「風街レジェンド2015」8/22(土)東京国際フォーラム ④ | BIGな気分で語らせろ!

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気分だけでもBIGに。
ビートたけしさん、北野武監督、たけし軍団、その他諸々について気が向いた時に。

③からの続き。

続く曲は「A面で恋をして」
化粧品のCM曲として生まれたこの曲、当初は大瀧詠一名義での依頼だったそうですが、「ここは個人名義はやめた方が良い」という大瀧さん一流の勘により「ナイアガラ・トライアングル VOL.2」として吹き込まれた曲です。それがここで伊藤銀次さん、杉真理さん、そして佐野元春さんの「ねじれトライアングル」として蘇るのですから面白いものです。もし大瀧さんがフィル・スペクターの様にプロデューサーに専念していたら、最初からこういう形になっていたのかな、なんて思いました。
また小瀧詠一(東貴博)、高田文夫大先生による「冷麺で恋をして」も忘れられません。
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笑芸にも造詣の深かった大瀧さんは快くこの替え歌を承諾したそうです。さらに高田文夫さんが、浅草キッドを“手土産”として大瀧さんの自宅を訪問した際、「手土産なら置いていってよ」と言ったと言うエピソードが私は大好きです。
…と「A面で恋をして」と言う曲からは思いもよらない所まで話が飛躍するのも、大瀧詠一という人物の魅力だと思います。

続いては稲垣潤一さんの登場。
曲は勿論「バチェラー・ガール」
“雨はこわれたピアノさ”、雨をモチーフにした、松本隆さんらしい世界観の曲です。
「雨のウェンズデイ」「雨のリゾート」「Water color」といった曲も思い出されます。私は雨の日は独特の情緒があり嫌いではないのですが、それも松本隆さんのお陰かな、なんて思いました。
そして稲垣さんの美声もご健在で、生で聴くと込み上げて来るものがありました。

曲が終わると稲垣さんは、大瀧さんとのエピソードを話してくれました。
「稲垣君、鼻濁音上手いよね?伊達藩出身なんでしょ?」といきなり話しかけられたというエピソードは、何とも大瀧さんらしさに溢れていてファンにはたまらないものでした。大瀧さんと会った事のある人でも、あの「ロンバケ」の人だとは気付かずに話していた人も多かったと言うのもうなずける話です。
うなずけると言えば「うなずきマーチ」。山形県出身のビートきよし師匠の「が行」の発音も完璧な鼻濁音なのですが、これがこの曲を提供するきっかけになったのかな、なんて思いました。玉袋筋太郎さんのイベントに出演したきよし師匠が「うなずきマーチは大瀧さんが持ってきてくれた」と話していたので、この曲も「バチェラー・ガール」と同じく大瀧さんからの持ち込みであったであろうと思います。「うなずきマーチ」と「バチェラー・ガール」。同じ持ち込みでもこの振り幅の広さたるや、大瀧さんにしか成し得ないワザでしょう。

閑話休題。
続くは何と「恋するカレン」
この曲を稲垣さんの歌声で聴けるなんて、ここでまた涙が溢れそうになりました。ワクワクする躍動感たっぷりのイントロからの、
“キャンドルを暗くして
スローな曲がかかると”
、という出だしには、恋人との幸せな一場面を想像してしまいますが、続く
“君が彼の背中に
手をまわし踊るのを 壁で見ていたよ”
という一節で、これが失恋の歌だと気付き“賑やかで楽しいパーティーで、一人取り残される孤独感”を聴き手はここで体験させられてしまいます。
そして全体的な歌詞の内容は、自分を振った女性に対する未練を断ち切ろうとする男性の強さを描いたものです。
しかしそこは、元はっぴいえんどコンビ。一筋縄では行きません。
サビの演奏に注意してください。何処かで聴き覚えがある、デジャヴの様な感覚がないでしょうか。
そうです。これはロネッツの「Be My Baby」のパターンを踏襲したものなのです。
自分を振った女性への別れの決意を歌いながらも、本心は「Be My Baby」であるというこの二重構造。強がりを言っても、本当は「Be My Baby」であるという深層心理がここで暴かれているのです。
これはまさに、松本隆、大瀧詠一というコンビでなければ生み出し得ない最高のトリックだと思います。演奏で持ってして、歌詞の意味をより深いものにしてしまうというしまうという大技です。

またこの日の稲垣さんの歌唱は、ストレートで透明感のある魅力に溢れたものでした。対して大瀧さんの歌唱は、細かな装飾音を入れる事により、立体感を出しています。
具体的な例を挙げると最後のサビの、
“心を知りながら捨てる”
、ここに入る寸前に“んんー”と唸る様な声が入っています。細かな部分ですが、これがあるとないとでは色気だったり、聴き手が受ける高揚感が全く違います。エルビス・プレスリーの歌なんかもこの手の装飾音が多く、その色気に驚かされます。これは大のエルビス・マニアの大瀧さんが、エルビスから受けた影響の一つでしょう。
また初期の松田聖子さんが、任意の音を瞬間的に上げるしゃくり上げ唱法も思い出されます。
稲垣さんの透明感、大瀧さんの色気。
稲垣さんの「恋するカレン」は、それぞれの魅力を浮き彫りにしてくれたと思います。
そして歌の奥深さの素晴らしさに、打ち震えてしまったのでありました。

⑤に続く。