lyrical school「夏休みのBABY」のこと。 | …

i am so disappointed.

夏が終わる前に、lyrical schoolの「夏休みのBABY」について書いておきたかった。なぜなら、今年のサマーアンセム、心のベストテン第1位はこの曲だったからだ。

 

大好きな夏が終わるのはとても寂しい。毎年、いつもそんな風に感じている。しかし、今年は違う。だから思うのだ。去年までの夏の終わりが寂しかったのは、そこにやり残し感のようなものがあったからではないか、と。

 

夏が大好きだといったところで、特に何をする訳でもない。何となく気分が高揚して、夏の曲を集めたプレイリスト(昔はカセット、その後、少しだけMD)を作ったり、夏の映画(「バッド・チューニング」「アメリカン・グラフィティ」「ドゥ・ザ・ライト・シング」「バタアシ金魚」)を観直してみる程度である。そして、ほとんどずっと仕事をしている。短い休みが取れるのは9月になってからで、それもだいたい2~3日程度、実家に帰って終わりである。つまり、夏の間は海にも山にも避暑地にも花火にすら行かない。それを何年も続けている。

 

だから夏の思い出と呼べるようなものもほとんど何も無いまま、気がつけば夏は終わりかけている。だから、夏の終わりはいつも寂しい。

 

今年もずっと仕事をしていたし、まとまった休みは取っていない。海にも山にも避暑地にも花火にすら行っていない。しかし、8月15日、私は雨の代々木公園、その野外ステージの前にいた。

 

lyrical schoolのメンバーの誰かが、「サマーファンデーション」の歌詞を叫んだ。

 

「多分だけど絶対今日のこと ずっと忘れないと思うんだ」

 

私はそれにグッときていたし、確かにその通りだろうと思った。

 

私が現在このように日本の新しい音楽を聴くようになったきっかけは、昨年、Negiccoをはじめて聴いたことである。関連アーティストの作品を聴いているうちに、どんどん世界が広がっていった。

 

Negiccoとlyrical schoolとの、野外フリーライブがあることを知った。その日はあらかじめ仕事が入っていたため、行くつもりはなかった。

 

lyrical schoolはヒップホップを取り入れた音楽をやるアイドルグループだということを、昨年のある段階で何となく認識していた。シングル「RUN and RUN」は、スマートフォンで視聴することに最適化された縦長のミュージックビデオが話題になっていた。Negiccoのリリースイベントにメンバーの誰かが来ていた、という話も聞いたことがある。

 

音楽性はわりと好みだったが、だからといってより深く調べたり、掘り下げて聴いていったりというほどではなかった。そのうち、メンバーチェンジがあり、新体制になるというニュースを目にした。そして、新体制になって最初のリリースが、シングル「夏休みのBABY」である。タイトルを聴いて、これはわりと好きなのではないかという予感がした。Apple Musicのカタログには入っていなかったから、iTunesストアで視聴し、数十秒間聴いた段階でダウンロード購入した。

 

音楽性も最高だし、歌詞も日本の夏あるあるモノとして、スチャダラパー「サマージャム'95」、RHYMESTER「フラッシュバック、夏。」などと並べて聴いたりも、よくしていた。

 

Negiccoとlyrical schoolとのツーマンフリーライブのオープニングアクトは、昨年からNegiccoと同じレーベルになった北海道出身のアイドルユニット、WHY@DOLLらしい。少し前に出たアルバムがとても良かったので、ヴィレッジヴァンガード渋谷本店で行われたリリースイベントに行ってみた。そこではじめてパフォーマンスを、しかもかなりの至近距離で見たのだが、すっかり魅了されてしまった。その後の特典会にも参加したのだが、そこではじめて来たことを伝えると、はーちゃんから他に誰か好きなアイドルはいるかと聞かれた。もちろん正直にNegiccoの名前を答えたのだが、すると「15日来ますか?」と聞かれ、仕事があるのでその日は行けないと答えたはずである。だから、どの時点で行こうと決めたのか、いまとなってははっきり覚えてはいない。

