【以下の文章は作品内容の暴露(いわゆる「ネタバレ」を含みます)】

「失踪日記」吾妻ひでお:著 

昨年話題になったマンガである。遅ればせながら購入して読んだ。

知らない方のためにあえて内容をかいつまんで説明すると

表題のとおり、著者が実際に失踪した日々の記録である。

執筆活動を放置し、家族をほったらかして、ある日失踪。

ホームレス生活。警察に保護され家族の元へ。

二度目の失踪。素性を隠してガス配管工として働く。

発覚して家族の元へ。多忙な売れっ子時代の回想。

アルコール依存。幻覚症状。

精神病院に強制入院。治療の日々。

作品のための取材としての「失踪」ではない。

著者は実際に、死んでも不思議ではない状況を何度も経験する。

いくつかの批評にも書かれているが

この作品のキモは、描かれている内容と文体のギャップである。

(この場合の「文体」とは、マンガという表現媒体における表現手法

のことであり、具体的にはコマ割り、ネーム構成、デフォルメなどの

その人独自のパターン、とでも考えていただきたい。)

ひとつひとつのエピソードは恐ろしく悲惨だ。

しかし、文体はドライで表層的で、

レストランの表に飾られている料理のイミテーションのように

感情移入を許さない。

リアリティの要請に対して負の要素となるはずのこの文体が

逆に悲惨な実態を読む者にイメージさせ

強い演出効果を生じさせている。

マンガという表現媒体の奥深さに思いを致すことができる

買って損のない一冊である。