続くは「東京ららばい」。
オリジナルは中原理恵さんの歌なので誰が歌うのだろうと思っていると、しょこたんこと中川翔子さんが登場。会場からはどよめきが起きていました。
しょこたんからすれば、ここは完全にお客さんの反応が読めないアウェー状態でしょう。そしてこの曲のキーは、彼女の音域では低かったと思います。
そんな不利な条件も重なり目に見えて緊張していましたが、最初は懐疑的な目を向けていた観客をも引き込む大熱唱を聴かせてくれました。歌唱法も声も正反対ですが、しょこたんの熱演はジャニス・ジョプリンを彷彿とさせるエネルギーに満ちていました。
次は「セクシャルバイオレットNo.1」。
これは桑名正博さんの息子さんの、美勇士さんが歌いました。出来れば桑名さんの歌で聴きたかったところですが、それは叶わぬ夢。息子が父の意思を受け継ぎ、詞は永遠に歌い継がれて行く。松本隆さんがパンフレットで仰られていた事ですが、そんなメッセージがここには込められていたのです。
そしてセクシャルバイオレットに染まった会場に、突然「欽ドンのテーマ」が流れ空気が一変。イモ欽トリオが客席からの登場です。
客席を歩くイモ欽トリオの姿をスクリーンで見て、何だかテレビの公開収録に来た様な楽しい気分になりました。
MCではこの曲が年金の役割を果たしているという自虐ネタや、新幹線で一生懸命テープを聴いて曲を覚えた事、細野晴臣さんがレコーディング時に「ここ、ハンドクラップ入れようか」と提案、そこからあの振り付け(⁉︎)が生まれた事等の貴重なエピソードを話してくれました。因みに私は山口良一さんに何度かお会いした事があるのですが、ここでまたイモ欽トリオとして山口さんのお姿を拝見できたのは感慨深いものがあります。
そして曲は勿論「ハイスクール ララバイ」。
胸キュンなメロディの青春ソング。私は最後の、
“もじもじ問いかけた瞬間に
夕陽が落ちて来た
ハイスクール ララバイ”
と言う一節が好きです。
これは陽が沈んで暗くなったという様にも捉えられますし、文字通り夕陽が頭上に落ちて来たという、漫画的なイメージでも捉えられます。コミカルながらも美しさもある、松本隆さんにしか描き得ない一節だと思います。
次は山下久美子さんの「赤道小町 ドキッ」。ここから細野晴臣さんと筒美京平さんの曲がグッと多くなります。そして観客の間にも、80年代にタイムスリップして歌番組を楽しんでいる様な雰囲気が広がって来ました。
山下久美子さんもやはりテレビで見たイメージそのままでした。歌唱力で聴かせるタイプの曲ではありませんが、山下さんの個性にピッタリと合っていて、改めて細野さんと松本隆さんが如何に演者の個性を引き出すのが上手いのかという事を実感しました。
続くは早見優さんで「誘惑光線・クラッ!」。ドキッの次のクラッ!です。
早見優さんも80年代のテレビから飛び出してきた様な雰囲気で、まさしくクラッ!でした。
そしてそのステージングは完成され尽くされたもので、当時のアイドルの凄さを実感しました。演歌歌手の舞台での所作が完成されたものであるのと同様、これは立派な芸であると思います。アイドルと言うだけで馬鹿にされていた時代もあったかと思いますが、アイドルも立派な芸能でありエンターテイメントであると、早見優さんの美しい歌と姿に見とれながら考えておりました。そしてその素晴らしいステージングの裏には想像を絶する努力があった事は想像に難くありませんが、それを全く表に出さず笑顔でこなすという所に、日本人の美学があるのではないかと思います。そして裏を見せないからこそ、スターは“スター”であり続けるのだと思います。
次は安田成美さんの「風の谷のナウシカ」。
安田さんは22日のみの出演なので両日参加組の期待も高く、盛大なる拍手で迎えられていました。彼女もまた緊張しているのがこちらにも伝わってきましたが、はにかみながら懸命に歌い上げる姿がイメージ通りであり、曲の世界観ともぴったりとマッチしていました。Twitter等でも“観客が暖かく見守る雰囲気だった”という事を書いていた方がいましたが、私も全く同じ印象を持ちました。それにこの曲を安田成美さんの声で生で聴く機会もそうそう訪れないでしょうから、全ての観客が一瞬たりとも聴き逃すまいという集中力で意識を音へと向けていたと思います。
彼女は歌唱力で聴かせるタイプではありませんが、その柔らかな歌声で会場の空気を一瞬にして風の谷へと変えてしまいました。そんな魔法の様な瞬間に誰もが痺れていたと思います。
歌い終えると安堵の表情を浮かべ、安田さんはステージ袖へと帰って行きました。松本隆さんが袖で待っていたので安堵の表情が出た事は、私は後に知りとても暖かな気持ちになりました。
続いて「菩提樹」と「辻音楽師」。
これはシューベルトの歌曲です。ピアノとテノール歌手の演奏ですが、これは恐らく全くマイクを使わない完全な生音だったと思います。電気の力に大きく依存する“ロックバンド”という形態に親しみのある自分としては、これは結構なカルチャーショックでした。この大きな会場の隅々まで音を響き渡らせるなんて、一体どれだけの修練を積んだのでしょうか…。
そしてシューベルトの歌曲に乗る松本隆さんの詞は全く違和感がなく、まるで初めから歌詞を想定して作曲されたのではないかという錯覚すら覚えました。松本隆さんの紡ぐ言葉の響きの滑らかさ、柔らかさといったものを最大限に引き出すのは、もしかするとこの形態であるかも知れません。
時を超えて生まれ変わった楽曲に、シューベルト自身も驚いているのではないでしょうか。風街は時間を超えた場所でもあるのです。
③に続く。