「なぁ、『彼女』の事さ……好きなのか?」
鉄塔と高層ビルに埋もれた街にて、その世界の仲間に聞かれる。
この街は割りと嫌いだ。
「さぁな、興味ない」 (興味はある
顔も合わせず、少しためらって返答を寄越す。
「それは酷いなぁ」 (それは良いことでして
クスクス笑う彼、多分其れは苦笑い。
「結構長く時間が感じれるしな」 (相対性理論、結構時間が短く感じる
常人にはさっぱり分からない会話、この世界ではこれが普通なのだから驚きだ。
いや、驚きと言うよりかは……呆れ。
でも、そうしないと「殺される」。
恒星の神よりも、案外この世界の神はえげつないようだ。
*
反転世界、と言うべきか。あぁ別に表世界を支えてたり罪の覇者がいたりはしない。
じゃあ何なんだと言うと……非常にややこしい。
強制的に嘘を吐かされる。そう説明すればいいのか。
つまりは、真の事、真の気持ちなどを言ってしまうと『殺される』。誰に?多分世界か神に。
『殺された』ヤツは、這い上がる事の出来ない『海』に投げ込まれるらしい。
死にたくなくば嘘を吐いて、相手の言葉を反転させて理解しろ。
海、と言う場所は非常に条件が良い。だが、此処は恒星の管轄外。何があるか分からない。
さて、なんで俺がこの世界にいるのか。と言われると……。
正直、知らない。気が付いたら此処にいた。というか誤爆的な感じで飛ばされた。
恒星の気まぐれにしては酷すぎる……と言いたいが、まぁヤツならやるだろう。
外道の化身のヤツならやる。
え?なんで詳しくシステムを知ってるかって?
……身に染みて知らされたからな。嫌でも分かる。
姿は覚えていないが、飛ばされてすぐ出会ったそいつに「状況が理解できない」と言ったら死に掛けた。
で、なんとなく分かっちゃった訳だ、嘘吐かないとぶっ殺されるって。
⊿(D)の血の超直感は実に役に立つ、久しくありがたみを覚えたあの頃だ。
そんな訳で、今日もでいでい嘘吐きを演じている。演じてるんだよ、本気じゃないからな。
「あー、忙しいねぇこの街は」 (退屈だねぇ、この街は
『嘘吐き仲間』の石野……違った。ストール=ヘルシが言う。
「そうか?」
いちいち反転させるのは、結構面倒くさかったが、もう慣れた。流石に一ヶ月くらいたつからな。
因みに、真のことを『言』わなければOKなので、複雑な場合は筆談だ。
このことはストールから『書いて』教えてもらった。
抜け道発覚に非常に、非常に救われた。苦労してたんだよコレ。
筆談すら面倒くさい……というか、街中では殆どスマートフォンのメール機能を使っている。
契約しといてよかった。
あぁそう、ストールについてだが、此方に来てからであった仲間だ。
彼はなんか「華麗に屋上からダイブしたら、死なずにこっち来ちゃった」という
とんでもない理由で反転世界にやってきた異邦人。髪色は黒に青のグラデーション。地毛だそうで。
「あ、あの子あの子。なぁどう思う?」
「知らないヤツだな」 (知ってるヤツだ
街中の人混みの中で、ストールは一人の少女を発見。
見た目は十三歳位、髪色は黒で型はショートカット。
……俺は無言でスマホでメールを打ち、ストールに送る。
『この世界の神様って、俺に何か恨みでもあんのか』
『つまり……どういうことだってばよ?』
『あの子、別軸での彼女』
『…………どういうことだってばよ』
『そのまんまの意味、出来れば他人の空似とかそういうことを期待したい』
『リア充爆ぜろ』
『既に沈みました』
『とりあえずナンパしていい?』
『三百歩譲って許可する』
だが、ストールは声を掛けようとはしない。その少女……ルライトの姿は人混みの中へと消えていった。
本当は呼び止めたかったが、彼女の前では極力嘘を吐きたくない。離れたほうがいい。
「いいのか?」
「よくない」 (いいよ
「……気張れよ」 (頑張るなよ
「いいえ」
口数は少ないほうがいい。死ぬのは怖くないが、残機が分からないから、そっちのほうが怖い。
「とりあえず出掛けようか」 (とにかく帰ろうか
そういって、俺は家路を辿る。向かう先は裏路地の廃ビル。住民票何てもってないからな、
生活レベルは冒険者時代とはそう変わらないのが、ひとまずの救いだった。
*
『くっだらない世界だこと』
心の中で呟く、もう、言葉にしないことには慣れた。
『まるで刑罰を下す牢獄だ』
……俺はいつも死から遠い場所にいた。あの世界には殆ど死というものがないし、
俺自身に流れる咎血の加護で、龍と同等の寿命も持っている。
ついでに恒星の無駄な加護による「偶発的な奇跡」のせいで、肺ぶち抜かれても結局死ななかった。
──命と言う名の責任を負わない故の、戒めなのだとでも言うのだろうか。
「いないだけ、有益か」 (いるだけ、無益か
廃ビルにその言葉を聞くものはいない。
『……いっその事、彼女のいない場所で死んでしまおうか』
『真だの嘘だの関係なく、飛び降りてしまおうか』
『きっと、誰も気付かない』
親父もおかしな名を寄越したもんだ、「救い」なんてさ。
たとえ誰かを「救」えても、俺に対しての報酬なんてない。
ボランティアと同じ。報酬はない。ただ、力があるからそうするだけ。
「……誰もが気付く生き方なんて、少ないもんな」
『誰もが気付かない死に方なんて、ごちゃまんとある』
幸い、彼女に俺の存在は気付かれていない。状況はいい。
あぁでもやっぱり、誰かが気付いてくれるのを願い、水面に仰ぎ見てしまうのだ。
*
夜が明けた頃、突然スマホが鳴り響く。ストールからメールだ。
『ごめん。俺やっぱ耐えられない』
「……………!?」
その文面はおそらく、一斉送信で送られてきたモノ。何を考えてる?一体何を?
