「さらばシベリア鉄道」に続いたのは、水谷豊さんの「やさしさ紙芝居」。
この曲は「熱中時代」というドラマの主題歌だったそうですが、私は初めて聴きました。心の奥深くにジーンと染み入る素晴らしい曲です。まるで上質な日本酒を熱燗で飲んだ時の様に、聴き手の心にゆっくりと浸透していく印象です。
やはり昨今は、こういう徐々に良さが分かっていくタイプの曲は激減したなと改めて思います。即効性のある音楽はビジネス的な観点で見れば売り上げも推測しやすいでしょうし、企業的なメリットは多いと思います。しかしそれが後に残るのか、と言えば甚だ疑問です。即効性はなくても耐用年数が長いものを大事にした方が、長い目で見ればそれこそビジネス的にもメリットが多いのでは、なんて余計な事を考えてしまいました。
それにしても、風街ソングの耐用年数の長さには感服あるのみです。そして風街は、決してゴーストタウンにはならないでしょう。
そして本編最後を飾ったのは…
「ルビーの指環」寺尾聰。
因みにこの曲は、可能であれば是非レコードのシングル盤で聴いて欲しいなと思います。アナログ盤で聴くと演奏の渋さと躍動感が共存したカッコ良さや、一つ一つの楽器の音色が見事に調和する様、そして寺尾聰さんの鼻にかかった甘い歌声がより際立って伝わってきます。
さてステージ上の寺尾さんは、テレビで見たイメージそのままの、肩肘張らない柔らかなオーラを醸し出していました。また盟友であるギタリストの今剛さんとベーシストの高水健司さんも、この曲の時は前に出てきて楽しそうに演奏していたのが印象的です。ステージ上の演者の圧倒的な存在感とその楽しそうな姿を見て、客席もこの日一番とも言える盛り上がりを見せました。
シングル盤の歌詞カードより。
歌詞は宝物と共に思い出を捨ててしまう内容ですが、この日の観客にとってこの経験は“ルビーの指環”となり、永遠に輝き続ける事でしょう。
“くもり硝子の向こうは風の街”
観客はこの日寺尾さんの歌声に誘われ、くもり硝子の向こうにあった風の街を見たのでした。
“あれは八月 目映い陽の中で 誓った愛の幻”…。
いえ、あれは決して幻ではなかったのです。
完結編に続く。