(承前)
私が会社に到着するとすでに会議室には全自動麻雀卓がセットされていた。どうやって持ってきたのか
聞くと幼馴染の職人にバンを出してもらって運んできたという。この情熱、頭が下がる。
ふと本部長席に目をやると、猫バスが停車している。よく見ると正体は猫バスに似た本部長ドノであった。持参したらしいサントリー山崎の何年だかをチビチビやっているではないか。
(こんな感じ)
どうやら本部長特命メンバーの氏名を見てキナ臭いものを感じ取ったらしい。
「ふふふ。君たちだけだと心配だからな。それに交代要員がいないと徹夜はキツいぞ~」とお見通しだ。
「ありがとうございます。・・・申し訳ありませんが、カネはもう返せませんよ」と毒づくと、
「ふふふ。僕はちゃんと回収できるから、気にしなくていいよ」とどこまでも食えない。
そうこうしていると、にわかに副社長室方面が騒がしい。
準備Gには以前お伝えしたフィリピンでドナーになりかけた男が加わっていたのだが(この男の記事は →ここ)、皆で昼過ぎから飲みだしたところドナー氏は数時間後にはあえなく昏睡したらしい。面倒なのでそのまま副社長の応接セットに寝かしておいたら、昏睡状態で失禁している、というのだ。
覆水盆に帰らず
という。しようがないので、そのまま放置して我々は麻雀を開始した。
(19マルマル戦闘開始~ 「2万持ち3万返し芸者ドボン」という博打性の高いスピードルール)
猫バス本部長麾下の精鋭軍団はそれから明け方までY2Kのことなど一切気にせずに麻雀を堪能したわけだが、空が白々と明るくなってきた時分に副社長の秘書から電話があった。
副社長ドノが激励のためにこちらへ向かっている、というのだ。
あわてて副社長室の様子を見に行くと、ドナー男はいつの間にか逐電していたが、ソファには不吉な
シミが広がってそこから妖気のようなものが漂っている。
背に腹は代えられず、私はファブリーズ代わりに猫バスのウイスキーを拝借して、
「悪霊退散、祓えたまえ、清めたまえ」とシミのところにドボドボとふり注いだ。
このようなウイスキーの目的外使用は、私の人生で後にも先にもこの一度のみである。
(「エクソシスト」 気分はこんな感じ ドナー男が昏睡してたらもっとリアルだったのに)
08マルマル、副社長を我々決死隊+猫バスは「捧げ筒」で(むろん心の中でだ)お迎えした。
副社長は閲兵のあとソファにどかっと座るなりクンクンして、
「ふ~ん、昨夜はだいぶ派手にやったようだな」とうれしそうである。
頃合いを見て猫バスが、
「副社長、別室に支度が出来ております」と牌をキュッとやる仕草をすると、おお、と嬌声をあげた
副社長は、それから14マルマル総員撃ち方止め、とご自身で命令を下すまで延々と麻雀を楽しまれたのであった。ことによるとこの人も最初からキナ臭さを感知していたのかもしれない。
結局Y2Kの影響は我が国では皆無であった。
私の会社の被害も応接ソファ1脚汚損のみであったことは不幸中の幸いというべきであろう。
この出来事もついこの前のことのように思えるが早いものであれから20年だ。
猫バス殿はご健在である。全自動麻雀卓、餅焼きトースター、副社長はとうに会社を去られているが
お元気なのだろうか。ドナー男はまだ現役のはずだが見かけない。
これも定年前のおセンチなのだろう、いろいろなことが妙に懐かしく思えるのである。



