続く曲は南佳孝さんの「スローなブギにしてくれ」。
何だか前曲「恋するカレン」の“スローな曲がかかると”と言う歌詞から繋がっている様です。こうして思わぬ曲と曲が物語を紡いでしまう所も、風街ならではの魅力だと思います。
この曲は出だしのフレーズを聴いた瞬間に、80年代にタイムトリップしてしまいます。80年代中盤まではこの曲の様に、何度も聴く事により味わいが出てくるタイプの曲も沢山ヒットしていたと思います。
あらゆる事の結果に早急性が求められる現代に於いては、めっきりと聴く事の出来ないタイプの曲となってしまいました。いえ、今でもこの手の曲はあるのでしょうが、電波に乗りふとした瞬間に耳に届くと言う機会が減ったと言うのが正しいのかも知れません。
所謂“スローライフ”を楽しむ為の手段として“レコード鑑賞”がクローズアップされていますが、世の中の進むスピードが速くなったのは、レコードとCDの入れ替わりと時を同じくしているのではないでしょうか。世の中が便利になりスピードが速くなる事、それが進歩と言えるのか。なんて事をスローなブギを聴きながら考えました。
そして舞台には鈴木茂さんが再登場。
南佳孝さんと鈴木茂さんの組み合わせと言えば…。
そうです。「ソバカスのある少女」です。
ティンパンアレーの名盤「キャラメル・ママ」からの曲です。
曲が出来た時に「南佳孝さんに歌って貰いたいと思った」と鈴木茂さんが語る通り、二人の声がこれ以上ないくらいに調和し美しいハーモニーを聴かせてくれます。
この曲が発表された1975年当時はフュージョン黎明期にあたり、プレイヤー達は一気にテクニック志向に進んだ時代です。そんな時代にあってこの曲の様な素晴らしい“歌モノ”を残した鈴木茂さん。氏の当時の立ち位置と“今でも髪は長いだろうか”と、自分の元を去って行った相手を想う寂寥感が見事にマッチした名作だと思います。松本隆さんと鈴木茂さんのコンビもまた、お互いの良さを引き出す名コンビなのだなと再確認しました。
そして続くのは、鈴木茂さんと言えばの「砂の女」‼︎
イントロのあのカッティングを聴いた瞬間に、頭の芯まで痺れました。本当にシンプルでテクニック的には何ともないフレーズなのですが、鈴木さんが弾くと重みがありつつもキレもあるという、これぞエレキギターの醍醐味!といった風情が醸し出されます。もうカッコ良い!としか言いようがありません。
シンプルなフレーズをこうしてカッコ良く、人々の心に残るものへと昇華させてしまう。これぞ鈴木茂というギタリストの素晴らしさです。一見簡単そうに見える水墨画も、同じものを書けと言われたら一朝一夕には出来ない事と同じだと思います。誰でも出来ると思ったら大間違いの、達人のみが到達出来る高みですね。
さてこの曲は、鈴木茂さんのファースト・ソロアルバム「BAND WAGON」(1975年)の一曲目を飾る名曲です。
そしてアメリカで現地の大物ミュージシャン相手に臆する事なく録音に挑んだ鈴木茂さんの大胆な冒険心と繊細な魂が、しかと音盤に刻み込まれています。
しかしアメリカで録音したとなると歌詞を英語にしたり、米国を連想させるものにしたくなってしまうのが人情というものだと思います。しかしここでその“お決まりのパターン”に安易に走らなかったからこそ、このアルバムは名盤として今も愛聴されているのでしょう。
このアルバムにはサンフランシスコの匂いと、“ラムネ”、“野球帽”、“路面電車”、“ビー玉”といった日本の“八月の匂い”が見事に共存しています。アメリカへ飛び込んだ鈴木茂さんの冒険心と、松本隆さんが紡ぐ故郷への郷愁。
ある意味向こう見ずな勢いのスリルと不安感、そして懐かしい日本の風景がもたらす不思議な安心感。このどっちつかずの奇妙な浮遊感は、まさに“続・さよならアメリカ、さよならニッポン”です。
寡黙な男が最も雄弁に、はっぴいえんど魂を体現していたのです。
⑥に続く。