 

大半がNegiccoかlyrical schoolが目当ての客だったとは思うのだが、WHY@DOLLのライブはわりと受けているように感じられた。曲もパフォーマンスも良いので、知られる機会が増えれば、おそらくもっと多くの人たちに響くのではないか、つい1週間ほど前まではメンバーの名前すらうろ覚えだったにもかかわらず、そのようなことを考えていた。

 

次はおそらく、lyrical schoolのライブであろう。曲は少しは聴いていたものの、メンバーのことやどのようなパフォーマンスをするのかなど、ほとんど何も知らないに等しい。そのような状態で、はじまるのを待った。

 

サングラスをしてデイパックを背負った、まるで夏休みの1コマのように、思い思いのカジュアルな格好をしているように見える女の子たちが、ステージにあらわれた。これが、lyrical schoolか。

 

衣装も歌も振り付けもきっちりキメていくタイプのWHY@DOLLとはある意味好対照、これだけでも現在のアイドルの多様性が分かるというものである。

 

自己紹介風のラップのトラックは、まるで80年代初期のような、ロックのフレーズのサンプリングにビートを付けたようなものだ。パンク/ニュー・ウェイヴとヒップホップのリスナーとがまだそれほど分かれていなかった頃のサウンドとよく似ている。

 

そして、メンバーは本当に楽しそうにラップし、ステージを動き回る。単にアイドルポップスにヒップホップの要素を取り入れたということではなく、あの頃のヒップホップが感じさせてくれた自由の感覚、それがいま日本のアイドルポップスというジャンルにおいて、ステージ上で体現されているように思えた。

 

ライブというよりはパーティー、まさに祝祭空間とでもいうべきであろう。

 

その後、MCで各メンバーの自己紹介のようなものがあった。そこであるメンバーが、今日は雨だが、その方が伝説になるだろう、というようなことを言った。そう、人生に必要なのは、つまりそういうノリなのであろう。

 

lyrical schoolのパフォーマンスは本当に素晴らしかったが、中でも目を引いたのは青っぽいTシャツを着て茶色い髪をした、体の小さなメンバーである。そのラップや身体の動きから、生きることの喜びが溢れだしているようであった。家に帰ってから調べたところ、新しく加入したrisanoというメンバーのようであった。

 

じつに堂々としていて、パフォーマンスを楽しんでいるようだったが、じつはとても緊張していて、掌に他のメンバーから励ましの言葉を黒マジックで書いてもらっていたことを、後で知った。

 

「夏休みのBABY」は、もうどうかしているような夏の非日常感をチャントのように讃える序盤から、夏は最高だと宣言してスクリーム、アース・ウィンド&ファイアー「レッツ・グルーヴ」の記憶など、とにかく最高の夏の音楽である。

 

lyrical schoolnolの圧巻のステージの後、実質上のヘッドライナーとなったNegiccoは、普段のライブではラスト近くやアンコールでパフォーマンスされるようなキラーチューンを連発し、最後にはアイドルポップスの新たな地平を切り開くような、現時点での今年の代表曲、「愛は光」で会場を感動につつんだ。

 

WHY@DOLL、lyrical school、Negicco、すべてのグループをより好きにさせる、素晴らしいライブであった。

 

そして、真夏の雨の記憶と共に強くなったこの思いは、これからずっともっと深くなっていくに違いない。だから、夏が終わることが寂しくはないのだ。

 

「夏は単なる季節ではない。それは心の状態だ」

 

中学生の頃に愛読していた小説の表紙に、作家の片岡義男が書いていた言葉だ。

 

これからたとえ凍えるような冬の日が訪れたとしても(そう、それはかなりの確率で実際に訪れるのだ)、「夏休みのBABY」を聴けば、心には夏がよみがえるだろう。