思っていたほど順調なことばかりではない。希望に溢れて、故郷を後にした日のことを夢に見る。

 

「見慣れた景色は 何も言わず 背中をそっと押したけど 19の春 すべてが眩しすぎる未来へ繋がっていく」

「難しい路線図も少し慣れた 行きつけのカフェと馴染みの顔 『待ってるね』 笑顔で見送ってくれた あの日が消えない」

 

そして、ちはるんはその甘く、優しい声で、しかし、力強くこう歌うのである。

 

「Hello Hello Hello ここにいると決めたの Hello Hello Hello 明日は明日の風が吹くわ」

 

 

アルバム「WHY@DOLL」において、この「Hello Hello Hello」の1曲前に収録されているのが、「夜を泳いで」である。「Hello Hello Hello」とはまったく別の作家によって書かれているのだが、そのテーマには共通する部分もある。そのような理由もあっての、この曲順なのであろう。

 

都会に出てきて何度目かの夏を迎え、気がつけば居場所もできたし、恋もした。笑いあえる友達もいる。しかし、ひとつ足りない「ピースの場所」があることが、本当は分かっている。

 

これは故郷にいる大切な人への想いを歌った曲である。しかし、それは自分自身のルーツそのものというような、広い意味を含んでいるようにも思える。

 

「もしも魔法が 使えたら なんて 意味ない ことばかり思うよ 君に会いたくて」

 

WHY@DOLLの曲には「魔法」というワードが、よく出てくる。ライブの定番曲「秒速Party Night」においては、「オレンジのグロス 月に似てるColor」という理由で、「なんでも魔法に変わる」ほか、はーちゃんが「魔法はもう ずっと とけないわ」と歌っている間、ちはるんはファンに魔法をかけるようなアクションをして、ファンもそれをコピーする。最新シングル「Show Me Smile」のテーマは、「魔法の笑顔」である。

 

私が大好きな1960年代のアメリカのバンド、ラヴィン・スプーンフルに「魔法を信じるかい?」というヒット曲があるが、ポップ・ミュージックとは、退屈で冴えない日常をカラフルに塗り替えてくれる「魔法」のようなものでもある。

 

「夜を泳いで」は、「魔法」が使えたらという思いを「意味ない」と歌うことにより、リアリティーを実現し、それ自体が聴くものを魅了する新たな「魔法」になり得ているというような作品である。

 

そして、さらに曲を聴き続けていくと、次のような箇所があるのである。

 

「光れ魔法 この街も 同じはずの 浮かぶ月 眺めても どこか違うから」

 

それでも「魔法」を「光れ」と願ってしまうし、このパートにおいては、「眺めても」は5文字の歌詞を4つの音符で歌っていて、はーちゃんの歌は最後の「も」の母音が聴き取れるか取れないかになっているのだが、ここが何だかすごくカッコよくて好きである。

 

「夜を泳いで」の作詞は仮谷せいらさん、作曲はgive me walletsのJess & Kenjiである。

 

仮谷せいらさんはWHY@DOLLのメンバーと同世代の女性シンガーソングライターで、大阪出身だが、2014年から拠点を東京に移して活動している。「夜を泳いで」の歌詞については、同じく地方から出てきて東京で夢を追って頑張っているWHY@DOLLのことを思って書いたようである。レコーディング前に、はーちゃんは移動の車の中でこの曲のデモを聴いていたのだが、歌詞を見て半分泣いてしまったと話している。

 

 

アルバム「WHY@DOLL」には、「作詞:仮谷せいら、作曲・編曲:Jess & Kenji(give me wallets)」とクレジットされた曲がもう1曲収録されている。いまやライブの定番曲となった「Tokyo Dancing」である。

 

「WHY@DOLL」をはじめて聴いた時、アルバム全10曲ちゅう、「菫アイオライト」「キミはSteady」という強力なシングル曲をいきなり1、2曲に持ってきて大丈夫かと心配したのだが、3曲目に収録されたこの曲が強力なのでこれは大丈夫だろうと思ったのだが、アルバム全体はさらに素晴らしい内容であった。

 

曲調はアゲアゲで、最高にゴキゲンなダンス・チューンである。作曲・編曲のJess & Kenji(give me wallets)はカイリー・ミノーグあたりをイメージしたということだが、初期のユーロビート期というよりはデコンストラクションを経由して、1999年のパーロフォン移籍後の方に近いような気がする。

 

歌詞は東京の街をダンスフロアに見立て、歌詞には「赤くタワー 灯してスタート 丸いドーム 回してさDJ お台場から七色の光 ミラーボール」「黄金の雲にまたがって 空のツリー 右手に持って パトロール 電気街 スクランブル」と、東京のご当地スポットがいくつも登場する。「黄金の雲」は、浅草にあるアサヒビール本社ビル隣りのオブジェのことであろう。

 

