(終の棲家基礎の配筋完了 やっと基礎らしい風情になってきた)
住み慣れた杉並の土地を面識のある不動産会社3社に売りに出したのが予定より遅れて7月の末、
そのうちの1社と売買契約を締結したのは9月の半ばのことである。
交渉にあたって仲介は不要、一発回答で最も高い買取価格を提示した会社と契約する旨を3社に伝えたところ、異口同音に「当社自身が買い手となり、ベストプライスで買わせていただきます」との小気味 よい回答があった。
買い手候補は以下である。
A社:かつて我が家を建ててもらった大手住宅会社の関係会社。親会社は上場企業でコンプライアンス
がうるさいからアコギなマネはしないはず
B社:地元杉並の中規模不動産会社。地元だからアコギなマネはできないはず
C社:終の棲家の土地の売り手でもある不動産会社。営業担当者がお調子がよくて(以下「銚子丸」と
呼ぶことにしよう)なんとなく信用できない。アコギなことをするとしたらここだ
どこが買うにしても土地を無理やり3区画に分割してミニ建売住宅を販売することは間違いない。そうなるとこの辺の新築物件の相場ははっきりしているから、販売額合計から建築コスト、販売利益その他もろもろを差っ引けば誰が買い手だとしても土地の買取価格は大同小異になるであろう。
一発回答の公平性を高めるため、申込はメールで一斉に受け取った。
A社:
「いろいろ検討したところ、当社で買い取るよりもゆるふわ様に有利な買い手が見つかりました。
買取価格は〇〇万円です。なおゆるふわ様からは仲介手数料は頂戴いたしません(←買い手からだ
け手数料をとるつもり)」
B社:
「いろいろ検討したところ(以下同じ)、買取価格は△△万円です。弊社への仲介手数料(←法定上限をもらうつもり)をお支払いいただいた後でも弊社提示価格が最高であるものと自負しております」
C社:
「いろいろ検討したところ(以下同じ)、買取価格は××万円です。なお弊社仲介手数料は通常の30%引きにマケちゃいます。ど~もスミマセン」
ったく、どいつもこいつも当たり前のような顔をしてあっさりと仲介に回っていやがる。全く食えない連中である。
それはともかく、当て馬のつもりだったC社の価格が群を抜いて高い。
これは新手の詐欺かも。
あるいは契約後になんだかんだと難癖をつけて価格をどんどん下げようという魂胆かもしれない。
不安にかられた私は二番札のA社の担当者に連絡をいれた。
「かくかくしかじかで他社から××万円というのが出ました」
「ええ~!弊社の価格の上を行くとはにわかに信じられません」
「私もこの辺の住宅相場を考えると買い手には利益が出ないんじゃないかと思えるんです」
「その会社、どうやって利益を出そうとしてるのかなあ」
これはやはりハイボールをまず投げてライバルを一掃したうえでじっくりとシロウトをいたぶりにかかる算段かもしれない、ということで意見は一致。万が一の際にはA社に提示価格で買っていただく、ということで確約を得た。これでひと安心、私もどこそこ食えないヤツである。
土地の買主は建売住宅専業の中堅デベロッパーとのこと。HPを見ると中々きちんとした会社らしい。
銚子丸氏も、
「ちゃんとした会社ですよ~」と言うが、食えないその口が信用できないのである。そこで工務店の営業担当氏に聞いてみると堅実で真面目な会社だというので、某日土地売買契約締結に臨むこととなった。
当日は契約書に貼る収入印紙を用意してくれというので持参したのだが、契約書の「特約」を見ると
「印紙代は売主(=私)の負担」となっている。
私は憤激した。
「あのさあ、私がおタクから土地を買った時は印紙代は折半したじゃないの」
(終の棲家の契約書 これが動かぬ証拠)
「ウフフ」
銚子丸氏がどこ吹く風とばかりにほくそ笑んだ。
「あれはあれ、これはこれです」
「・・・。あのさあ、あまりシロウトをいたぶるようなマネはしない方がいいよ」
「そんな、滅相もない。その分仲介手数料をサービスしたじゃあないですか~、どうも、どうも」
食えないヤツ。
とはいえ確かに仲介手数料の30%引きの方が印紙代なんぞとは比較にならない位大きい。それにしてもなんでこんなシミったれたところにC社がこだわるのか、イマイチ理解できないのである。
そうこうするうちに銚子丸氏は別の契約書面を持ってきた。
後出しじゃんけんながら土地の媒介契約を締結させてくれ、という。これがないと仲介手数料支払いの
根拠がないわけだから釈然とはしないものの当然といえば当然である。
契約書面は2通あった。「一般媒介契約(=当該物件の仲介業務を他の業者にも依頼できる契約)」と「専属専任媒介契約(=仲介業務を排他的に独占させる契約)」である。
「あのさ、もう取引は終わってるわけだから、契約はどっちか一つで十分でしょ」
「あはは~」
銚子丸氏が明るく笑う。
「成約実績だけでなく、媒介契約の締結件数も営業成績に響くんです~。だから二つ。どうも、どうも、
どうもスミマセン~」
これから長いつきあいになりそうな銚子丸氏だが、どこまでも食えない。