私 K は東京の台東区、浅草とアメ横と秋葉原のほぼ等距離のところに住んでいます。出勤時は JR を利用するので、日本一駅間距離が短い御徒町・上野間を歩くこともよくあります。
なんといってもアメ横は活気があります。アーケード下の、昔はパチもんを売りさばいていたあたりも、今では随分上物をあつかうようになりました。
そんな中に、舶来靴専門店・イタリヤーノがありました。


高級靴を揃えているので、そう頻繁に買うわけにはいきません。
しかし、身体を壊してから足には気を使うようになり、言われるままに靴を変えたとたん、劇的に負担が軽くなり、よくなったのです。このとき、この店のオーナーのオッチャンに散々世話になりました。
そのオーナーのオッチャンが急逝し、店自体も閉めることになったそうです。
かなしい。


ガタイがあり、恰幅のよいオッチャンでした。
なんといっても、靴関係のうんちく話が面白く、買わないのにちょくちょく顔を出して話を聞いてたものです。嫌な客ですね〜。


いい靴の選び方。お手入れ方法。靴が足の一部分にあたって痛いときの対処法。靴下が微妙に足に負担をかけることがあるとか。靴デザインのトレンド・セッターのゴシップ話。ワニ皮の靴がなぜ高いか。両生類のくせに、実はワニ皮は雨に弱いとか。イタリアではウナギはヘビと同じあつかいなので、高級靴やベルト、財布に使われるとか。だからウナギを抗生物質を与えて巨大にして、皮をたくさんとる。でも、あれだけ食い道楽のイタリア人が、ウナギを食べることはない。


いやいや、楽しかった。
私自身がさらに病気をこじらせたせいでしばらく疎遠になっていたのですが、亡くなったと聞いたときにはショックでした。彼あってのお店だったので、閉店に踏み切ったそうです。


長いお別れ。
" こんなとき、フランス語にはいい言葉がある。彼らはどんなことにもうまい言葉を持っていて、それはいつも正しかった。
さよならを言うことは、わずかのあいだ死ぬことだ。"

心からご冥福をお祈りいたします。