このブログでは、ボードゲーム以外のアナログゲームも取り上げて行きたいと思う。
かつて80年代中~後半にかけて一大ブームを引き起こしたゲームがあった。
それがゲームブックである。
基本的なスタイルは小説なのだが、途中で以下のような選択肢が出てくる。
○○なら ⇒2へ進め
××なら ⇒4へ進め
この自分で選んだ選択肢によって、物語が変化していき、
ハッピーエンドやバッドエンドなど、複数の結末にたどり着くというものだ。
「ファミリーコンピュータ」(ファミコン)の発売が1983年で、
「スーパーマリオブラザーズ」が1985年。
世の中にはコンピューターゲームが浸透し始めたものの、
まだまだコンピューターゲームは単純でストーリー性の低いゲームが多い時代だった。(ちなみに「ドラゴンクエスト」の「1」が発売されたのは1986年)
確か1985年のことだったと思うが、友達からすごい本があると言われて紹介されたのが、スティーブ・ジャクソン/イアン・リビングストン共著「火吹山の魔法使い」。
ゲームブックとのファーストコンタクトだった。
リアル世代でなくとも、RPGやTRPGを経験されている方なら
このタイトルは耳にしたことはあるだろう。
著者のスティーブ・ジャクソン、イアン・リビングストンの2人は共にイギリス人で、最初はアメリカ発の「ダンジョンズ&ドラゴンズ」(D&D)を楽しむゲームファンだったようだ。
この2人の天才が作り出した最初のゲームブックが「火吹山の魔法使い」。
1作目にして非常に完成度が高いものだった。単なる番号(パラグラフ)をたどっていくだけではクリアできず、サイコロを振って戦闘をしたり、謎を解いて、迷路をクリアする必要がある。
「ダンジョンズ&ドラゴンズ」の影響を受けながらも独自のゲームシステムを構築し、そしてそれはほぼ完成されていた。
このゲームシステムを中心としたゲームブックは「ファイティング・ファンタジー」シリーズと呼ばれ、世界中で一大ブームを巻き起こすことになる。
(2023/11/15追記)
現在「FF」と言えばスクウェア・エニックスの「ファイナル・ファンタジー」とそのシリーズを連想される方が大半だと思われるが、1980年代末ぐらいまでは「FF」は「ファイティング・ファンタジー」の略称として使われることが多かった気がする。
第1作「火吹山の魔法使い」は、友人に借りて初めて読んだのだが、
その衝撃はあまりに大きく、すぐに自分でも本を購入した。
当時通っていた塾の宿題もそこそこに、何度もチャレンジし、何度も失敗した。
「指セーブ」や「順番読み」と言ったチート技を駆使して、どうにかクリアできたものの、ちゃんとプレイしてクリアできたのは、その後何年も経ってからだった。
イアン・リビングストン作品の特徴としては、
個人的には以下の3点を挙げたいと思う。
・揃えられそうで揃えられない「アイテム」
・書けそうで書けない「マップ」
・辿り着いてもクリアできない「ゴール」
「アイテム」については、
「火吹山」の鍵、「死のワナの地下迷宮」の宝石が代表的だろう。
中にはダミーのアイテムもあって、自分が集めたものが正しいものなのか、
ゲームオーバーになっても分からないような仕組みになっている。
これには実に苦しめられた。
次に「マップ」。
基本的に一方通行で後戻りできないことが多いのだが、途中で分岐したり、再度合流したり、落ちたり、流されたりして、自分の居場所を見失うような仕掛けがそこら中にある。結果、二度目にチャレンジしてもあまり役に立たないマップが出来上がるのだ。
実は2018年に日本語版が発売された「アドバンスト・ファイティング・ファンタジー第2版」(AFF2e)シリーズでは、「火吹山」や「バルサス」のシナリオが発売されており、そこにゲームブック版に準拠したマップが記載されている。これまでマップの描き方に頭を悩ませてきた方々に光をもたらしてくれるのは確かだが、これらの「正解」は、一度自らの手でゲームをクリアした後でご覧になることをおススメする。
そして「ゴール」。
イアン・リビングストン作品では、ラストの敵やその直前までは比較的容易に辿り着くことができるようになっている。
しかしアイテムが足りなかったり、謎を解いていなかったりして、あと一歩がクリアできない。「火吹山」でも何度も悔しい思いをした。
しかしその謎を自分で解けたときの達成感。これは何にも言い表すことができないものがある。
イアン・リビングストン作品の特徴について触れたところで、
「ファイティング・ファンタジー」シリーズの個人的なベスト5を挙げてみたい。
・第1位:「モンスター誕生」(No.24) スティーブ・ジャクソン著
・第2位:「火吹山の魔法使い」(No.1) スティーブ・ジャクソン/イアン・リビングストン著
・第3位:「地獄の館」(No.10) スティーブ・ジャクソン著
