2015年3月、厳かに地鎮祭が行われた。地元で2番目に有名な神社(社長談)の宮司さんが、威風堂々ハイラックスサーフで乗りこんできた。しめやかな中にも、ますらお振りの勇壮さを感じさせる。
(造成終了南方向) (地鎮祭 遠くに老師宅)
「この辺の神主さんは、ハイラックスサーフ多いんですか?」と冗談で尋ねると、
「『多い』というほどではないです」と真顔できっぱり。八ヶ岳恐るべし、他にもいらっしゃるようだ。
話は飛ぶが、北杜市内ではあちこちで神社を見かけるが、最大チェーンの八幡様グループは少ないように思う。稲荷系も少ない。甲信地方は古来諏訪大社の統治下で、新規参入が難しかったのかもしれない。北海道でいえば、セイコーマート対メガコンビニだ。
これはじっくり調べていつか報告したい。
5月には上棟式だ。
「いやあ、やらんでもいいだよ。最近やらんことも多いね」と、社長は上目遣いで私を見る。
いや、縁起もんだし、やろう、と言うとうれしそうだ。
「じゃあ」とやおら見せられた「内訳明細書兼請求書」を見ると、「計30万円」とある。私はブチ切れた。
「ちょっと何だ、これ?」
「・・・・」
「見積もりに入ってないの?」
「入っちゃ、いんよ。 入ってないです」
「『一般管理費』から出すんじゃないの?」
「てっ、あれはもうけじゃん。あそこからこういうの出してたらもうけがなくなっちもうよ。ははは。」
怒りで血圧が200を突破しそうになっているのがわかる。震える手で明細を見る。 なになに、
「ご祝儀 社長3万円×1 監督棟梁 2万円×2 職人、当日合力 1万円×12・・・・お土産セット
5000円×15・・・・」
思わず社長を睨みつけた。社長は目を合わさない。 軍師殿は、「ただ今高松城攻めの策を練っておりまする」とばかりに遠くを見ている。
「この『社長』つうの、誰よ?」
「ははは。私。」
「社長ってのはなんだ、あんたか。ふ~ん、上等だね。家建てて散々利益のっけてさ、ここでもむしろう、
って料簡か。あ~上等だ。」
「・・・・」
「オレもね、縁起もんだってことで、やろうと言った以上やらしてもらうよ。縁起もんだから。
だけどね、社長、あんたはオレと一緒に『皆さんご苦労様』って言ってねぎらう側だろ? オレと二人でさ費用は折半で、っていうのが筋じゃないの?
さあどうなんだ?気の利いたセリフの一つも唄ってみやがれ、さあ、さあ、どうする、どうする?」
「ははは、筋はそうかもしれんけどね、これはカタチだからね。昔から社長ももらうだよ。」
「ほ~う、カタチと来たか。ったく上等じゃねえか。じゃあ、費用は27万にしときなさいよ。社長の祝儀袋はカタチだけにしてさ。中身はいらないから」
社長は黙った。怒っている。
私も反省した。たかが3万円のことで、これから本格的に家作りに取り組んでもらう社長を怒らせるなど、角を矯めて牛を殺す、大黒造って魂入れず、まさに言語道断である。それに工務店の収益と社長個人のもうけとは直接には関連しない。社長だって税務署や、奥様に知られないヘソクリは欲しいに決まってる。
私はおとなの度量を見せることにした。軍師の方を見ると「それがよろしかろうと存じまする」と言いたげ
にこちらをちらりと見た。
「まあ、ちょっと言い過ぎたけど、明細どおりでいいや」
「・・・・」
「社長もさ、小遣いほしいよ。そりゃ。少ないご祝儀だけど、甲府でパっとやってきなさいよ」
社長はこっくりうなずく。図星だ。ちょっとかわいい社長。ほほが赤らんだりしてさ。
そのかわいい社長は、機は熟せり、とばかり軍師にむかって采配をふるった。
「施主もカネがどんどん出ていっちもうから、オレ達のお土産セットはなくてもいいじゃん。
明細作り直せし。29万で」
どこまでも商売上手だ。
(マクラだけでおしまい 次回に続く)