(平井屋のほうとう麺 我が家はいつもこれ
ほうとう麺ときしめんの違いは前者は食塩を使っていないこと ほうとうはすいとんの仲間だ)
「目には青葉 山ほととぎす 初かつを」 (山口素堂)
「秋ナスは嫁に食わすな」 (トマス・アキナス)
食い物に関する詩歌やアフォリズムは古今東西枚挙に暇がない。
山梨県のソウルフードである「ほうとう」にも、
「旨いもんだよカボチャのほうとう」
というのがある。
長年私はこの句はカボチャほうとうに対する賛辞だと思っていたのだが、どうやらそうではなく、なにかを賞賛するときの合いの手らしい。
(白鵬が土俵際でくるっと回転して体をいれかえる)
「てっ、うまいもんじゃんね~」
「旨いもんだよカボチャのほうとう!」
という感じ。フーテンの寅さんの「田えしたもんだよカエルのしょんべん、見上げたもんだよ屋根屋のふんどし」というのと同じようなものだ。
我が家ではほうとうをよく作る。
簡単で栄養のバランスもよく、主食としても肴としてもOK。しかも残りを翌日食っても旨いから大層重宝する。ここんとこ八ヶ岳南麓は肌寒い位の陽気なので、7月に入ってからもう二度こさえている。
我が家のほうとうの特徴は、まず「カボチャを使わない」こと。
カボチャを入れると煮崩れしてつゆがゲル状になってしまう。特に翌日はカボチャのムースのような食い物に変貌してすこぶる不味い。
我が家でも過去30年以上にわたりほうとうにカボチャを入れていた。
私は生来カボチャは嫌い(男性には多いですね)だが、女性の好きなモノと言えば「芋たこなんきん」
だから家内のために我慢してきた。
(これですがな NHK朝ドラ「芋たこなんきん」 2007主演藤山直美)
一方家内もカボチャにはそれほど価値を認めていなかったものの、ほうとうとなると私が「旨いもんだよ・・・」を念仏のように唱えるので儀礼的に入れていたという。この双方の誤解が今年の春に解消して以来、我が家はカボチャとはすっぱり縁を切った。
(有名店はみなカボチャ入り
左上から百間(石和)・いしはら(勝沼)・金峰(甲府)・松木坂(小淵沢))
もうひとつの特徴は「春菊を入れる」ことである。
我が家の庭には真冬と盛夏を除いて常にシュンギクが生えている。こいつはサラダによし、和え物によし、煮物によしという万能選手のうえに、間引き菜から董が立ったものまでおいしく食べられる。種を蒔いておけば勝手にスクスク成長するお勧めの野菜だ。
(4月に蒔いたものはもう花が咲いているがいまだに現役だ)
こいつの葉を適当にむしってほうとうの鍋に最後にぶち込むだけ。
山梨生まれで高校まで山梨で暮らした(つまり味覚は生粋の山梨県人)Tさんご夫妻にほうとうに
春菊を入れる話をしたところ、
「邪道」
「信じられない」
と当初は非難ごうごうだったが、後日「あれ、おいしいね~」とその旨さを認めてくれたから相性に関しては間違いない。
(ひとつかみほど取って来て)
(最後に鍋にぶち込む)
春菊以外は普通の材料である。
里芋(これが一番合う 別の鍋でよ~く煮ておくのがコツといえばコツ)
エノキ、シメジ(しいたけは何故か味噌仕立てのものには微妙に合わないように思える)
大根
油揚げ
豚肉(バラが相性がよい ひまわり市場の富士桜ポークがベスト)
が不動のラインアップで、あとはその時々の野菜を適当に。
ほうとうは手間いらずでしかも後片付けも楽ちん。春菊ほうとう、是非お試しください。
なお「ほうとう」の語源だが、
「武田信玄公が『宝刀』で麺を刻んだことから」という説があるが、これはいかにも宣伝臭がする。
奈良時代に畿内で食されていた餺飥(ハクタク)というすいとん状の食い物が平安中期には「ハウタウ(ほうとう)」と呼ばれるようになったが、おそらくこれが語源であろう。
西暦1564年(永禄7年)信玄公の招請により恵林寺に臨済宗快山紹喜国師が入山したが、この時
ほうとうも甲斐国に伝わったのかもしれない。