・第4位:「盗賊都市」(No.5) イアン・リビングストン著
・第5位:「死のワナの地下迷宮」(No.6) イアン・リビングストン著
※カッコ内番号は出版順序。
実に5作中3作がイアン・リビングストンである。
でも2位は共著だし、1位と3位も違うじゃないかと思われるかもしれない。
しかし2023年の現在も新作のゲームブックで遊ぶことができるのは、イアン・リビングストンの力によるところが大きいと思われる。
ゲームブックの火が消えかかった(消えていた)時期に、彼が良質の作品を出してくれて、つないでくれたおかげと言って良いだろう。
ちなみにイアン・リビングストンはゲーム業界への貢献が認められ、2022年にナイトの爵位を授与されている。「サー・イアン・リビングストン」なのである。
そして1,2,3位のすべてに名前を挙げたスティーブ・ジャクソン。
彼もまた天才なのである。彼の作風とその作品の素晴らしさについては、別の機会に触れたいと思う。
さてこのブログを読んで、ゲームブックそして「火吹山の魔法使い」が気になった方。今から日本語版を入手するとしたら、以下の3つの選択肢があるだろう。
・社会思想社・現代教養文庫版(1984年発行)
・扶桑社版(2005年発行)
・「ファイティング・ファンタジー・コレクション」グループSNE版(2021年発行)
残念ながらどれも絶版となっていて、中古品を購入するしかない。
このうち、グループSNEから発行された「ファイティング・ファンタジー・コレクション」は、5冊がセットになったBOX。
「火吹山の魔法使い」に、続編で日本未発売だった「火吹山の魔法使いふたたび」。
初期の秀作「バルサスの要塞」に「盗賊都市」。そしてスティーブ・ジャクソンの最高傑作にして、ゲームブックの最高峰と言っても過言ではない「モンスター誕生」。
どれもが主力級、最強すぎるラインナップである。
当時は定価7500円+税だったのが、
現在ではプレミア価格となっていて、約3倍ぐらいの値段になってしまっている。
そのため初心者の方であれば、社会思想社版か、扶桑社版の中古品の購入をお勧めしたい。
※以前コレクションBOX第2弾発売の際に、第1弾も一度再販されたことがあるので、それに一縷の望みを託すという選択肢もある
(2023/12/22追記)
別のブログでも記載した通り、BOX第1弾は再販されることになった。
定価は少しだけ値上がりして7800円+税になったものの、
これまでプレミア価格に手を出さずに待っていた方々は、この機会を逃さずに入手いただきたい。
(これが最後の再販になる可能性が高いと思われる)
「火吹山」にこだわらないけど、ハイレベルなゲームブックを体験したい方には、
ファイティング・ファンタジー・コレクションのBOX第2弾、「レジェンドの復活」をおススメしたい。定価7500円+税のところ、現在Amazonでは定価よりもちょっとお安く販売されているようだ。
個人的なベスト5のうち2作、「死の罠の地下迷宮」(なぜかワナが漢字になった)と、
「地獄の館」が入っているし、アメコミワールドでヒーローとなって活躍する「サイボーグを倒せ」が入っているのも嬉しい。
そして90年代に日本で発売されなかった「魂を盗むもの」、2017年にイアン・リビングストンが発表した「危難の港」の5作という豪華なラインナップだ。
既に生産は終わっているので、現在の市場の在庫がはけたら、後は価格が上がるだけだろう。投資目的で購入してみる選択肢もあるかもしれない。
もちろん自分でも購入済。将来的にプレミアがつくことは確実なので、場所的な余裕さえあれば買い増ししたいぐらいだ。
イアン・リビングストンのファンであれば、もう1つ外せないセットがある。
ファイティング・ファンタジー・コレクションのBOX第3弾、「巨人の影」だ。
全5作がイアン・リビングストン著で、2019年に発表された「アランシアの暗殺者」、2022年(!)に発表された「巨人の影」が収録されている。
加えて「ファイティング・ファンタジー」シリーズ初期の良作「運命の森」「雪の魔女の洞窟」「トカゲ王の島」と来れば、これは買わない手はない。
実はこちらのセットは7/16発売で、現時点(7/5)ではまだ世の中に出回っていない。
あと10日ぐらいで手元に届くのが実に待ち遠しい。
過去のボックス同様、こちらも完全受注生産で、既に5月に受注は締め切っているのだが、Amazonが大量発注したようで、まだ注文可能だ。
(※7/5追記:発売日は当初7/16だったはずだが、日曜日と重なることもあり、現在は7/14発売になっているようだ)
これまで数々のチャンスを逃してきた、
オールド・アナログ・ゲーマーからのアドバイスはただ一つ。
「買えるときが買い時」
次回はもう一人の天才、スティーブ・ジャクソンについて触れたいと思う。