1984年9月5日発売のLP「シンデレラ」に収録。作詞・作曲 竹内まりや。
ではコード進行を。
「憧れ」
Intro.
A♯m/A♯m/F♯M7/F♯M7
D♯m7/D♯m7/Fsus4 F/Fsus4 F
A.
A♯m/A♯m/F♯M7/F♯M7
G♯sus4 G♯/G♯
C♯sus4 C♯/A♯sus4 A♯
B.
D♯m7/G♯7/Fm/A♯m
D♯m7/D♯7 on E/Fsus4 F7/Fsus4 F
A.
A♯m/A♯m/F♯M7/F♯M7
G♯sus4 G♯/G♯
C♯sus4 C♯/A♯sus4 A♯
B'.
D♯m7/G♯7/Fm/A♯7
D♯m7 /G♯7/C♯add9 C♯/A♯sus4 A♯7
サビ.
D♯m7 G♯/C♯ A♯m
D♯m7 F/A♯m A♯7
D♯m7 G♯/C♯ A♯m/D♯m7 F
間奏.
A♯m/A♯m/F♯M7/F♯M7
D♯m7/D♯m7/F♯/F♯
A♯m G♯/A♯m G♯
A.
A♯m/A♯m/F♯M7/F♯M7
G♯sus4 G♯/G♯
C♯sus4 C♯/A♯sus4 A♯
B'.
D♯m7/G♯7/Fm/A♯7
D♯m7 /G♯7/C♯add9 C♯/A♯sus4 A♯7
サビ.
D♯m7 G♯/C♯ A♯m
D♯m7 F/A♯m A♯7
D♯m7 G♯/C♯ A♯m/D♯m7 F
サビ'.
A♯sus4 A♯
D♯m7 G♯/C♯ A♯m
D♯m7 F/A♯m A♯7
D♯m7 G♯/C♯ A♯m/D♯m7 F
Outro.
A♯m/A♯m/F♯ Fm7/D♯m7 Fm7/A♯m add9
さらっと聴けてしまうアレンジですが、コード進行を紐解いてみるとやはり随所にスパイスが効いております。
便宜的にAメロBメロで分けましたが、ここのメロディ自体はひと繋がりになっています。ここは繰り返しなしの一筆書きメロディであり、ちょっと筒美京平的な要素がありますね。
で、Bメロにあたる部分は2パターン。
“コートの片隅でときめく”という歌詞で始まる、この1パターン目の流れが素晴らしいですね。ここは次にサビではなくAメロに繋がるため、最後のコードがF7。
このF7までの流れを美しくしているのが“D♯7 on E”の存在です(dimにも解釈できますが、ベース音の自然な流れを強調したいためonコード表記にします)。
このコードは単体で聴くと非常に不安定な響きなのですが、ここの部分の歌詞に“私に気づくかしら”という不安な気持ちを表す歌詞を乗せています。これは前回書いた「リトル・プリンセス」のコードと歌詞の関係に続き、意図的なものなのでしょうか。
いずれにせよ、歌詞とサウンドのリンクがまたまた素晴らしいのであります(´Д` )。
そして上がどこまで出るかではなく、下がどこまで出るかに合わせたと思われるkey設定もあり、有希子さんの声の魅力が上手く活かされたアレンジに仕上げられていると思います。
その事もあり全体的に“しなやかさ”や“柔らかさ”、そして“優しさ”というものが感じられ、それこそがこの曲のテーマだという気がします。
サウンド的には金物が抑えられたドラム(スネアの音もマイルドです)、ソフトなシンセサイザー、ストリングス等々で、鋭さを感じさせる音はギターのカッティング程度。とにかく岡田有希子という歌手の素晴らしい声を最大限に活かそうという意図が伝わってくるようで、思わずジーンときてしまいますね。
そして歌詞の言葉の選び方にも、そのこだわりが見え隠れします。
サビの出だしの歌詞の“憧れは”で、スタッカート気味に最も強調される音は“あ”。
次に同じメロディが繰り返される箇所は“いつの日か”で“い”。
最後は“汗をふく”で“あ”。
サビの最も強調される単語に柔らかい響きの言葉、それも「あ行」で始まる言葉を選んでいます。これは歌声も一つの音として捉え、有希子さんの声の特性を引き出そうとしたのではないでしょうか。これがもし「か行」で始まる歌詞だとしたら、中々に攻撃的な雰囲気になってしまい曲のイメージも崩れていた事でしょう(か行を強調して攻撃的なイメージを演出した例としては、Perfumeの「チョコレイト・ディスコ」がありますね)。
そしてここからが肝心です。
ご存知の通り、サビの一番最後の歌詞は“誰もが”で出だしが「あ行」ではありません。しかしそこの「あ行」が乗っていた音はその直前の歌詞“そんな彼に”の「に」の語尾の母音の「い」になっています。これによりサビの最初のスタッカート気味に強調される音符にのる言葉は、見事に“あ”と“い”で統一されているのです。
分かりやすく書き出すと…、
あっこが~れは、女の子を~
いっつの日か、
あっせをふく、横顔が優しそう
(そんな彼にぃ)
いっ、誰もが、
これはもう意図的なものでしょう。お見事!です(´Д` )。
これらは非常に細かい事に思えますが、大滝詠一さんもこれにはこだわりを見せていた事で有名です。この辺りのことが実は曲のイメージを大きく左右している事を、私は大滝師匠にならい主張したいのであります。
「シンデレラ」に提供された竹内まりやさんの曲を聴くにつけ、岡田有希子さんのイメージと曲のイメージのリンクの仕方には毎回感銘を受けてしまいます。
よくもまあこんなに見事に歌い手の人柄とイメージを、POPSというフィクションの世界に描き出したものだなと思います。どうせなら竹内まりやプロデュースで、1枚まるまる作って欲しかったなぁ…なんて妄想してしまいますね(´Д` )。
「憧れ」は、岡田有希子と竹内まりやの奇跡的な回向が生んだ素晴らしい名曲です。
願!「シンデレラ」リマスター&紙ジャケ化!☆