下へスクロールしていくと……予想していた答が、無慈悲にも存在していた。
『いってきます。そして、いきなさい』
朝日が、いつも以上に恨めしく思えた。
*
なぜだか、ストールが『海』にいってしまった日から、自殺が多く目に付くようになった。
芋蔓式に、連鎖反応を起こして、耐えられなかった者達は次々死んでいく。
スマホに送られてきたメール、その差出人はどこを探してもいない。
…………これが偶然なのか、必然なのか。もし偶然なら、いやな偶然だ。
こんな時、自分を恨んでしまう。だって皆、『真』を言って死んだのだから。
何を怖がってる? 俺が求めていたのは真と同意義の答だった。欲しかったのはソレのはずだった。
なぜ言い出せない? なんで? 真を言うのをなぜ躊躇う?
「あぁ、そうか」
俺、死ぬのが怖いんだ。
*
「ごめんなさい」
その人は言葉を残すと、目の前で死んだ。
「こんな世界、大嫌いだ!!」
その少年は、本心を叫んで死んだ。
「ありがとう」
その少女は、想い人の腕に抱かれて死んだ。
本当に伝えたい言葉を、真を言って、皆死んでゆく。真にたどり着いて、死んでゆく。
『嘘ばかりじゃ、ダメなんだ』
『言わなきゃ』
『でも…………彼女を悲しませるかもしれない』
*
とある日、大通りを歩いていると、彼女の姿を見つけた。
「……おい、ルライト?」
確認。
「え……、い、イクス……?」
完了。暫く声を出していなかったもんだから、発言するのが少々辛い。
彼女が何故この世界にいるのかは分からない。知りたくは……あ、少し興味はある。
安心した表情をルライトは見せる。あぁよかった。
「イクス……、キミもいたんだ……、よか、……あ」
内心焦った。うっかりどうでもいい真を言ってしまわないかが、非常に怖い。
おそらくは良かった。といいたかったのだろう。だが言ってしまったらおしまいだ。
「無事……みたいだな。……そちらは聞いていないか、『此処』のことを」
「……聞いて、ない」
聞いていると。ああやっぱり知っているんだ。
どこまでもえげつない、神だこと。
「……キミは、まだ理解していないの?」
心配そうな顔をして、俺に問う。本来ならばメールなどを使うべきだが、
絶対的な確立で彼女は端末を持っていない。
「あぁ、まだ、だ」
慎重に言葉を選ぶ。うっかり死んだら全ておじゃん。水の泡だ。
まるで人魚姫の最後のように、泡は溶けて消える。俺も同じような道を辿りたいものだ。
「そう。……あのね、イクス。きい、聴かなくていいことを言うよ」
つまりは、聞いて欲しい事を言うと。反転させて、真に受けないように。
此処から出る方法などない、そんなこと分かりきってる。だから逃げない。
「何だ?」
「……会えて、悲しい。見つけてくれて、苦しい」
会えて嬉しい、見つけてくれて…………
あぁやっぱりきついなぁ。苦しいや。真意は別にあっても、言葉は言葉で結構抉られる。
でも彼女はこの世界の法則を理解している。それを知れてよかった。
それさえ知っていれば、不条理に殺される事はない。いや、ルールは最上悪に不条理だけど。
慣れは怖い。だけど、安全なんだ。それで。
さぁ、覚悟を決めようか。
「……そうか。……ルライト。俺も、聴かなくていいことを言う」
彼女の使った反転語を使って、理解に苦をなさないように努力する。
「……えっ?ちょ、え??」
あぁでも、死に顔は見せたくないや。
ルライトを抱きしめて、彼女には顔を見せないようにする。やばい、すっごい怖いや。
無意識にも、彼女の手を握る。震えているの、分かってしまうだろうか。
「ど、どうか、して……いないの?」
「……聞いてくれ」
さぁさ笑って、精一杯笑って、お願い、笑って。最後くらい、希望を持たせて。
「 」
痛みは感じなかった、なにも、なにも、只一つ感じ取れたのは……後悔だった。
*
青色に埋もれた視界、見覚えのある世界だった。
そう、ここが『海』。の深海に位置する場所。
知っている、この冷たさ。この昏さ。音の、なさ。
本当の深海の底にて、見覚えのある光景にやってくる。
光の届かない、水面の光すら、太陽の光すら、星の光すら届かない、この場所で。
また……空を呪い続けるのだろうか。いや、恨みを投げるとしたら人の住むあの場所か。