「涙なら空に飛ばそう 明日から笑顔のナイアガラ」という歌詞があるが、「夜を泳いで」にも「笑い声の雨 降らせて ふたりの街に虹の橋をかけよう」という歌詞があり、どうやら仮谷せいらさんには笑いが空から降ってくるというイメージがあるようである。

 

「辛いなら 忘れにおいで いつでも 笑顔にする 今夜は 僕らの終わることの ないワンダーランド」

 

この曲の中で、というかもしかするとWHY@DOLLのライブの中で私が最も好きなのではないかという箇所である。日常は基本的に「辛い」ものであるという前提、だからこそいま、この場所が「ワンダーランド」なのだが、その舞台を東京の街そのものにしてしまうというのが、地方出身者ならではのリアリティーなのではないか。と、同じく地方出身者である私は思うのである。

 

 

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ポップ・ミュージックに思い入れを持てるかどうかについては、リアリティーとファンタジーとのバランスがひじょうに重要なのではないかと私は思うのだが、「Tokyo Dancing」においては、やはり「辛いなら忘れにおいで」がひじょうに大きい。

 

それでは、この曲の歌詞を書いた仮谷せいらさんとはどのようなアーティストなのかといくつかの曲を聴いてみたのだが、ひじょうにユニークで、すっかり気に入ってしまったのである。

 

まず声がすごく好きなのだが、それから曲はポップでキャッチーなのだが、歌詞にブルーズがにじみ出ていて、そこがすごく良い。

 

2015年にリリースされた「Nobi Nobi No Style」においては、イヤフォンの片方が聞こえない、前髪がうねりっぱなし、財布の中には昨日からスリーコインだけというような、きわめて日常的だが確実に心にダメージをあたえていくような状況が歌われる。さらに電車の乗り換えをシミュレーションし、なんとかすり抜けたと思ったら、改札で止められてしまう。そして、キャッチーなサビの歌詞は「バリバリなスマホでも Party Partyしたいの」である。つまり、スマートフォンの画面が割れているのである。

 

コーヒーをこぼしてテンションが下がり、火傷はないが少ししかない休憩時間がさらに短くなるし、奮発して買ったワンピースは間違えて洗濯機に入れてしまい、縮んでしまう。

 

ちょっとした不幸あるあるのオンパレードだが、笑いとばしてネタにしているわけでも、自虐的な恨み節になっているわけでもない。あくまで、ポップでキャッチーなのである。そして、こんなふうに歌う。

 

「何だって気持ち次第で楽しめちゃう」

 

 

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同じミニアルバムに収録された「MYC」は、身の回りにある些細だけれどもしあわせにしてくれることをもっと感じていこう、という内容の曲である。「寝癖が少なかった」「メイクが決まった」「ふと目が合った 知らない彼の笑顔にキュンとした」、さらには「モヤシが安かった」「揚げたてが買えた」「コンビニのお会計 7が並んだ」などが挙げられる。

 

同じく2015年にリリースされた「Nayameru Gendai Girl」だが、こちらも曲はとてもポップでキャッチーである。

 

「朝から晩まで空腹で 働く現代ガール なんて切ないWORLD(切ないWORLD) 蹴とばすわ(蹴とばすわ)」

「無理やり 浮腫んだ足をヒールで 連れ出す現代ガール ほんときびしいWORLD(きびしいWORLD) 蹴散らすわ」

 

 

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そして、2016年リリースの「Colorful World」である。夢を追いかけて、都会に出てきて頑張っている女性の葛藤がテーマになっている。地に足の着いたリアリティー、つまり冴えない日常が描かれているのだが、それでも頑張っていこうというメッセージが、やはり核になっている。

 

「Steppin' to the Colorful World 塗り替えよう 今夜 僕らのワンダーランド」

「何度だって 好きな色を重ねて この瞬間 思うまま 走り出そう きっと 世界は変わる」

 

 

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なるほど、このような作風のアーティストが「夜を泳いで」や「Tokyo Dancing」の歌詞を書いたのは、ひじょうによく分かる。「Colorful World」では、「Tokyo Dancing」と同じく「ワンダーランド」というキーワードも用いられている。

 

WHY@DOLLと仮谷せいらさんとが、来週の水曜日、3月14日に渋谷Gladで2マンライブを行うという。詳細やチケットの購入方法などについては、WHY@DOLLのオフィシャルウェブサイトに載っているはずである。

 

WHY@DOLLはワンマンライブツアー中で、3月24日のツアーファイナルへ向けて勢いをつけている最中だと思うのだが、そんな中でのホームグラウンドでのライブである。いまやWHY@DOLLのライブにおいてひじょうに重要な曲になった「Tokyo Dancing」「夜を泳いで」を書いた仮谷せいらさんとのツーマンライブには、コラボレーションやいろいろな意味での化学反応も期待できるのではないだろうか。