(「肉のわたなべ」謹製和牛ヒレ肉をレアに近いミディアムレアでいただく)
東京・杉並の我が家の近くにお住まいの飲みトモAさんからバーベキューに誘われた。
八ヶ岳南麓にあるAさんの妹さんBさんご夫妻の別荘に遊びに行くのでそこでやりましょうとのこと。もちろん私に否やはない。
妹さんとお目にかかるのは初めてだが、Bさんとは昨年久我山の焼き鳥屋でご一緒させていただいた縁がある。
「妹は料理が得意なので全部用意させます(キッパリ)」
Aさんは高らかに宣言したが、ああそうですかと乗っかるのは軽率というもの。
妹さんにしてみればAさんとそのパートナーCさんはまだしも、見ず知らずのレゲエのおじさんのために腕を振るわなくてならないという事態は決して愉快ではないだろう。ましてAさんの日頃の言動から察するに妹さんが子供の頃から理不尽な兄貴の命令にさんざんイヤな思いをしてきたことは想像に難くないからいよいよだ。
また週末別荘族のBさんご夫妻が何から何まで準備するというのも気の毒な話である。
ここは及ばずながら「毎日が土曜日」の私の出番だろう。そんなわけでワインと肉、野菜を前日に私が調達することにした。
さて何を選ぶか。
「大人のバーベキュー」とはどうあるべきだろう。
まずはっきりしていることは「もはやカロリーを追う世代ではない」ということである。
今回の参加者は妹さんを除いて皆さん前期高齢者。BBQの定番ウインナだの鶏肉だので腹を満たす必要は金輪際ない。
また、「一期一会 これが生涯最後のメシになるかも」という覚悟も重要だ。
パッと見皆さんそれほどカネに困っているようではないので、「肉のわたなべ」で一番値のはる「和牛ヒレステーキ肉」を買った。
(お一人様2000円なり 外で食ったと思えば安いもの)
「網奉行を置かない=ストレスの種をつくらない」という姿勢も重要である。
若い時分のバーベキューは缶ビール片手に、
「あ、そこ焦げてるよ」、「オレもらっちゃう~」なんて言いながらグリルの周りで熱々を食うのが楽しいものだが、そういうスタイルは高齢者には落ち着かないだけ。
といって生い先短いメンバーの中から網奉行を選抜するのもいかがなものか(立場的にどうせ私だし)。やはり全員イスに座って「来し方行く末に思いをはせ時々火加減を見に行く」というのがいいだろう。
そうなるとすぐ焦げ焦げになって高AGE値の権化となるタマネギ、ピーマンなんぞは不適切。シイタケ、エリンギ、ズッキーニをホイルで覆ってじっくり炙ることにした。
そしてワインである。
これまで何度も触れてきたが、「山梨県産赤ワインは不味い」のである。その原因は県内で生産される赤ワイン用ブドウの70%を占める「ベリーA」が不味いから。
ところが温暖化の影響は甲府盆地にも及んできていて、それまで出来が悪かった赤ワインに適した品種が彼の地でも十分育つようになりつつあるというのである。県内には約80のワイナリーがあるが、最近はベリーA以外の品種栽培に取り組む醸造家も増えてきた。
そんなわけで今回のチョイスは山梨県産シラーとピノノワールとした。
(駒園ヴィンヤード(旧五味酒造・甲州市)「Taoシラー」、同「PONYピノノワール」)
Bさんのお迎えで(帰りはアルコールを召し上がらない妹さんに送っていただいた)Bさん宅に着くとさっそく缶ビールで乾杯。
あいにくの空模様だがこの際室内でまったりしちゃおうという我々に天気は関係ない。デッキにカセットガス式のグリルを出してまずはステーキを焼き始めた。
前日にこちらに来たばかりの妹さんもAさんに恫喝されたせいなのか、赤ワインに合うツマミをふんだんに用意してくださった。
(お手製のリエット旨し 腹が膨れるのでクラッカーなしでむさぼり食った)
(こっちも具だけ拾い食い 品が悪くてど~もすみません)
(しまいにはチーズだけ持ってきていただく羽目に)
やがてミディアムレアに焼き上がったステーキが登場した。運搬役は当然ながら独り者で少々場違いな私である。
まずはシラーでやっていただいたが、シラーと牛ヒレはぴったんこ。皆さん旨い旨い、美味しいわと大喜び。悩んだ甲斐があったというものだ。
よい食い物、よい酒、よい会話。
やはり「大人のバーベキュー」はこうでなくてはいけません。
(シラーが空いたころにはレゲエのおじさん大暴れ)