評価 10点満点中10点
【ネタばれ注意】
以下の文章には作品の内容に触れた部分があります。ご注意ください。
「時をかける少女」「サマーウォーズ」の細田守監督の最新作と
いうことで、期待して公開初週に見に行ったわけだが。
期待は裏切られなかった。というか、オタク的に言うと
いわゆる「ナナメ上」という奴。
テレビスポットなどの事前の宣伝を漠然と見る限りでは
こんな映画だとは思わなかった。いい意味で予想外。
予想外という印象は、この映画を見た多くの人が感じたのでは
ないだろうか。
この物語は、成長する子供と、その子供を育てる母親を描いた作品だ。
「おおかみこども」というモチーフが現実に準拠しない
ものであることから、それが異端を示す記号であると考えて、
物語全体を寓話的にとらえることも可能けれども、僕としては
それは無粋な考えに思える。
今書いたように、見る者はこの作品を
「成長する子供と、その子供を育てる母親を描いた作品」と
自然に受け取るのがベストなのだと思う。
作品の空気感は、いわゆる「アニメ的」ではない。
アニメで自分の知る限りいちばん近い空気感の作品は
古い作品だが、高畑勲監督の「おもひでぽろぽろ」だろう。
物語のベクトルが「都会→農村」であることや、演出が
淡々とした描写を積み重ねていく形式であることで
類似した空気が醸し出されるのだろうか。
しかし、この「おおかみこども」には、高畑作品と方向性で
根本的に異なっている部分がある。
それは、この作品の主題でもある「育てる母親」の存在だ。
「アルプスの少女ハイジ」「母をたずねて三千里」「赤毛のアン」
「火垂るの墓」など、高畑の作品には不思議と「育てる母親」の
姿が欠けている。
それに対して「おおかみこども」では、人間と獣の間にある
異端の子らを扱いながら、作品全体を貫いていたのは
子を育てる母親の視点であった。
この点を踏まえると、空気感では似通っていながら
「おおかみこども」は、これまで描かれなかった対象に
挑んだ意欲的な作品だったと言える。
この文章の冒頭に書いた「事前宣伝から受けた印象と実際に見た
作品の印象の乖離」は、宣伝戦略としては珍しいものではない。
恐らく、この作品の宣伝戦略も「家族連れ」だったに違いなく、
だからこそ印象の乖離が起こったのだと思うが、
子供向けの甘ったるい動物ものだと思い込んで見に行ったら
中身は親世代に向けた硬派な作品だと知って
(いい意味で)茫然とする親が続出する事を願うのみである。