「じゃ、りんちゃん、行ってくるからね」
朝、出がけのつらい時間。
「待っててよ」
この時、りんちゃんは何とも言えない悲し気な表情をする。
今朝は目を細めてじっと私の顔をみつめている。
そりゃー私だってずっと一緒にいたいわな。
そやけどわかってな、りんちゃん。
手をふって、わざと気丈に「行ってきます」と言う。
いつもいつもお留守番の猫の淋しさを思うと、胸がキュウッとする。
毎回、今生の別れのような気持ちで玄関を出る。
あっ。
スマホ忘れた。
あわてて戻り階段を駆け上る。スマホを手に取る。
ん?
ふとベッドの上を見て私は固まった。
りんちゃんが、ベッドの真ん中で、お腹全開座りをして毛づくろいをしている。
えー。
私の視線に気づいたのか、りんちゃんの顔が上がる。
目が合った。
「忘れ物しちゃって」
なぜ恐縮がってる、自分。
静止状態のりんちゃんと見つめ合う。
~なに?やっと静かになって、ゆっくり毛づくろいしてたのに。忘れ物?
相変わらずおっちょこちょいやな。気ぃつけや~
と、確かに言っているような上目づかい。
「じゃ、行ってきます」
私は再び玄関へ向かった。
なにーなにーなにー。
さっきの悲しそうな表情は。
今までのも、ずーっと演技だったの?
淋しさのかけらもないじゃん。
いや、かえって私が出ていってくれてラッキー、みたいな感じ。
でも、ま、りんちゃんはお留守番中もそんなに淋しい思いをしてない、ってことがわかって
よかった、とカラ元気発想が空しい私であった。