「ドッペルゲンガー」
“昨日はありがとう!あなたがあんな素敵な人とは思わなかったわ”
休日明けの月曜の朝、想いを寄せている職場のマドンナのAちゃんに言われた。
私には全く身に覚えのないことであった。
だって昨日といえば、ネットで買ったアイドリング!!!というアイドルのDVDがようやく届き、一歩も外に出ずに、ずっとDVDを見ていたからだ。
“もし良かったら付き合ってくれませんか?”
Aは顔を赤らませながら言葉を続けた。
正直全く身に覚えのない出来事がキッカケというのは嫌だし、何より不気味だったのだが、長年想いを寄せていたAだったのでOKの返事をし、交際することとなった。
それから数日後、私は体調を崩し、会社を休んだ。
本当は連絡を入れるつもりだったのだが、あまりの体調の悪さに電話すらできず、無断欠勤という形になってしまった。
1日ゆっくり休み、夜になって多少体調が戻ったので、直属の上司に謝りの電話を入れることにした。
正直、この上司のことは嫌いである。とても厳しい人で、私のような“だらしない人間”を目の敵にし、何かと説教を垂れてくる。もちろんどんな理由にせよ、無断欠勤など許すはずがない。
恐る恐る電話をかけると、呼び出し音が鳴った瞬間に上司が出た。すぐに謝ろうとすると…
“今電話しようと思ってたんだ!今日は見直したよ!君があんなに仕事ができるなんて……今まで君を誤解してた、すまん”
上司は上機嫌で一方的に私を褒めちぎった。
またしても身に覚えのない所で私の評価が上がっていた。
それからというもの、こういったことが度々起こるようになった。
もう何年も帰ってない実家から電話で、“先週お前がウチに寄った時に買ってくれたマッサージチェア最高だよ”
大して仲も良くなく、むしろ話したことすらない同僚から、“昨日は相談にノってくれてありがとう!やっぱお前に話して良かったよ”
Aに会っていない日なのに
“今日は楽しかった!素敵なプレゼントありがとう!やはりあなたは最高”
などなど。
私の知らない私が、私の評価をドンドン上げていた。
そんな事が続き、私は仕事を休むようになり、外出すらしなくなった。
私が仕事を休み、他人と絡まなければ、私の評価がガンガン上がる。
私はパチンコを毎日して、酒を飲んで……自堕落な生活を続けた。
そんな事をしてても毎月給料日には以前とは比べ物にならない位の額の金が振り込まれ、人からの評価は上がる。
素晴らしい人生だ!!!
そう思いながら毎日を生きてきた。
そんな毎日が過ぎ、ある夜、酒を飲んで家に帰った。
不思議なこと家の鍵は閉まっていなかった。
まずそこに私は違和感を感じた。
神経質でる私は毎回何度も鍵をかけたか確認をする。
今日も鍵を閉め、確認した記憶があった。
恐る恐る家に入り、真っ暗な玄関へ一歩踏み出すと、“ヌルッ”という感覚が靴越しに足の裏を舐めた。
私は思わず転倒してしまう。
すぐに起き上がり床に付いた手を見ると……真っ赤に染まっていた。
思わず立ち上がり正面を見ると、玄関から続く廊下の真ん中に何かが置いてある。
私は電気をつけ、その置物を確認すると……
首から下を切断されたA子の首だった
頭部しかないA子の目は見開き、私を直視していた。
あまりの光景に吐き気を催した私は、トイレに駆け込む。
勢いよくトイレのドアを開ける。しかしそこには…
便器に顔を突っ込み、絶命してる上司がいた
トイレの水に頭を無理矢理突っ込まれ、溺死しているようだった。
私はパニックになり、“この光景を作り出した奴がいるかもしれない”と思い、防衛本能からか台所にある包丁を取りに行く。
しかし、台所につくとさらに恐ろしい光景が襲ってきた。
まな板の上に切断された腕、コンロの上には切断された足、半開きになっている冷蔵庫には、残りの体部分と、同僚の生首が無理矢理押し込まれていた
もはや恐怖という感情は飛んでしまい、放心状態となった私は、あることにようやく気が付く
「警察に連絡しなくちゃ」
そう思い、携帯を取り出そうと思ったが、死体のある場所では落ち着けるわけもなく、寝室へ行くことにした。
恐る恐る寝室のドアを開けると、そこに死体は無かった。
少しながら安心した私はポケットから携帯を出すと、ベッドの下から微かな声が聞こえてきた…
「なんで……なんでよ…」
耳を澄ますとそう言っているのが分かった。
私は勇気を出してベッドの下をのぞくと、顔面がズタズタに切り裂かれ、もはや顔なのか何なのかわからない人間が血まみれでいた
「なんで…こんなことを…」
そう言うと、そのズタズタの人間は息絶えた
声や体型を見ると母親だと分かった…
プルルルルル
プルルルルル
顔面を引き裂かれた母親に呆気を取られていたら、手に持っていた携帯が突如鳴り響いた。
携帯を開くとそこには…
私の名前で私の番号が表示されていた。
意味が分からない……そもそも電話は私の手の中にあり、私が私の携帯にかけるなど荒唐無稽である。
しかし、私は電話を取った…
「こんばんわ、もう1人の私。」
落ち着いた声で、電話先の男は言った。
いや、“男”ではない、確実にそれは私の声だった。
「お前は私、私はお前。その惨劇はお前が引き落こしたものなんだよ」
そう言うと電話は切れた。
そして電話から数時間が経つと、私にはある決意が生まれていた。
私は切断死体のある台所へ向かい、包丁を手にした。
そして、私はこの日記を書いた。
私は決着をつける、私との決着を…
これはある現場で発見された日記です。
その後、この日記を書いた男性は遺体で発見されました。
死因は自殺。
しかし、その光景は妙でした。
男性の周り360度を大きな鏡で囲み、自分の腹や首を包丁で深く切り刻んで絶命していました。
この日記が本当だったとしたら、きっと彼は…