どれだけ背伸びしても届かない、
どれだけ腕を伸ばしても掴めない、
どれだけ願っても、恨んでも、何も届くことはない。
楽園は、幻想は、なにもいらないと思った。未練がないとは言い切れないけどさ。
きっと此処なら、彼女もたどり着けることない。多分、おそらく。
キミはきっと来ない。きっと、きっと。
頼むから、来ないでくれよ。
こんな表情、到底見せられない。
「 !」
ふと、声がよぎる。空耳だと願った。
でも違った。否定なんて出来なかったんだ。彼女自身だったんだから、無理だった。
降りてきたソレは、ルライト。
すっかり冷え切った手を、今度はルライトが握る。
「ルライト、なんでキミまで……!?」
なんで、死んだんだ。
なんで、死ねたんだ。
どうして……此処まで来た。
「イクス、聞いて。聞かないと許さない」
目線を合わせて、彼女は言う。
「世界で一番、大好きだ」
*
海にておそらく私情最上級の驚きと、私情最速の理解速度を更新して、少し経った。
「……まったく、予想外すぎて魂消たぞ」
「?」
「あぁ聞かなくていい。反転しなくていい」
さて、皆を元の世界に返さなければ。今の力だと、多分自分はダメだな。暫くは命海暮らしだ。
俺は海龍の末裔どころか、そのまま海龍だからな。
命海の覇者だし、コレぐらいの特権はあっていいはずだ。
「……よし、お前ら元いた場所に帰れ」
深海から空に向かって、不特定多数の魂に呼びかける。因みにその中にルライトも入っている。
歓声の声が小波の音に変化して聞こえる。その中に、一人だけの異論がいた。
「え? ど、どういうこと!?」
「此処で永遠にいさせるわけには行かないからな、理ぶっ壊してでも帰させる」
無論、キミも。
「……イクスも一緒だよね?」
「あぁ、後で行くから気にすんな」
時期は物凄い開くがな。約束は守る。意地でも帰るぞ俺は。
ルライトの心配を振り払うように、声のトーンを上げて、謳う様に。
「『さぁ、いきなさい』」
こんな場所ではなく、お前らの望む場所で、勝手に栄えて滅びるがいいさ。
みすぼらしくも、誰かが愛せるような物語紡いでこい!!
*
誰もいなくなった海の底。
只一人、龍は空を謳っていた。
(還るために、帰るために、今は、いきましょう)
おまけ:エンドロールの先
「なにしてるの、早く帰るよ」
ソイツは俺の腕を引っつかんで言った。
星色の髪をした、奇跡を司る女神、『ステラ』。
「どーこーに連れてくつもりだ」
「どこにって、地上に」
「ふざけんな」
俺は即答で突っ撥ねる、地上だって?何言ってんだこいつ。俺を殺す気か。
ステラはため息をつき、言葉を発する。
「地上がそんなに嫌い?彼女も住んでるのに」
「嫌いじゃない、苦手なだけだ」
土の上を歩くのは、とても苦手なんだ。息を吸うのと同じくらい苦しくて苦手。
「ねぇ……キミは今だれなのかな?」
質問攻めは嫌いです。
「答えて」
嫌いだって言ってるだろ。
「ボクが提示する選択肢は四つ、『空白の覇者』『海朽龍』『ローディ』『イクス』。さぁ、答えて」
ため息は形にもならず、仕方なく口を開く。
「⊿:βdata weapon。四番目の執筆者」
ルート武器を扱うものに容赦なく与えられる、畏怖と憎悪を込められた、継承者の異名。
正直言って、『四番目』には意味は無い。だって一番目も二番目もいないのだから。
……⊿の文字は別言語に変換すると、Dの文字に相当するそうだ。
「あ、そっちだったか」
ステラは頬を掻きながら、あちゃーと項垂れる。これで女神とか、色々と疑いたい。
「ひとまずはお引取り願う、まだ仕事があるんだ」
全ての命海は繋がっている。それは此処も同じだった。
仕事は魂の追い返し、なぜか真を言って死んだ連中は
此処に来るもんだからなぁ……放置するわけにも行かない。
「……キミは、此処にいるべきではないと思うけど?」
「何言ってんだよ」
もとより居場所は【此処】。そう定めたのは誰だったっけか?
「この場に埋もれるのは早すぎるっていってんの、さ、帰りなさい」
ステラは俺の手を強引に引っ張ってゆく。
行き場所は地上か、それとも違う場所か。
「自分の足で歩いて、いきなさい」
「……分かったよ」
⊿は、また歩き出す。
(終わりの大地を)
(終わらせないために)