つづき


自分の肖像画では、極めてシンプルな絵柄を好んだフェリペ4世ですが、自分の息子となるとまた話は別だったようです。


『皇太子バルタザール・カルロス騎馬像』では、絢爛な衣装に身を包んだ幼児が、軍隊の指揮棒を手に跳ね馬に乗っている絵になっています。



海外サッカーの中継などを見ていると、試合の合間にカメラがスタンドにいる観客の映像を抜いてくることがあります。このとき、どんな人を選択するかで、お国柄が垣間見えることがあります。
イタリア・セリエA では、美人の若い女性を映します。イギリス・プレミアリーグでは、ロックスターや俳優、その他 VIP が抜かれることが多い。そして、リーガ・エスパニョーラでは 10 歳くらいの子どもの映像を好みます。

スペインの子ども好きは 400 年前のこのころから連綿と続く筋金入りの嗜好のようです。
父親のフェリペ4世を描いたときにはあんなに禁欲的だった筆が、ここぞとばかりに大胆な動きをしている。単に使用している色が増えただけでなく、筆致そのものが変化しているのです。
印象派のモネが駆使した、近くで見れば無造作に置かれた白のひと筆が、離れてみると目の中で溶け合って輝かしい光の輝きに見えるという技法。ベラスケスは 200 年前にこの技法を用いてこの絵を描いています。それも、技巧というよりは、若さ溢れる皇太子の輝かしい未来を祈願した勢いのひと筆として。
何という天才。
描いている画家も、注文主の国王も、本人たちの肖像画であった衒いがまったくなく、画面そのものを愛でるような、ありったけの愛情がこぼれ落ちてくるような作品でした。


我が子に対するあふれんばかりの愛情という気持ちは、七五三や成人式に奔走する日本人の親ならば共感できるのではないでしょうか。


つづく