本編が終わり、舞台はアンコールへと進行しました。
スクリーンに映し出されるのは、若き日の松本隆さん。昔日の写真から今日の写真まで進んできます。そして最後に映し出されたのは現在の“はっぴいえんど”。ドラムを叩く氏の姿が眩しいです。
再び舞台には、鈴木茂さん、細野晴臣さん、そして松本隆さんのお三方が登場されました。
そして始まったのは「驟雨の街」。
大滝詠一さんのいないはっぴいえんどを“はっぴいえんど”と呼んで良いものなのかと考えてしまいますが、大滝さんの不在による影響力というものは確実に存在すると思います。それがある限り、はっぴいえんどははっぴいえんどであると思います。
そしてこの曲を聴いて、私はThe Beatlesの「Free as a bird」を思い出しました。しかしビートルズは亡くなったJ・レノンが残したデモテープを基に“新曲”を完成させましたが、はっぴいえんどの方は細野晴臣さんの当時のアウトテイクを基に完成させています。
今のはっぴいえんどでは大滝さんの声は聞こえません。
しかし松本作品は、
“駅までの遠い道のりを はじめて黙って歩いたね”
という様に沈黙であったり、
“風のインクでしたためています
SAYONARA SAYONARA SAYONARA”
と風のインクという実在しないもので想いを伝えたりしています。
そう考えると大滝さんの不在は、不在ではないのかも知れません。
不在により存在を感じる。それはこの日の観客に共通の想いであったのではないでしょうか。
そして長かったこのコンサートも遂に最後の曲を迎え、この日の出演者が舞台へと呼び戻されました。
賑やかな雰囲気の中、一筋の木漏れ日の様なアコースティックギターの暖かい音色に導かれ始まったのは「風をあつめて」。
細野さんが歌い始めた瞬間、私は涙が止まらなくなってしまいました。
数多くのカバーバージョンが存在するこの曲ですが、鈴木茂さんのギター、細野晴臣さんのベースと歌、そして松本隆さんのドラムで聴ける日が来るとは思ってもみませんでした。
そして私の心の中には、違う曲の歌詞も同時に聴こえてきました。
“まぶしい光の中から 覗き込んでいるのは
それはぼくぢゃないよ あれはただの風さ”。
本当にあれはただの風だったのでしょうか。
私にははっぴいえんどの一員として、12弦ギターを弾きコーラスを歌う大滝詠一さんの姿が、あの時見えた様な気がします。
それで ぼくも
風をあつめて 風をあつめて
蒼空を翔けたいんです
蒼空を
「風街レジェンド 2015」は大円団を迎えました。客席はスタンディングオベーション。
そしてここで細野さんの「俺もさっき初めて聞いたんだけど…笑」という前置きで、なんと松任谷由実さんが花束を抱えて舞台に登場しました。キャラメル・ママのメンバーがほぼ揃っているこの場では、ユーミンも荒井由美に戻っている様な錯覚を覚えました。またここでは呉田軽穂でもあったかも知れません。
ユーミンは松本さんに、
「歌詞を書くのは本当に辛い作業です。でも松本さんはその辛さを私の何倍も経験している人。私は松本隆が大好きです。でも松本隆は、松本隆をもっと好きだと思います!」という言葉を贈りました。
戦友であるユーミンでなければ贈る事の出来ない、本当に粋で素晴らしい言葉でした。
そして松本さんは、
「体の弱い妹のランドセルをいつも持ってあげていた。その体験が僕の原点。自分だけが良ければいい…、そうじゃないんだと思ったのが原点です。」
とお話されました。
この言葉を聞いて、何故松本隆作品が和を重んじる日本人の心にいつまでも響き続け、時を経るごとに深みを増して行くのか、その理由が分かった様な気がします。このお話を聞けただけでも、この場へ足を運んで良かった、そんな風に思いました。
そして客席からの「またやって!」という声援に松本さんは「何を…笑⁉︎」と、はにかみながら答えました。
勿論「またやるよ!」と答えて貰いたかったのが正直な気持ちです。しかしここで綺麗事の返事や不確かな約束をしない氏の現実的な視点こそ、松本隆ワールドを松本隆ワールドたらしめている骨格なのだと思います。
風街ソングは勿論フィクションだと思います。しかし氏の立ち位置はあくまでも現実世界であり、リアルからかけ離れたものではないからこそ、風街ソングは現実世界を生きる誰の心にもすっと入り込み、誰しもが風街を旅する事が出来るのでしょう。
そして「何を…笑⁉︎」とはぐらかしはしましたが、「みんな生きていたら50周年もやりましょう」と言ってくれました。
風街散歩を続けながら、その日を楽しみにしています。
そして最後に流れていたのは「スピーチバルーン」。勿論大滝さんの歌入りです。最後の最後に聴こえてきた大滝さんの歌声。これには、ただただ涙でした。
松本隆さん、出演者の皆さん、スタッフの皆さん、本当に素晴らしいコンサートをありがとうございました。
この経験は一生の宝物です。
そして私のこの雑感記は、Twitterで親しくさせて頂いている方の「秋想う頃」というブログより、多大なるヒントを頂きながら書き進めました。特に記念品として配られた「木綿のハンカチーフ」が“会葬御礼”であるという見立ては、目から鱗でした。
自分のブログという場で恐縮ですが、この場を借りて御礼を申し上げます。
全て書き上げるのに半年近くかかってしまいましたが、読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。
そして風街レジェンド 2020年の開催を心から願っております。
それで ぼくも
風をあつめて 風をあつめて
蒼空を翔けたいんです
蒼空を