(山あいの一軒宿「赤石温泉」)
「ようこそいらっしゃいませ」
2年ぶりに訪れた赤石温泉は、その佇まいも出迎えてくれた女将さん(もはや年齢不詳の山姥状態)も何も変わっていなかった。
老夫婦お二人で営む赤石温泉は、ご主人の趣味であちこちに趣向を凝らしたものがある。
たとえば宿のアイコンともいうべき水車もそのひとつ。筧からの水で水車は時計回りに回転するはずだが、逆回転しているのだ。
(モーターがついているようには思えないのだが)
(妙連滝に住む竜神様のパワーだそうな)
宿は「昭和の頃の京都の修学旅行専門旅館」といった趣で、増築を重ねた複雑怪奇な構造をしている。案の定トイレにいったnobuさんは迷子になってしまった。
うふふ、まるで子供だね~と笑っていた私もあろうことか迷子に(汗)。
これに懲りたnobuさん、館内案内図を熱心に観察、
「部屋は全部で8つあるんですね~」と、土星の環を発見したガリレオ・ガリレイもかくやとばかりに興奮した様子。
寄る年波もあって大量の客をさばくのは大変なのだろう、ここは1部屋をリビングダイニングに、その隣の部屋を寝室にあてがうという1LDKスタイルなので4組で満室ということになる(紅葉シーズンの始まりとあってこの日は満室だった)。
露天風呂は翌土曜日の朝6時からということで、今日のところはとりあえず館内の岩風呂に浸かり運転の疲れを癒した一行(というか正確には疲れたのはnobuさんだけ)、いよいよお待ちかねのメシとあいなった。
(中央に鯉の洗い、馬刺し、天ぷらのメイン 奥にひと口穴子、おでん風煮込み、高野豆腐 手前のニジマス塩焼きは宿が夏の間営んでいる釣り堀のもの)
乾杯~。
心づくしの料理をツマミにビールから日本酒、そして焼酎に切り替えて久しぶりのブログ友との飲みを楽しんだ。
料理は旨いんだけどなんかこれ前も食ったなあと思ったら案の定、2年前の献立と全く変わっていないのである。
(2021年8月の晩メシ デザートまで全く同じ 強いて言えば鯉の洗いの飾りつけが違う)
時間が止まったかの感がある温泉宿。
なんだか異世界に迷い込んだような気分になった。
翌朝のメシは大広間で7時30分から。
腹を減らしまくった二人は時間通りに大広間にまろびこんだが、配膳はされているものの料理は何も並んでいない。
これはいったいどういうことかと、二人は年甲斐もなく厨房へ押しかけた(いちおう本人の名誉のためにつけ加えておくと、主導はあくまで私で、nobuさんは私の剣幕に押されて勢いでついてきちゃったという感じ)。
すると厨房の中から大声が聞こえてきた。どうやら夫婦喧嘩の真っ最中らしい。
その迫力たるや、東スポ風に表現すれば、
「八つ裂きにしてやる!竜神vs山姥10.28赤石温泉最終血戦」という感じである。
飛び交う怒号のインターバルを縫っておそるおそる声をかけた。
「すみません、すみませ~ん」
「ゼイゼイ、はーい」
と姿を現した女将さんの口の周りは竜神様の血で真っ赤か。
「おとりこみ中失礼します、メシはいつですか」
「今それどころじゃ、いえ7時50分。もとい、用意出来次第電話します」
スゴスゴと部屋に戻った二人はサタデープラスを見ながらじっと電話を待った。
そう遠くない将来宿は150年の歴史を閉じるのだろうと懸念していたが、あの元気なら当分大丈夫そうだ。
会計を済ませた後宿から10分ほどの所にある「妙連の滝」へ。ここまでの小径は主人自ら整備したものである。
(宿の裏からしか行けないのでほとんど知られていない秘滝)
宿に戻ると、どこからか「ありがとうございました~」と女将さんの声が響いた。
どうかお元気で。
後ろ髪をひかれるような思いで異世界を後にした。
(お世話になりました)
(参考)
・宿は冬季休業4月~11月は金土日営業
・露天風呂は土日のみオープン朝6時~
・露天風呂は朝イチは冷たいので朝メシを食ってから入ること