つづき
イギリス人の独特のバランス感覚は、その気ならば随所に発見できます。
コワモテ兄ちゃん集団の HR/HM バンドが「オレの歌を聞け~」と大爆音で演奏したあと、一転して、メロメロなバラードを歌う。フォーマルの服をバシッとキメ…ずに、着崩す。荒れたイメージになったロックコンサートに、逆に綺麗めを合わせる。
「第3の男」の原作・脚本を担当したグレアム・グリーンは、凡庸な善と魅力的な悪の対立を作家的なテーマとしていました。それは劇として対立するキャラクターの形を取ることもありましたし、一人の人間の内部の葛藤の姿をとることもあります。「心のなかで、もう一人の自分が、いつも私を睨んでいる」
グリーンだけでなく、イギリス文学、文化全体に、対極をぶつけて考察する癖のようなものがある気がします。これは物語にテンションを与えますが、極端に振り切った状態から産まれる求心力には欠けます。ディケンズは、素材としては既にドストエフスキーと同じものを取り上げていますが、たぶん、ここから人類愛についての哲学的な考察をするなど考えもしなかったでしょう。
これは欠点ではなく、むしろ美点とさえ言える。ディケンズは皆が夢中になる物語を作った。この点が重要で、世の全ての作家がドストエフスキーのようになったら、それはそれで困ったものです。ディケンズはストーリー・テーラーとして遺憾無くその腕をふるい、それが作品として歴史に残ることになりました。
ディケンズも、社会問題的な題材を扱っている自覚はあったでしょう。けれど "Oliver Twist" の最大の魅力は、下層民であるナンシーというキャラクターであり、ファギンやサイクスのような悪党であり、二つ名を持つ少年・ドジャーの人懐こさです。
結果的に、この映画は少々お行儀が悪い。文科省推薦の作品にはなれないでしょう。
でも、まっすぐな作品ばかりではつまらない。少なくとも、ドーンという効果音付きで「海賊王にオレはなるッ!」と宣言する少年が活躍するマンガが楽しめるのであれば、この映画が何を表現しているかはわかるでしょう。
むしろ、こちらが戦後日本の画像文化のルーツのひとつです。年末・年始、空いた時間ができたなら、一度くらいはご覧になってみてはいかがでしょうか。
イギリス人の独特のバランス感覚は、その気ならば随所に発見できます。
コワモテ兄ちゃん集団の HR/HM バンドが「オレの歌を聞け~」と大爆音で演奏したあと、一転して、メロメロなバラードを歌う。フォーマルの服をバシッとキメ…ずに、着崩す。荒れたイメージになったロックコンサートに、逆に綺麗めを合わせる。
「第3の男」の原作・脚本を担当したグレアム・グリーンは、凡庸な善と魅力的な悪の対立を作家的なテーマとしていました。それは劇として対立するキャラクターの形を取ることもありましたし、一人の人間の内部の葛藤の姿をとることもあります。「心のなかで、もう一人の自分が、いつも私を睨んでいる」
グリーンだけでなく、イギリス文学、文化全体に、対極をぶつけて考察する癖のようなものがある気がします。これは物語にテンションを与えますが、極端に振り切った状態から産まれる求心力には欠けます。ディケンズは、素材としては既にドストエフスキーと同じものを取り上げていますが、たぶん、ここから人類愛についての哲学的な考察をするなど考えもしなかったでしょう。
これは欠点ではなく、むしろ美点とさえ言える。ディケンズは皆が夢中になる物語を作った。この点が重要で、世の全ての作家がドストエフスキーのようになったら、それはそれで困ったものです。ディケンズはストーリー・テーラーとして遺憾無くその腕をふるい、それが作品として歴史に残ることになりました。
ディケンズも、社会問題的な題材を扱っている自覚はあったでしょう。けれど "Oliver Twist" の最大の魅力は、下層民であるナンシーというキャラクターであり、ファギンやサイクスのような悪党であり、二つ名を持つ少年・ドジャーの人懐こさです。
結果的に、この映画は少々お行儀が悪い。文科省推薦の作品にはなれないでしょう。
でも、まっすぐな作品ばかりではつまらない。少なくとも、ドーンという効果音付きで「海賊王にオレはなるッ!」と宣言する少年が活躍するマンガが楽しめるのであれば、この映画が何を表現しているかはわかるでしょう。
むしろ、こちらが戦後日本の画像文化のルーツのひとつです。年末・年始、空いた時間ができたなら、一度くらいはご覧になってみてはいかがでしょうか。