8月22日、私は有楽町の国際フォーラムへ「風街レジェンド2015」を観に行きました。
これは、はっぴいえんどのドラマーであり数々のヒット曲の作詞を手がけた、松本隆氏の作詞家活動45周年を記念して行われたコンサートです。
超豪華メンバーが揃うコンサートである事や、“はっぴいえんど”を初めて生で見られるという事もあり、私は開演までソワソワしていました。小さい頃に楽しみにしていたテレビ番組が始まるのを待っている時に感じた、あのドキドキ・ワクワク感を思い出しますね。
私の席は二階の真ん中辺りでステージからは離れていましたが、この場にいられるだけで素晴らしい事なので文句はなしです。
開演アナウンスの後、チャイムをモチーフとしたSEが響き、遂にコンサートがスタート。
そしてスクリーンには「風街ろまん」のジャケット…。まさかこれは…。
そのまさかの、いきなりの“はっぴいえんど”です!私は、はっぴいえんどはトリとして登場すると勝手に思い込んでいたために、これには意表を突かれました…。はっぴいえんどがそこにいる…!
一曲目は「夏なんです」。
イントロが始まった瞬間、「これは蜃気楼か、それとも真夏の陽炎か…」と、幻を見ている様な気分に陥りました。特に俯き加減にドラムを叩く、松本隆さんの姿…。松本さんのドラムを聴ける日が再び来るなんて考えた事もなかったので、これが現実に起こっている事なのかと、にわかには信じ難い気持ちでいっぱいでした。
曲が終わると細野晴臣さんが「幻のはっぴいえんどが…、ここにいます」と一言。
1985年の「All together now」でのエピソードではありませんが、これには失神しそうになりました…。と同時に、ステージの真ん中に大滝さんの姿が見えた様な、そんな錯覚に襲われました。
続く曲は「花いちもんめ」。
鈴木茂さんの曲だけあり、氏のギターがグイグイと前面に押し出されてくるのが心地よいですね。この曲は鈴木さんが初めて作った曲だそうですが、初めてにしてこれだけ親しみやすく、尚且つ深みがある曲を生み出してしまうとは、やはり只者ではないと再認識しました。そして鈴木さんのその存在感は、ジョージ・ハリスンを連想させます。
またBSで放送された特集の際にも触れられていた通り、大滝さんが様々なパターンのコーラスを付けた曲です。それを思い出した瞬間、大滝さんのコーラスが心の中に響いてきました。
三曲目は「はいからはくち」。
「みんなで話合った結果、この人にボーカルを頼む事にしました」という細野さんの紹介で登場したのは佐野元春さん。
私はこの曲のイントロのギターソロが大好きなのですが、鈴木茂さんはちゃんとそれを再現してくれました。はっぴいえんどの演奏でこれを聴けたなんてもう涙しかありません(涙)。
また松本隆さんも、ドラムソロをしっかりと再現してくれました(涙)。月並みな表現を使えば“ヘタウマ”なのでしょうが、氏の独特のドラムのグルーヴがあったからこそ、はっぴいえんどは今に至るまで聴き継がれてきたのだと改めて実感しました。ビートルズもリンゴ・スターが加入してから大化けしましたが、良いバンドには良いドラマーありですね。そして俯き加減で叩く姿が何よりも“松本隆”であり、はっぴいえんどがそこにいるんだ!という感動をより深いものへと導いてくれました。
はっぴいえんどの出番は一旦ここで終了。
お次に登場されたのは、太田裕美さんです。
曲は勿論「木綿のハンカチーフ」。
太田さんは容姿も歌声もテレビで見た印象そのままで、まるで70年代からタイムスリップして来たかの様でした。そしてステージングはその細かな所作の一つ一つまで完成されたもので、当時のアイドルが如何に厳しい訓練を積んで人前に立っていたのかという事を実感しました。
この曲は悲しい歌詞の歌ですが、筒美京平さんの柔らかなメロディ、松本隆さんの滑らかな響きを持つ歌詞、そして太田さんの優しい歌声が相まって、決して悲しいだけでは終わりません。
何か言いたい事があっても、そのものズバリの言葉を使うのではなく、一曲を通してそれが滲み出て伝わってくる。滲み出てくるからこそ聴き手の心にも染み入り、それは永久に美しいものとして残ります。
そんな松本ワールドの真髄を味あわせてくれるこの曲がはっぴいえんどに続く一曲目だったのも納得です。
次は原田真二さん。
私は初めて原田さんの曲を聴きましたが、恐らくポール・マッカートニーに影響されたであろう曲調と、ブルージーな雰囲気が混ざり合った雰囲気が素晴らしいものでした。また原田さんの登場で大喜びする女性が多かったのも印象的です。
初めて聴く曲を「あぁ、良い曲だなぁ」とじっくり味わうこの雰囲気は、まるで昭和の歌番組を見ている様な気分です。
次は大橋純子さん。
大橋さんの曲も初めて聴きましたが、会場は一気に70年代後半のディスコ・フィーバーの空気へ変わりました。世界の流行をいち早く取り入れ自分達のものへと昇華させるという、日本人の得意技がここにも感じられます。
「こう見えても私、学園祭の女王と呼ばれていました」という大橋さんの自己紹介で場内は盛り上がり、「ペイパームーン」へと曲は進みました。当時の学生に大きな支持を得たという筒美京平さんによるこの曲、私は岩崎宏美さんの「センチメンタル」を思い出しました。
少し話は逸れますが、私は「センチメンタル」はAKB48の「恋するフォーチュンクッキー」の元ネタなのではないかと思っています。「恋する~」は幅広い世代に受け入れられ、ちょっとした旋風を巻き起こしました。
「センチメンタル」や「ペイパームーン」の発売当時に学生だった世代が親となり、その子供達の世代が「恋する~」に熱狂した。その事を考えると感慨深いものがあります。音楽の輪廻転生ですね。
また、ファンキーというかディスコ調のアレンジがカッコ良い大橋さんの二曲では、ツインドラムの構成が最大限の効果を生み出し、それはそれは力強いダイナミズムを体感させてくれました。そのダイナミズムはクラシックのオーケストラにも引けを取らないもので、これには井上艦さんのアレンジの素晴らしさを再確認してしまいました。大瀧詠一さんの信頼が厚かった事も頷けます。
続いて、石川ひとみさんの「三枚の写真」。
石川さんが登場された瞬間に、元親衛隊の方からと思しき声援が飛んだのが印象的です。曲調としては下手すると演歌になってしまいそうな雰囲気がありますが、決して暗い気分では終わりません。これは女性の強さを感じさせる内容だからだと思いますが、この決して後ろ向きでは終わらないという特徴があるからこそ、松本隆さんの詞は広く受け入れられ長年にわたり親しまれているのだと思います。
②に続く。